創傷の観察ポイント|看護師が押さえる5つの視点とTIME概念
2026-05-18
この記事でわかること
- ✓ 公式スコアがない傷でも「観察を揃える」と申し送りが変わる
- ✓ TIME概念(T・I・M・E)——創傷を見る4つの視点
- ✓ 創傷観察の5つのポイント(サイズ・組織・滲出液・感染兆候・周囲皮膚)
- ✓ 観察を「共通言語」にする3つのコツ(選択肢化・写真撮影・申し送りテンプレ)
- ✓ 「出血=悪いこと?」など新人がよく混乱するポイント
- ✓ 創傷タイプ別の追加観察ポイント(術後創・スキンテア・下腿潰瘍・IAD)

「この傷、昨日と比べてどうでしょう?」
勤務交代の申し送りで、こんな問いに自信を持って答えられたことはありますか?
褥瘡なら DESIGN-R®2020 という公式スコアがあります。でも、術後創・スキンテア・下腿潰瘍など、入院時から持ち込まれる多くの傷には公式スコアがありません。だから観察項目も、評価の言葉も、看護師ごとにバラついてしまう——。
この記事では、創傷観察の国際的なフレームワークであるTIME概念を軸に、現場で「明日から使える」5つの観察ポイントと、チームで観察を共通言語化する3つのコツを整理します。
1. 公式スコアがない傷、どう評価していますか?
入院してくる患者さんの中には、すでに創傷を抱えて来られる方が少なくありません。転倒による大きな剥離、慢性の下腿潰瘍、退院後の術後創、失禁による皮膚障害——。毎日処置をしながら、ふと気づくことはありませんか。
「昨日と比べてどうなのか、はっきり言えない」
褥瘡には DESIGN-R®2020 という日本褥瘡学会が定めた公式スコアがあります(日本褥瘡学会, 2020)。点数で表現できるから、誰が見ても変化が分かる。でも、それ以外の創傷には統一されたスコアがありません。
その結果、現場ではこんなことが起きがちです:
- 滲出液「やや多め」「中等量」「ふつう」——看護師ごとに言葉が違う
- 「発赤あり」だけ書いても、どの範囲・どの程度かが伝わらない
- 写真がないから、「昨日より良い/悪い」が言葉だけの主観になる
- 申し送りで「何をどう伝えるか」迷う——結局「変化なし」で済ませてしまう
この「観察のバラつき」は、ケアの質に直結します。早期に気づけたはずの感染を見逃したり、ドレッシング材の選択を誤って浸軟させてしまったり——。
でも、安心してください。観察項目を統一するだけで、申し送りもケアも変わります。そのための土台が、次にお話しするTIME概念です。
2. TIME概念|創傷を見るときの4つの視点
TIME概念は、2003年に Schultz らが発表した「Wound Bed Preparation(WBP:創面環境調整)」という枠組みの中で提唱された、創傷を観察・評価するためのフレームワークです(Schultz et al., 2003)。
国際的には EWMA(European Wound Management Association)が積極的に推奨し、欧米では創傷管理のスタンダードになっています。日本でも日本創傷・オストミー・失禁管理学会(JWOCM)や日本褥瘡学会で取り上げられており、WOC認定看護師や形成外科医にとっては「常識」と言える概念です。
ただ、専門領域では広く知られる一方、一般病棟では日常語としては定着しきっていないこともあるのが現状。看護学校の教科書にも載っているのですが、「専門用語で難しそう」と敬遠されがちなんです。
でも、TIME概念は本来、現場で毎日使える"観察の視点"です。難しく考える必要はありません。
TIMEの4文字の意味

| 文字 | 意味 | 観察すること |
|---|---|---|
| T | Tissue(組織) | 壊死組織はあるか/肉芽の状態は/上皮化は進んでいるか |
| I | Infection / Inflammation(感染・炎症) | 発赤・腫脹・熱感・疼痛・におい・滲出液の性状 |
| M | Moisture(湿潤) | 滲出液の量、創床の湿り具合(乾きすぎ/湿りすぎ) |
| E | Edge(創縁・周囲皮膚) | 創縁の上皮化、周囲皮膚の浸軟・硬結・びらん |
つまり、TIME概念とは「創傷を見るときの4つのチェック項目」。これにサイズを加えれば、創傷観察の主要な視点はほぼカバーできます。
3. 創傷観察の5つのポイント
TIME概念をベースに、サイズを加えた5つの観察ポイントを整理します。各ポイントには、現場でよく挙がる「迷いどころ」への答えも添えます。

① サイズ(大きさ・深さ)
測り方:
- 長径:創傷の最も長い部分の直径
- 短径:長径に直角に交わる部分の最大径
- 単位はmm単位で記録
- 深さは、ポケットや潰瘍の深さを必要に応じて測定
現場でやりがちな失敗:
体位を変えるとサイズも変わって、比較できなくなった
これ、本当に「あるある」です。毎回同じ体位で測ることが鉄則。下腿潰瘍なら「仰臥位、膝伸展」のように、測定時の体位を申し送りに記載しておくと、次の人も同じ条件で比較できます(日本褥瘡学会, 2020)。
「サイズの測り方が本によって違う」と感じる方も多いですが、長径×直角の短径を基本とする方法は、DESIGN-R®2020 でも採用されており、現状の標準と考えていいでしょう。
② 組織(T:Tissue)
創床(傷の床)にどんな組織があるかを観察します。
| 組織のタイプ | 見た目 | 治癒段階の目安 |
|---|---|---|
| 壊死黒色組織 | 黒く硬い | 治癒が進んでいない |
| 壊死黄色組織(スラフ) | 黄色・灰色のドロッとした組織 | 除去が必要 |
| 肉芽組織 | 鮮やかな赤色、粒状 | 治癒進行中 |
| 上皮組織 | ピンク色の薄い皮膚 | 治癒終盤 |
「壊死が多い → 肉芽が増えてきた → 上皮化してきた」という順で観察すると、治癒の進み具合が見えてきます(日本皮膚科学会, 2023)。
なお、肉芽が豊富な創では、処置時の軽微な点状出血がみられることがあります。これは肉芽組織の血流が豊富なためで、必ずしも異常ではありません。「出血=悪いこと」と思われがちですが、新人さんがよく混乱するポイントです。ただし、大量出血・止血困難・拍動性の出血は別物として報告が必要です。
③ 滲出液(M:Moisture)
滲出液の量と性状(色・粘性)を分けて記録します。
量の判定基準(現場での目安):
- 少量:ドレッシング材の25%未満が湿っている/1日1回未満の交換で対応可能
- 中等量:ドレッシング材の25〜75%が湿っている/1日1〜2回の交換が必要
- 多量:ドレッシング材の75%以上が湿っている/1日2回以上の交換が必要
DESIGN-R®2020 では、1日1回未満の交換を [e]、1日1回以上の交換を [E] と表現します(日本褥瘡学会, 2020)。これを参考に、自施設で「少量/中等量/多量」の基準を決めておくと、看護師間のバラつきが減ります。
性状の観察:
- 漿液性(しょうえきせい):透明〜淡黄色、サラサラ → 正常治癒の証
- 血性:赤色 → 処置中の軽い滲み出しは肉芽の血流豊富さの表れで正常範囲。注意すべきは突然の大量出血・止まらない出血・拍動性(動脈性)出血
- 膿性:黄色〜緑色、粘性あり、悪臭 → 感染を疑う
新人さんからよく聞かれるのが「滲出液が多い/少ないの基準は?」という質問。これは「ドレッシング材の汚染範囲」「交換頻度」を自施設で揃えることから始めましょう。
④ 感染・炎症(I:Infection / Inflammation)
感染兆候は、古典的5徴候で覚えるのが基本:
- 発赤(赤くなる)
- 腫脹(腫れる)
- 熱感(熱を持つ)
- 疼痛(痛みが強くなる)
- 機能障害
加えて、現場で重視すべき2つの兆候:
- におい(特に膿臭は感染の重要なサイン)
- 滲出液の性状変化(透明 → 黄緑色、粘性が出る)
ベテランの看護師さんに教えてもらったコツですが、「におい」は感染の早期発見にとても役立ちます。視覚的には分かりにくくても、嗅覚で「あれ、いつもと違う」と気づける——これは現場の知恵です。
「この発赤、どこからが感染ですか?」という質問もよく受けますが、判断のポイントは「発赤が創縁から外側に広がっているか」「他の兆候(熱感・疼痛・におい)を伴うか」。創縁ぴったりの軽い発赤は治癒過程でも見られますが、外側に広がる発赤+熱感+疼痛は感染を強く疑う臨床サインです。
迷ったら、医師や WOC 認定看護師に相談してください。判断を一人で抱え込まないことが大事です。
⑤ 周囲皮膚と創縁(E:Edge)
創傷は「傷そのもの」だけでなく、周囲の皮膚にこそヒントが隠れています。
| 観察項目 | 意味すること |
|---|---|
| 浸軟(白くふやけている) | 滲出液 or ドレッシング材で湿りすぎている |
| 発赤 | 接触皮膚炎、感染の波及 |
| 硬結 | 慢性炎症、線維化 |
| びらん | 浸軟の進行、テープ・滲出液による損傷 |
| 上皮化が進んでいる | 治癒順調のサイン |
ドレッシング材の選択ミスで浸軟させてしまった——これは新人もベテランもやりがちな失敗です。「湿潤環境を保つ」が大事だからといって、過度に湿らせてはいけません。滲出液の量に応じて、吸水力のあるドレッシング材を選ぶことが基本です(ドレッシング材の選び方は奥が深いテーマなので、別の記事で詳しく扱う予定です)。
4. 観察を「共通言語」にする3つのコツ
5つの観察ポイントを覚えても、チーム全員が同じ言葉で記録できなければ、申し送りは噛み合いません。ここからは、観察を共通言語化する具体的なコツを3つ紹介します。

コツ① 選択肢化する(書くより選ぶ)
自由記述だと、言葉が人によってバラつきます。選択肢を決めておくだけで、観察は驚くほど揃います。
例:自施設用の観察セット
サイズ:[長径×短径] mm(体位:◯◯) 組織:[壊死黒色/壊死黄色/肉芽/上皮] 滲出液量:[少量/中等量/多量] 滲出液性状:[漿液性/血性/膿性] 感染兆候:[なし/発赤あり/熱感あり/におい(膿臭)あり] 周囲皮膚:[正常/発赤/浸軟/硬結/びらん] 疼痛:NRS 0〜10 処置内容:[洗浄/被覆材/軟膏/その他]
「書く」ではなく「選ぶ」にすることで、勤交代時に「昨日と何が変わったか」が一目で分かります。これはTIME概念の項目をほぼカバーしているので、エビデンスベースの観察セットとも言えます。
コツ② 写真を活用する(言葉より画像)
経過共有に非常に有効な手段の一つが写真です。文字でいくら詳しく書いても、「実際の見た目」には敵いません。
撮影のコツ:
- 同じ角度・同じ距離で撮る(毎回違うと比較できない)
- 定規(メジャー)を一緒に写す(サイズの目視確認ができる)
- 明るさを確保する(暗いと色調が分からない)
- 創周囲の油性ペンマーキングで経過比較を補強する
「写真ってどのくらいの頻度で撮ればいいですか?」とよく聞かれますが、頻度は施設の運用ルールに従いましょう。原則は「比較が必要なタイミングで、同条件で撮影する」。例えば、処置内容や治癒経過を共有したい節目(処置変更時・週単位の経過確認時など)が一般的です。
重要なのは患者さんへの同意と個人情報の取り扱いです。「記録のために写真を撮らせてください」と必ず一声かけ、施設の規定に沿って同意を確認してください。撮影機器の選定(私物スマホの可否など)・保管方法・破棄ルールは所属施設のポリシーに必ず従うこと。識別子のみで管理し、目的外利用を避ける——これは医療従事者の倫理的責任です。
コツ③ 申し送りテンプレを作る(伝わる順番)
報告するとき「何をどう伝えるか」迷ったら、順番を決めておくのが効きます。
おすすめのテンプレ:
(部位)◯◯部の創傷 (サイズ)長径×短径 = ◯×◯mm(昨日と比較:変化なし/拡大/縮小) (組織)肉芽中心、壊死なし (滲出液)中等量、漿液性 (感染兆候)なし/発赤あり(範囲) (周囲皮膚)正常/浸軟あり (処置)生食洗浄、ハイドロコロイド貼付
実際の申し送りなら:
「◯◯部の創傷、サイズ変化なし、滲出液↓、周囲発赤なし、処置同様で続行です」
この順番のテンプレがあるだけで、報告者の負担も、聞き手の負担も激減します。SBAR(Situation-Background-Assessment-Recommendation)に乗せれば、医師への報告にも応用できます。
5. 創傷タイプ別の追加観察ポイント
5つの基本ポイントは共通ですが、創傷のタイプによって追加で見るべき項目があります。ここでは要点だけ簡潔に整理します(詳細は今後、各テーマで別記事を予定)。
術後創(縫合創)
発赤・腫脹・熱感・疼痛・滲出液の感染5徴候を中心に、縫合部の離開や癒合の状態を観察します。抜糸時期は部位により 7〜14 日が目安です。
スキンテア(皮膚裂傷)
高齢者に多い、摩擦やずれで起こる急性の裂傷。STAR分類で皮弁の有無と色調を評価します(日本創傷・オストミー・失禁管理学会, 2015)。
下腿潰瘍
原因によって対応が変わるため、まず動脈性・静脈性・糖尿病性の鑑別が重要です。医師と連携してABI(足関節上腕血圧比)を確認することが出発点になります。
IAD(失禁関連皮膚障害)
尿・便失禁による炎症性皮膚障害。IAD-setで発赤・浸軟・びらんを評価し、失禁ケア(清拭・撥水剤)と組み合わせて対応します(日本創傷・オストミー・失禁管理学会)。
6. まとめ|創傷観察は「視点」を持つことから
創傷観察は、5つのポイントで見れば誰でも揃えられます:
- サイズ(mm、毎回同じ体位で)
- 組織(T:壊死/肉芽/上皮)
- 滲出液(M:量と性状)
- 感染・炎症(I:発赤・腫脹・熱感・疼痛・におい)
- 周囲皮膚と創縁(E:浸軟・発赤・上皮化など)
そして、3つのコツで観察を共通言語化できます:
- 選択肢化(書くより選ぶ)
- 写真活用(言葉より画像、同意とルール順守が前提)
- 申し送りテンプレ(順番を決めておく)
公式スコアがない傷でも、観察項目を揃えるだけで「昨日と何が違うか」が見えてきます。それは、医師への報告、ドレッシング材の選択、そして患者さんへの説明、すべての質を底上げします。
明日のシフトから、まずは「観察の順番を決める」「施設ルールに沿って記録の残し方を揃える」——ここから始めてみませんか。

参考文献・出典
ガイドライン・公的文書
- 日本皮膚科学会(2023)『創傷・褥瘡・熱傷ガイドライン(第3版)』
- 創傷一般:sousyou2023.pdf
- 褥瘡診療:zyokusou2023.pdf
- 下腿潰瘍・下肢静脈瘤:kataikaiyou2023.pdf
- 日本創傷・オストミー・失禁管理学会
- スキンテア(皮膚裂傷)の予防と管理:jwocm.org/topics/wound-care/w-003/
- IAD(失禁関連皮膚炎)の予防と管理:jwocm.org/topics/incontinence-care/c-001/
- STARスキンテア分類 日本語版:starJapaneseFinal.pdf
書籍
- 日本褥瘡学会(編)(2020)『改定 DESIGN-R®2020 コンセンサス・ドキュメント』照林社
- 日本創傷・オストミー・失禁管理学会(編)(2015)『ベストプラクティス スキンテア(皮膚裂傷)の予防と管理』照林社
論文・国際文書
- Schultz, G.S. et al.(2003)"Wound bed preparation: a systematic approach to wound management." Wound Repair Regen, 11(Suppl 1), S1-S28.
- European Wound Management Association (EWMA)(2004)Position Document: Wound Bed Preparation in Practice. MEP Ltd.
※本記事は専門医・WOC 認定看護師による監修を経ていません。ご使用の際は最新のガイドラインや所属施設の基準もあわせてご確認ください。
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この記事を書いた人
臨床ナースラボ 管理者現役看護師
日々の臨床で感じた「これ、もっと早く知りたかった」をもとに、チームで判断を揃えるための知識とツールを作っています。