報告・記録

SBAR完全ガイド|「で、何して欲しいの?」と言われない医師報告と病棟内で判断を揃えるための実践ガイド

2026-05-09

この記事でわかること

  • ✓ SBARは業務手順ではなく「患者安全のための共通言語」
  • ✓ 4要素(S・B・A・R)の意味と順番
  • ✓ SBARとSOAPの違い——「伝える」と「残す」
  • ✓ 派生形(ISBAR・ISBARC・I-PASS・申し送り)の使い分け
  • ✓ Assessmentが書けない問題への3ステップ
  • ✓ 電話前30秒のメモで報告の質が変わる
  • ✓ 症状別「悪い報告→良い報告」書き換え集(既存記事へのハブ)
  • ✓ 失敗パターン5選とチーム運用Tips・Q&A 10問

「で、何して欲しいの?」

「もう一回、最初から」

「焦らないで、ゆっくり」

医師に電話で報告したあと、こう言われた経験はありませんか?落ち込みますよね。一生懸命報告したのに、医師の頭の中に何も入っていなかった——そんな感覚。

実はこれ、「報告の仕方が悪い」のではありません。「判断を伝えられていない」のが本質です。看護師は「事実を報告すること」を目的にしてしまいがちですが、医師は「何が起きていて、あなたはどう判断していて、何をして欲しいのか」を聞いています。このズレを埋めるために生まれたのがSBARです。

1. なぜSBARなのか——患者安全のための共通言語

医療事故の背景に多い「伝達不全」

米国の医療認定機関 The Joint Commission によるセンチネルイベント(重大な医療事故)の根本原因分析では、コミュニケーション要因が一貫して上位に挙げられています。年や集計母集団により数値は変動するものの、「伝達不全」が事故の主要因の一つであることは医療界で広く認識されています。医療事故の多くは「治療の知識不足」「技術不足」ではなく、「伝え方の問題」で起きている——だからこそ、伝え方そのものを構造化するツールが必要になります。

TeamSTEPPSに採用されたSBAR

SBARは、米AHRQ(医療研究品質局)と国防総省が共同開発した医療チーム研修プログラム「TeamSTEPPS」に採用された、構造化コミュニケーションツールです。今では世界の多くの医療機関で、医療安全の基本フォーマットとして広く使われています。

「業務手順」ではなく「患者を守るフォーマット」

ここを誤解しないでください。SBARを使う理由は:

  • 業務効率化のため ✗
  • 医師への礼儀のため ✗
  • 患者の安全を守るため ⭕
  • 病棟全体で判断を揃えるため ⭕

新人も中堅も、夜勤も日勤も、同じ精度で「判断を伝えられる」ようになる——これがSBARの本来の役割です。

2. SBARの全体像——4要素

SBARの4要素
SBARの4要素:S→B→A→Rの順で報告すると、医師の頭の中に「現状→経緯→判断→次の一手」が組み立てられる
要素英語内容何を伝えるか
SSituation状況今、何が起きているか
BBackground背景経過・既往・治療歴
AAssessment評価看護師としての判断・推測
RRecommendation提案何をして欲しいか

順番が大事です。S→B→A→Rの流れで話すことで、医師の頭の中に「現状→経緯→判断→次の一手」が自然に組み立てられます。

3. SBARとSOAPの違い——「伝える」ためのSBARと「残す」ためのSOAP

SBARとSOAPの違い
SBARは「伝える」ためのツール、SOAPは「残す」ためのツール

SBARとよく混同されるのがSOAPです。両方とも医療現場で使われる構造化フォーマットですが、目的が大きく違います。

SBARSOAP
目的他人への口頭報告カルテへの記録
使う場面医師への電話・対面報告看護記録・経過記録
構成Situation・Background・Assessment・RecommendationSubjective・Objective・Assessment・Plan
Subjective/ObjectiveBに統合明示的に分ける
Recommendation必須(何をして欲しいか)なし(Planは「何をするか」)
タイミングリアルタイム事後

要するに:

  • SBAR=「伝える」ためのツール
  • SOAP=「残す」ためのツール

同じ事象でも、目的に応じて使い分けます。例えば、急変時に「SBARで医師に電話報告」した後、「SOAPでカルテに経過記録」する——という流れが典型的です。

4. 派生フォーマット——ISBAR・ISBARC・I-PASS・申し送り

SBARには場面に応じた派生形があります。新人さんは「まずSBARをマスター」が大事ですが、頭の片隅に置いておくと役立ちます。

フォーマット場面SBARに追加される要素
SBAR看護師→医師の口頭報告(標準)基本形
ISBAR患者特定が大事な場面I(Identity):自己紹介・患者特定を冒頭に
ISBARC急変・緊急時I + C(Confirm):復唱で確認
I-PASS主に医師シフト交代の引き継ぎ5要素の独自構造
申し送り看護師間(シフト交代)SBARを基盤にした病棟運用フォーマット

看護師の基本はSBAR、急変時はISBARC、患者特定が大事ならISBAR、というイメージで使い分けます。

5. 4要素の深掘り

ここから各要素を詳しく見ていきます。特にA(Assessment)が最大の壁なので、しっかり扱います。

S(Situation)——「何から話すか」問題

新人さんからよく聞く悩み:

「電話を取って、最初に何を言えばいいんですか?」

答えは、「今の状況」を1〜2文で。

✗ 悪い例:「えーっと、3病棟の山田さんなんですけど、昨日の手術で、術後の経過が…」

⭕ 良い例:「3病棟の山田さん、術後2日目で、急に血圧が60台に下がりました」

ポイントは:

  • 部屋番号・氏名を冒頭に置く(医師の頭の中で患者像が浮かぶ)
  • 緊急度・現状を1文で示す
  • 経過の説明は次のB(Background)に回す

ISBARでは「I(Identity)」として、自己紹介と患者特定を独立させます。「○○病棟の○○です、○○号室の○○さんの件で報告です」が冒頭。これだけで医師は受け止めの準備ができます。

B(Background)——「何を入れて何を入れないか」

Backgroundで詰まるのは「全部話そうとする」から。ルール:今回の事象に関係する経過・既往・治療歴に絞る。

✗ 悪い例:「○○病で5年前に入院、その後高血圧で内服、3年前に脳梗塞、今回は2日前に術後で…」

⭕ 良い例:「手術後2日目、術後出血のリスク管理中、降圧剤を内服中です」

判断軸:

  • 30秒で言える量にまとめる
  • 今の事象(S)と関連する情報だけ
  • 関係ない既往や治療歴は省く——医師は必要なら聞いてくる

A(Assessment)——「書けない」問題への3ステップ

ここが最大の壁です。新人さんがもっとも詰まるのがAssessment。理由は明確:

  • 「医師の判断と違ったら怖い」
  • 「自分の判断を言っていいの?」
  • 「そもそも何を判断したらいいか分からない」

でも、Assessmentがないと医師に「で、結局どう思ってるの?」と聞かれます。

Assessmentを書く3ステップ
事実 → 推測 → 自分の判断、の3ステップでAssessmentを組み立てる

Aを書く3ステップ

ステップ1:事実を並べる

「血圧60台、脈140、CRT3秒、末梢冷感」

ステップ2:推測を言語化する

「○○の可能性があります」「ショックバイタル、出血の可能性があります」

ステップ3:自分の判断軸を加える

「私は○○だと思います」「○○を疑います」「私はショックの初期だと判断しています」

✗「血圧が下がっています」(Aがない——事実だけ)

⭕「血圧が60台、出血の可能性があります。ショックバイタルだと思います」(事実+推測+判断)

「自分の判断を言うのが怖い」場合の言い回し

  • 「○○の可能性を考えました」(断定を避ける)
  • 「○○を疑っているのですが、いかがでしょうか」(医師の判断を仰ぐ姿勢)
  • 「○○ではないかと心配しています」(懸念として伝える)

新人時代は断定するのが難しい——だからこそ、「可能性」「疑い」「心配」という言葉を使えば、判断の表現をしつつ医師に最終判断を委ねられます。

R(Recommendation)——「何して欲しいか」を明示

「で、何して欲しいの?」と医師に言われる原因は、ほぼRの欠落です。ルール:「○○をお願いしたいです」を必ず添える。

例:

  • 「ご診察をお願いしたいです」
  • 「採血と心電図の指示をお願いしたいです」
  • 「輸液の指示をお願いしたいです」
  • 「指示が出るまでの間の対応をご相談したいです」

最後の「指示が出るまでの間の対応」は、新人さんが特に使える表現です。「自分で判断していい範囲」が分からない時、医師に判断を仰ぎつつ、それまでの対応の方針を相談する——という穏やかな伝え方になります。

Rで看護師が判断していい範囲は?

  • 病棟ルールに依存します
  • 「ベッドサイドモニター装着」「酸素投与開始」など事前指示がある項目は看護師判断OKのことが多い
  • それ以外は医師指示を仰ぐ
  • 病棟で「看護師判断OK・要医師確認」のリストを共有しておくと、新人が動きやすい

6. 電話前の30秒準備——「集中を切らない切り出し方」

医師に電話する前に、カードに書く30秒の習慣を作ると報告の質が一気に変わります。

電話前のカード

項目書くこと
S部屋・氏名・現状を1文
B関連する経過を箇条書き2〜3個
A推測+自分の判断
R何をお願いしたいか

これを電話の前にメモに書く。書くことで頭が整理される——これがSBARの隠れた効用です。

電話の切り出し方

医師の集中を切らない切り出し方の例:

「○○科の○○です、○○さんの件で報告です。今お時間よろしいですか?」

ポイント:

  • 誰なのか(自己紹介)
  • 誰の件か(患者特定)
  • 「今お時間よろしいですか?」(医師に「聞く準備」をしてもらう)

そして緊急度を冒頭で示します:

  • 「至急の相談です」
  • 「急ぎではないですが報告です」
  • 「判断に迷っているので相談したいです」

これだけで医師は「どのモードで聞くか」を決められます。

ただし、超緊急時はクッションを飛ばす

これは平時の切り出し方の話です。心停止・呼吸停止・急変などの超緊急時は別。

「○号室の○○さん、心停止です、すぐ来てください」

「今お時間よろしいですか?」のクッションを入れている時間はありません。緊急度に応じて切り替える——これも病棟で揃えておきたい運用ルールの一つです。

7. チャネル別の使い分けマトリクス

チャネル別使い分け(電話・対面・カルテ記載)
電話・対面・カルテ記載・チャットは、緊急度と複雑さで使い分ける

報告は「電話」だけではありません。状況に応じて適切なチャネルを選びます。

電話対面カルテ記載・チャット
緊急度高◎(即応)◯△
緊急度中◯◎◯
緊急度低△◯◎
夜間・当直◎△(医師不在多)△
複雑な経過△(伝えにくい)◎◯(補足記録)
記録に残したい△△◎

判断軸:

  • 時間を要するなら電話
  • 複雑なら対面(図示・現物確認可)
  • 緊急性は低いが共有したいならカルテ・チャット
  • 急変は電話+ベッドサイドへの呼び出しを併用

8. 症状別「悪い報告 → 良い報告」書き換え集

ここからは、サイト内の他記事で扱っているテーマで、実際にSBARで報告するならどうなるかを書き換え例として示します。

ケース1:発熱

✗ 悪い例:「○○さんが熱があります」

⭕ 良い例:

S:301号室の○○さん、術後2日目、38.5℃、頻脈140です。

B:3日前に開腹手術、術後感染兆候のリスク管理中、CRP前回から上昇傾向。

A:感染を疑う所見があり、敗血症も否定できないと考えています。

R:診察と血液培養の指示をお願いしたいです。

ケース2:血圧低下(末梢循環評価との連携)

✗ 悪い例:「血圧が下がっています」

⭕ 良い例:

S:202号室の○○さん、収縮期60台、CRT3秒、末梢冷感、意識やや傾眠です。

B:心不全で入院、利尿剤内服中、本日朝から尿量減少。

A:循環不全、出血や脱水の可能性があります。

R:診察と輸液の指示をお願いしたいです。

→ 詳しい末梢循環の評価軸はも参照。

ケース3:浮腫の急性増悪(浮腫評価との連携)

✗ 悪い例:「むくみが強いです」

⭕ 良い例:

S:405号室の○○さん、両下肢の浮腫が朝から増悪、SpO2が96→92%に低下、起座呼吸あり。

B:心不全で内服治療中、3日前から体重1.5kg増加。

A:心不全増悪、肺うっ血の可能性があります。

R:診察と利尿剤・酸素投与の指示をお願いしたいです。

→ 浮腫の評価軸はも参照。

ケース4:褥瘡の悪化(褥瘡ケアとの連携)

✗ 悪い例:「褥瘡が悪くなってます」

⭕ 良い例:

S:303号室の○○さん、仙骨部褥瘡が悪化、悪臭と滲出液増加。

B:DESIGN-R前回 d2-e1、本日 d3-E6に進行、白色壊死組織あり。

A:感染兆候疑い、創傷感染の可能性があります。

R:創培養と外用薬の変更を相談したいです。

→ 詳しい褥瘡ケアはも参照。

ケース5:便秘・腸閉塞疑い(便秘アセスメントとの連携)

✗ 悪い例:「便が出ていません」

⭕ 良い例:

S:202号室の○○さん、便秘で経過観察中でしたが、本日急に腹部膨満が増強し、嘔吐がありました。

B:3日前から排便なく、本日朝から排ガスもありません。腹部聴診で金属音を認めます。

A:腸閉塞の疑いがあります。

R:診察と画像評価をご検討いただけますか。

→ 詳しい便秘アセスメントはも参照。

ケース6(応用編):感染対策上の運用相談(手指衛生関連)

ここまでは医師への報告例。応用編として、SBARの構造は感染管理担当・看護師長への運用相談にも使えます。報告先が変わってもフォーマットは同じ——これがSBARの強みです。

✗ 悪い例:「先輩が手指衛生してくれません」

⭕ 良い例:

S:処置時の手指衛生について、運用上の相談です。

B:5モーメンツのうち、ベッド柵触れた後の場面で省略されていることが続いています。複数のスタッフに見受けられます。

A:個人の問題ではなく、動線設計やルール認識の問題ではないかと思います。

R:感染管理のラウンド時に、ベッドサイドのアルコール配置と運用ルールの再確認をご相談したいです。

→ 詳しい手指衛生はも参照。

9. 失敗パターン5選

新人さんがSBAR報告でやりがちな失敗を5つ挙げます。ここでは、本文の各章で扱った要素別の失敗とは別の角度——報告の運用面・伝達技術の面で起きやすい失敗をまとめます。

失敗1:時系列がバラバラ

「3年前に脳梗塞、昨日手術、5年前に高血圧…」

→ 時系列順、または重要度順で整理。新→旧、または重→軽。電話前のメモで時系列を並べてから話す。

失敗2:専門用語の濫用

「ARDS、SIRS、AKI、DIC、…」

→ 略語を多用すると、医師には伝わっても、申し送り相手の看護師には伝わらない。聴衆を意識する。略語は省略前のフルネームを併記する習慣を。

失敗3:複数の事象を一度に報告する

「○○さんが熱もあって、便も出てなくて、あと隣の○○さんも血圧が…」

→ 1回の報告は1人の患者・1つの事象が原則。複数あるなら別々の報告にする。混ぜると医師は「どの患者のどの判断か」を切り分けられず、結果として全部の精度が落ちる。

失敗4:数値を曖昧に伝える

✗「血圧、ちょっと低めです」「少し熱があります」「結構しんどそうです」

⭕「血圧100/60、いつもより20下がっています」「38.2℃、平熱36.8℃です」「NRS 8、安静時もつらそうです」

→ 「ちょっと」「少し」「結構」は人によって基準が違う。数値+普段との差で伝えると医師の頭の中に状況が浮かぶ。NRSなどのスケールも口頭報告と相性が良い(VASは患者が線にマークするツールなので、口頭報告ではNRSが扱いやすい)。

失敗5:報告のタイミングを外す

  • 遅らせすぎ:「医師が忙しそう」と遠慮して、結果として手遅れになる
  • タイミングが悪い:手術中・カンファ中など明らかに集中している時を狙う

→ 急変の兆しを感じたら、遠慮より報告。「今お時間よろしいですか?」のクッションを入れることで、相手の状態を確認しつつ動ける。タイミング判断に迷ったら早めに動くのが原則。

10. チームで判断を揃える病棟運用Tips

ここがこの記事で最も伝えたいパート。SBARは個人スキルではなく、病棟全体で運用するものです。

Tip 1:SBARテンプレを印刷してナースステーションに

電話の横、PCの横、ナースステーションの壁——どこからでも見えるところにSBARテンプレを貼っておく。「電話前にSBARを書く」を物理的に強制する。

Tip 2:電話の前に書くルーティンを新人に教育

新人時代に「電話前のメモ」を習慣化すると、10年後の判断力が変わります。最初は時間がかかっても、徐々に速くなる。

Tip 3:報告事例の振り返りを月1回

「今月のSBAR事例」として、良かった例と改善余地のある例を共有する。責めずに学ぶ文化が大事です。

Tip 4:「で、何して欲しいの?」が出た事例を共有

これは学びの宝庫。「あの場面でR(Recommendation)が言えなかった」を共有することで、チーム全体の報告精度が上がります。匿名化して扱うのがコツ。

Tip 5:申し送り(看護師間)にもSBARを応用

夜勤→日勤の申し送りでもSBARを使うと、判断のブレが減ります。例:

S:○○さん、夜間に発熱38.5℃が出現

B:術後3日目、創部発赤あり

A:感染の可能性あり、要観察

R:日勤帯で創部の確認、医師指示の解熱剤使用を検討

これだけで、夜勤と日勤の判断が揃います。

11. よくある質問(Q&A)

Q1:SBARを習ったことがない場合、どう学べばいい?

A:教科書よりも、実際の事例で練習するのが早道です。具体的には:

  • 既に経験した報告場面を、事後にSBAR形式で書き直す
  • 病棟の事例検討会で、報告例をSBARで再構成
  • この記事の症状別書き換え集を自分の言葉で書いてみる

職場研修で扱っていない場合、感染管理担当・看護師長に「SBAR研修の提案」をするのも一つの手。

Q2:SBARで「結論を先に言う」と医師の判断を狭めない?

A:SBARの「A(Assessment)」は結論ではなく仮説です。「○○の可能性があります」「○○を疑っています」という言い方なら、医師の判断を狭めません。むしろ、看護師の仮説を聞くことで医師は「ベッドサイドの目」を借りられます。

Q3:夜間・休日の当直医に報告する時、気をつけることは?

A:当直医は普段その患者を見ていないことが多いので、Bを少し厚めにします。

  • 冒頭で「当直の○○先生でしょうか」と確認
  • 主治医名と病名を簡潔に「○○科主治医○○先生の患者で、○○病で入院中」
  • 直近の重要な経過(手術日・最近の検査結果・治療方針)を1〜2文添える
  • 主治医あての電話なら省略できる「もとの治療方針」も触れる

普段の電話よりBが30秒長くなるくらいの感覚。当直医が患者像を組み立てる時間を1〜2文分プレゼントする、というイメージです。

Q4:急変時はSBARを使う余裕がない場合、どうする?

A:急変時はSだけでも構いません。「○号室の○○さん、心停止です、来てください」——これで医師は動きます。落ち着いてからB・A・Rを補足する。急変時の最優先は「人を呼ぶこと」で、フォーマットの完成度は二の次です。

Q5:報告中に医師から質問された場合、SBARの順番を崩していい?

A:もちろんOKです。SBARは思考の整理ツールであって、機械的な台本ではありません。医師が質問してきたらまず答え、その後で残りの要素を補足する。柔軟に使うのが本来の姿です。

Q6(応用編):リーダー看護師や同僚への相談時もSBARは使える?

A:医師報告以外の応用編として、看護師間の相談にもSBARは有効です。

「○○さんのことなんですが…」と話し始めると、相手は「で、何を相談したいの?」と感じる——医師が看護師に対して感じるのと同じ構造です。

⭕ 良い例:

「○○さん(S)、術後3日目で(B)、創部発赤と微熱が出てきていて、感染初期かなと思っていて(A)、医師に報告するか、もう少し様子見るか相談したいんです(R)」

これだけでリーダーは判断材料が揃い、的確な助言ができます。相談すべきか医師に直接報告すべきか迷う時こそ、SBARで整理してから動くと、相談相手の判断負荷も下げられます。

Q7:主観的判断(「なんとなく変」)はAssessmentに入れていい?

A:入れていいです、ただし根拠を一緒に。

✗「なんとなく変です」

⭕「いつもと違う反応で、何かおかしいと感じています。具体的には目の動きが鈍く、話し方が緩慢です」

ベテラン看護師の「なんとなく変」は重要なサインですが、新人がそれだけを伝えても医師は動きにくい。具体的な観察事実を添えると、主観も価値ある情報になります。

Q8:報告するべきか迷う時の判断基準は?

A:迷ったら報告が原則です。判断軸として:

  • いつもと違う変化がある
  • バイタルサインが施設の基準を超えた・近づいた
  • 患者・家族から強い訴えがある
  • 自分が「不安」「心配」と感じている

施設や医師との関係性によって受け止め方は変わりますが、報告しなかった結果として悪化させてしまうダメージの方が大きいことが多い。迷ったときは報告に倒すほうが安全側——遠慮しすぎないこと。

Q9:電話で復唱を求めると医師に嫌がられる?

A:現場によって受け止め方は違いますが、医療安全上は推奨されています(ISBARC のC=Confirm)。

「念のため復唱させていただきます。○○の指示でよろしいでしょうか?」

これで聞き間違いが防げます。患者の安全のためという意図が伝われば、復唱を共通の手順として受け止めてもらいやすくなります。

Q10:看護学生でもSBARを使える?

A:むしろ看護学生のうちに身につけるべきです。学生時代の臨地実習で、指導者への報告にSBARを使うと:

  • 報告が構造化されて評価される
  • 思考プロセスが整理される
  • 就職後すぐに現場で使える

教科書にも徐々に載るようになっていますが、自分から使い始めるのが確実です。

12. まとめ——「報告」を「判断の伝達」に変える

SBARは、看護師の報告を「事実の羅列」から「判断の伝達」に変えるツールです。要点をまとめます:

  • なぜSBARか:医療事故の背景にコミュニケーション要因が一貫して上位(The Joint Commission)。患者を守るための共通言語
  • 4要素:S(状況)→ B(背景)→ A(評価)→ R(提案)
  • SOAPとの違い:SBARは「伝える」、SOAPは「残す」
  • 派生形:ISBAR・ISBARC・I-PASS・申し送りを場面で使い分け
  • Aが最大の壁:「事実→推測→自分の判断」の3ステップで書く
  • Rの欠落が「で、何して欲しいの?」を生む:必ず「○○をお願いしたいです」を添える
  • 電話前30秒のメモで報告の質が変わる
  • チームで判断を揃える:個人スキルでなく病棟運用として育てる

新人時代に身につけたSBARは、10年後の自分の判断力を作ります。「報告」が「判断の伝達」に変わったとき、看護師としての景色が変わります。

「で、何して欲しいの?」と言われた時は、落ち込むのではなく、SBARを学ぶチャンスだと思ってください。

13. 参考文献・出典

  1. Agency for Healthcare Research and Quality (AHRQ) & Department of Defense. TeamSTEPPS 2.0: Team Strategies and Tools to Enhance Performance and Patient Safety. Rockville, MD; 2014.(2026-05-12参照)
  2. World Health Organization. Communication During Patient Hand-Overs (Patient Safety Solutions, Volume 1, Solution 3). WHO; 2007.(2026-05-12参照)
  3. The Joint Commission. Sentinel Event Data: Root Causes by Event Type.(2026-05-12参照)
  4. 厚生労働省. チーム医療の推進に関する検討会報告書. 2010.(2026-05-12参照)
  5. 東京慈恵会医科大学附属病院 看護部・医療安全管理部. TeamSTEPPSを活用したヒューマンエラー防止策——SBARを中心とした医療安全コミュニケーション. 日本看護協会出版会.(2026-05-12参照)
  6. Starmer AJ, et al. I-PASS Mentored Implementation Handoff Curriculum. MedEdPORTAL. 2018.(2026-05-12参照)

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  • ——ケース6「感染対策上の運用相談」の背景
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  • ——患者対応の聞き方

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この記事を書いた人

臨床ナースラボ 管理者現役看護師

日々の臨床で感じた「これ、もっと早く知りたかった」をもとに、チームで判断を揃えるための知識とツールを作っています。