手技・処置

脈拍の評価と対応|頻脈・徐脈・不整脈のアセスメントとチームで揃えたい判断基準

2026-04-25

この記事でわかること

  • ✓脈拍で見るべき4つの要素(回数・リズム・強さ・左右差)
  • ✓頻脈・徐脈のアセスメントと「安定 vs 不安定」の判断
  • ✓不整脈を触知したときに確認すべきこと
  • ✓脈拍×他のバイタルの組み合わせで見えるもの
  • ✓チームで揃えたい判断基準と話し合うべきポイント

「脈拍100です。どうしますか?」

頻脈の報告基準、徐脈をどこまで様子見するか、不整脈を触知したときの対応——どれもスタッフによって判断が分かれやすいポイントです。

脈拍は体温や血圧ほど「主役」になることが少ないバイタルサインですが、他のバイタルと組み合わせることで、患者さんの状態変化の早期変化を捉える重要な手がかりでもあります。この記事では、脈拍の評価を「なんとなく」から「根拠のある判断」に変えるためのポイントを整理します。

1. 脈拍から何が読めるのか——数えるだけで終わらせない

脈拍で見るべき4つの要素

要素見ていること異常の例
回数心拍のペース頻脈(100以上)、徐脈(60未満)
リズム規則的か不規則か不整脈(期外収縮、心房細動など)
強さ1回の拍出量の反映微弱(ショック)、交互脈(心不全)
左右差血管の状態片側の減弱(動脈狭窄など。まれだが重篤な病態のサインになりうる)

電子血圧計やSpO2モニターは回数しか表示しません。触知でリズムと強さを確認する習慣が、見逃しを減らします。

脈拍は「単独」で見ない——他のバイタルとの組み合わせが重要

脈拍110を見て「頻脈だ」と判断するのは簡単ですが、なぜ110なのかは、脈拍だけではわかりません。

  • 脈拍110+発熱38.5度 → 発熱に伴う頻脈の可能性
  • 脈拍110+血圧80 → ショックの初期徴候かもしれない
  • 脈拍110+バイタル安定+不安の訴え → 精神的な要因の可能性

脈拍は体の代償反応を反映する重要なバイタルサインです。だからこそ、他のバイタルと組み合わせて見ることで意味が出てきます。

2. 脈拍が速いとき——「頻脈です」の先に何を考えるか

まず「なぜ速いのか」を考える

原因特徴確認ポイント
発熱体温1度上昇あたり脈拍が約10回増加(一般的な目安)体温との関連。目安を超える頻脈は別の原因を疑う
脱水口腔乾燥・尿量減少・皮膚ツルゴール低下水分出納、飲水量
疼痛痛みの訴え・表情の変化疼痛スケールでの評価
不安・緊張手術前・検査前・環境変化患者さんの訴え、背景
出血ドレーン排液・創部出血・血圧低下排液量・Hb・血圧の推移
心原性動悸・胸部不快感・息切れ心電図モニター、12誘導心電図
薬剤性β刺激薬・カテコラミン等薬剤の投与状況

安定した頻脈 vs 不安定な頻脈——緊急度の判断

頻脈を評価するうえで最も重要なのは、「安定しているか、不安定か」の判断です。

安定した頻脈不安定な頻脈
意識清明反応が鈍い・意識変容
血圧維持されている低下している
呼吸安定呼吸困難・頻呼吸
皮膚温かい・乾燥冷汗・冷感・蒼白
対応原因検索しながら経過観察施設の急変対応基準に従い迅速対応。急変コールが必要な場合もある
なぜ不安定になるのか:心拍数が速すぎると、心臓が血液を溜める時間(拡張時間)が短くなり、1回の拍出量が減少します。その結果、脳・腎臓などの臓器への血流が落ち、意識変容や血圧低下といった症状が出ます。これが「不安定な頻脈」の本質です。

不安定な徴候が一つでもあれば、施設の急変対応基準に従い迅速に対応します。医師への報告だけでなく、急変コールや応援要請が必要な場合もあります。「脈拍は速いけど元気そう」という場面は安定した頻脈に該当しますが、安定でも油断はできません。頻脈が持続すれば心臓への負担が蓄積し、不安定に移行することがあります。安定している間に原因を検索し、対処することが大切です。

洞性頻脈 vs 不整脈による頻脈——触知でどこまでわかるか

  • リズムが規則的で速い → 洞性頻脈の可能性が高い(発熱・脱水などの原因を検索)
  • リズムが不規則で速い → 心房細動などの不整脈の可能性。心電図モニターでの確認が必要
  • 突然始まって突然止まる → 発作性上室性頻拍(PSVT)の可能性。患者さんに「急に始まりましたか?」と聞く

特定は心電図の仕事、気づくのは看護師の仕事です。

報告例:同じ頻脈110でも伝え方で変わる

報告例①:情報が薄い

「○○さん、脈拍110です。頻脈です。」

報告例②:文脈が伝わる

「○○さん、脈拍110で、リズムは規則的です。体温は37.2度、血圧は120/70で安定しています。30分前に歩行リハビリを終えたところです。安静にして再検します。」

3. 脈拍が遅いとき——「徐脈です」の先に何を考えるか

徐脈の原因を考える

徐脈は一般に60回/分未満と定義されますが、臨床的に問題になるのは症状を伴う場合や50回/分未満の場合が多いです。60未満だからといって即座に異常とは限りません。まず確認すべきは「その人にとって異常かどうか」です。

原因特徴確認ポイント
薬剤性β遮断薬(ビソプロロール・カルベジロール等)・ジギタリス・Ca拮抗薬の一部(ベラパミル等)服薬内容、最近の変更
迷走神経反射排便時・吸引時・嘔吐時に一過性に出現発症のタイミング
房室ブロック心疾患の既往、めまい・失神の既往心電図、既往歴
洞不全症候群高齢者に多い、めまい・失神発作心電図、症状の有無
スポーツ心臓日常的に運動している人運動歴(入院患者では少ない)

症状の有無が判断のカギ

  • 症状あり(めまい・ふらつき・失神・倦怠感・意識変容)→ すぐに報告。低血圧・意識変容・ショック徴候を伴う場合は施設の急変対応基準に従う
  • 症状なし+普段から同程度 → 経過観察(ただし原因は確認しておく)
  • 症状なし+普段より遅い → 原因検索(薬剤?新規の不整脈?)して報告を検討

夜間の徐脈はどこまで様子を見てよいか

夜勤で悩むポイントの一つ。就寝中の副交感神経優位による徐脈は生理的な現象ですが、以下の場合は報告が必要です。

  • 50回/分未満は一つの目安だが、最優先は症状・血圧・意識・呼吸の確認。日中の値から大きく低下している場合
  • 症状を伴う(呼びかけへの反応が鈍い、冷汗など)
  • 新規の所見(昨日まではなかった)
  • β遮断薬等の開始・増量直後

逆に、普段から夜間50台で安定している、症状なし、既知の経過であれば、経過観察としてよい場合が多いです。

報告例:徐脈時に伝えるべき情報

報告例①:情報が薄い

「○○さん、脈拍48です。徐脈です。」

報告例②:文脈が伝わる

「○○さん、脈拍48です。日中は60台で安定していました。β遮断薬を内服中です。めまいや倦怠感の訴えはなく、血圧は130/80で安定しています。昨日の夜間も52程度でした。経過観察でよろしいでしょうか?」

4. 不整脈を触知したとき——何を確認して何を報告するか

触知でわかること・わからないこと

触知でわかること触知ではわからないこと
リズムの不規則さ不整脈の種類(心房細動・期外収縮・VTなど)
脈の欠損(脈が飛ぶ)心電図波形
脈の強弱の変化致死的不整脈かどうか

触知は「気づき」のツール。特定は心電図の役割です。

知っておきたい代表的な不整脈

種類特徴緊急度
心房細動(AF)完全に不規則な脈。高齢者に多い慢性なら経過観察。新規なら報告
期外収縮(PVC/PAC)脈が飛ぶ感じ。健康な人にもある頻発・連発でなければ経過観察
発作性上室性頻拍(PSVT)突然始まる規則的な速い脈報告が必要
心室頻拍(VT)安定・不安定を問わず報告が必要。無脈性VTはCPR対象緊急対応。施設の急変対応基準に従う
心室細動(VF)脈触知不能・意識消失CPR開始+急変コール

すべてを覚える必要はありませんが、VT・VFは命に直結する不整脈であることは知っておいてください。

「その人にとって新しい不整脈か」が最も重要

不整脈を触知したときに最初に確認すべきは、カルテで既往を確認することです。

  • 既知の不整脈(例:慢性心房細動で経過観察中)→ 症状の変化がなければ経過観察
  • 新規の不整脈(既往になし、前回まで整脈だった)→ 報告が必要

モニター装着の判断と医師への報告のポイント

以下の場合は、心電図モニターの装着を検討し、医師に報告します。

  • 新規の不整脈を触知した
  • 不整脈+症状あり(動悸・胸痛・めまい・息切れ)
  • 不整脈+バイタルの変動(血圧低下、SpO2低下)
  • 脈拍の欠損が頻回にある

報告時に伝えるべきは:いつから・リズムの状態・随伴症状・バイタル全体・服薬状況です。

5. 脈拍×他のバイタル——組み合わせで見えるもの

発熱+頻脈

体温1度の上昇に対して脈拍が約10回増加するというのは一般的に引用される目安です(ただし高齢者や免疫不全では当てはまらないこともあります)。目安の範囲内であれば発熱に伴う頻脈の可能性がありますが、それだけで原因を限定せず他の要因も確認してください。目安を明らかに超える頻脈は別の原因を疑います。

低血圧+頻脈 → ショックの初期徴候

血圧が下がっているのを心拍数で代償しようとしている状態。出血・脱水・敗血症などが進行している可能性があります。すぐに報告。

低血圧+徐脈 → 代償の破綻

通常、血圧が下がれば心拍数は代償的に上がります。血圧が低いのに脈拍も遅いのは、代償が破綻している可能性を示します。迷走神経反射、薬剤性(β遮断薬の過量)、重度の房室ブロックなどが考えられます。すぐに報告。

6. チームで揃えたい判断基準

カンファレンスで話し合うべき3つの問い

1

「脈拍何回で報告する」をどう決めるか?

一律の数値ではなく、患者の普段の脈拍・服薬内容・症状の有無を踏まえた基準を共有できているか

2

夜間の徐脈をどこまで様子見するか?

「普段から夜間50台で安定+症状なし」と「新規の徐脈+β遮断薬開始後」では判断が違うことをチームで共有できているか

3

不整脈を触知したとき、まず何をするか?

カルテで既往確認→症状の有無→バイタル全体の確認→報告の判断、という流れをチームで統一できているか

7. よくある疑問 Q&A

Q. 脈拍は15秒×4で測っていい?1分間測るべき?

A. 整脈で安定している場合は15秒×4でも実用上は問題ありません。ただし、不整脈がある場合やリズムに違和感がある場合は1分間測定してください。15秒では不整脈の頻度や種類を正確に把握できません。迷ったら1分間測定するのが安全です。

Q. 脈拍と心拍数は違う?

A. 厳密には違います。心拍数は心臓が拍動する回数(心電図モニターで測定)、脈拍は末梢で触知できる拍動の回数です。不整脈がある場合、心臓は拍動しているのに末梢に十分な拍出が届かず、脈拍が心拍数より少なくなることがあります(脈拍欠損)。この差が大きい場合は報告が必要です。

Q. β遮断薬を飲んでいる患者の脈拍が50台——報告する?

A. β遮断薬(ビソプロロール・カルベジロール・メトプロロール等)は脈拍を下げる作用があるため、50台は想定内のことも多いです。判断のポイントは:①普段の値と比較してどうか、②症状の有無(めまい・ふらつき・倦怠感がないか)、③開始・増量直後かどうか。症状がある場合や、開始・増量後の初回評価では報告してください。

Q. SpO2モニターの脈拍数と手で触れた脈拍が違うのはなぜ?

A. SpO2モニターは光学的に脈波を読み取るため、不整脈・末梢循環不良・体動などの影響で不正確になることがあります。また、不整脈がある場合は心拍数と脈拍数に差が出ることもあります。機械の数値と触知が合わないときは、触知で不整脈の有無を確認し、必要に応じて1分間測定や心電図モニターで確認してください。電子血圧計の脈拍値も同様に、不整脈がある場合は不正確になることがあります。

まとめ

✅ 脈拍は回数だけでなくリズム・強さも触知で確認する

✅ 頻脈は「安定 vs 不安定」の判断が最も重要。不安定な徴候があれば施設の急変対応基準に従い迅速対応

✅ 徐脈は症状の有無が判断のカギ。夜間の徐脈は普段の値・既知の経過・薬剤を確認

✅ 不整脈を触知したらまずカルテで既往確認。「その人にとって新しいか」が緊急度を左右する

✅ 脈拍は他のバイタルとの組み合わせで意味が出る。特に低血圧+頻脈はショックの初期徴候

✅ 判断がバラつくのは個人の問題ではなくチームの仕組みの問題。カンファレンスで3つの問いを話し合おう

脈拍は「地味なバイタルサイン」に見えるかもしれませんが、他のバイタルと組み合わせることで患者さんの早期変化を捉える重要な手がかりになります。「数えて終わり」ではなく、「読んで、つなげる」習慣が、チームの判断力を高めます。

参考・根拠

  • 日本循環器学会「不整脈の診断とリスク評価に関するガイドライン」
  • AHA/ACLS:頻脈・徐脈のアルゴリズム
  • 医学界新聞「夜間病棟での頻脈・徐脈は、どのくらいまで様子を見てOKですか?」(2024年)
  • 日本救急医学会「救急診療指針」

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この記事を書いた人

臨床ナースラボ 管理者現役看護師

日々の臨床で感じた「これ、もっと早く知りたかった」をもとに、チームで判断を揃えるための知識とツールを作っています。