末梢循環評価|CRT・冷感・5P徴候を看護師が現場で揃えるための完全ガイド
2026-05-02
この記事でわかること
- ✓ 末梢循環評価の5項目(色・温・脈・CRT・知覚運動)の正しい見方
- ✓ 「5項目×左右上下グリッド」でチームの判断を揃える記録法
- ✓ CRT測定プロトコル(圧迫部位・秒数・基準値)の統一
- ✓ 中枢冷感と末梢冷感の鑑別——どこまで冷たいかで意味が変わる
- ✓ 時間帯由来の生理的変動と病的悪化の切り分け方
- ✓ 急性vs慢性の緊急度トリアージ(コンパートメント・PADの区別)
- ✓ コンパートメント症候群を見逃さない観察と病態理解
- ✓ SBARで報告する——「異変があれば報告」を脱却する言語化
「先輩によってCRTの基準が違う」
「冷感の判断が、聞く人によって違う」
「申し送りで色のことを伝えたら、次のシフトには『そんなに悪くない』と言われた」
末梢循環評価をやっていて、こうしたモヤモヤを感じたことはありませんか?観察項目自体は教科書に書かれています。でも実際の現場では、基準が人によって違う・記録の形式が揃っていない・時間帯の影響を考慮できていない・何をもって報告すべきかが曖昧——これらが混ざって「観察はしているのにチームで判断が揃わない」状況が生まれます。この記事のゴールは「チーム全体で末梢循環評価の判断を揃える」こと。誰が見ても同じ評価ができる土台を作ります。

1. 末梢循環評価の5つの観察項目
末梢循環評価で看護師が見るべき項目は、大きく分けて5つです。
| 項目 | 何を見るか | 主な異常所見 |
|---|---|---|
| ①皮膚色 | 蒼白・チアノーゼ・網状皮斑 | 蒼白=動脈性、チアノーゼ=静脈うっ滞・低酸素 |
| ②皮膚温 | 冷感・熱感、左右差、上下差 | 中枢冷感は心機能低下を示唆する所見の1つ。他バイタルと併せて評価 |
| ③末梢動脈触知 | 足背・後脛骨・橈骨・上腕の脈拍 | 触知困難=動脈閉塞・低拍出量 |
| ④CRT | 毛細血管再充満時間 | 成人で2〜3秒超は延長傾向の運用目安、低灌流のスクリーニング |
| ⑤知覚・運動 | しびれ・感覚鈍麻・運動麻痺 | 5P徴候の一部、虚血の進行サイン |
①皮膚色——蒼白・チアノーゼ・網状皮斑
- 蒼白:血流量の低下。動脈性循環不全(ショック、急性動脈閉塞)で出現
- チアノーゼ:還元ヘモグロビンが5g/dL以上で出現。末梢性と中心性がある
- 網状皮斑:皮膚に網目状の青紫斑。重症ショック、敗血症、低体温で出現
- 発赤・赤紫色:炎症・うっ血・静脈閉塞
現場のコツ:患者さん本人に「この色、いつもですか?」と聞いてベースラインを取りに行く。室温・体位の影響も考慮。皮膚色素が濃い患者は爪床・口唇・眼瞼結膜で確認する。
②皮膚温——「冷感」をチームで揃えるコツ
「冷感あり」と記録した時、次のシフトの看護師が同じイメージを持てるでしょうか?冷感ほど人によって解釈が揺れる項目はありません。
| ポイント | 具体的な方法 |
|---|---|
| 触る部位を統一 | 手の甲(自分)と患者の足背・手背を同時に触れて比較 |
| 左右両方を触る | 左右差があるかを必ず確認 |
| どこまで冷たいか | 指先のみか、手首/足首までか、前腕/下腿までか |
| 時刻を記録 | 朝6時の冷感と午後3時の冷感は意味が違う |
| 言葉を統一 | 「指先のみ冷感」「手首まで冷感」「前腕まで冷感」と範囲を明示 |
「どこまで冷たいか」を必ず触って確認するだけで、後述の中枢冷感/末梢冷感の鑑別ができるようになります。
③末梢動脈の触知——部位と左右差
主要な触知部位は以下です。


触知のコツ:
- 指の腹で軽く押す(強すぎると自分の脈と区別できなくなる)
- 必ず左右両方を同時に触れる(左右差が最重要所見)
- 足背動脈が触れない時は後脛骨動脈で代替——足背動脈は健常者の約10%でもともと触れにくい
- 触知できない時は脈拍触知不能(pulselessness)として5P徴候の1つ——コンパートメント症候群・急性動脈閉塞を疑う
「足背動脈が触れない」だけで慌てる必要はありません。後脛骨動脈・CRT・色・温・知覚と合わせて総合的に判断します。
④CRT(毛細血管再充満時間)——標準化された測定法
CRTは「末梢の灌流が保たれているか」を最も簡便に評価できる方法。ただし測定方法が施設・先輩によってバラバラなのが現状で、国際的な標準化条件は確立されていません。「2秒以上で異常」「3秒以上で異常」「5秒以上で異常」と基準も様々です。詳しいプロトコルは後述します。基本手順:
- 患者の指または爪床を、自分の親指で5秒間圧迫(圧迫秒数は文献により異なるが、5秒が比較的広く採用)
- 圧迫を解除する
- 圧迫部位の色が元の色に戻るまでの秒数を計測
- 一般に成人で2〜3秒以内を正常域とする報告が多い(基準値は文献によりばらつき、施設内で揃えることが大切)
注意点:室温が低いと延長/末梢が冷たいと延長/高齢者は加齢性に延長する。「いつもの値」を知っておく。
⑤知覚・運動——5P徴候の落とし穴
5P徴候は急性動脈閉塞・コンパートメント症候群で広く語られる古典的な所見セットですが、5つすべてが揃うのを待ってはいけません。
| 徴候 | 内容 | 出現タイミング |
|---|---|---|
| Pain(疼痛) | 持続する痛み、特に動かした時に増悪 | 早期 |
| Paresthesia(知覚異常) | しびれ・感覚鈍麻 | 早期 |
| Pallor(蒼白) | 皮膚色の蒼白化 | 進行期 |
| Pulselessness(脈拍触知不能) | 末梢動脈が触れない | 末期 |
| Paralysis(運動麻痺) | 動かせない・動かしにくい | 末期 |
5Pの落とし穴
Pulselessness(脈拍消失)や Paralysis(運動麻痺)はすでに組織が不可逆的に障害されている可能性が高い晩期所見。「まだ脈は触れるから大丈夫」という判断は危険です。
早期発見で重視すべきは:
- 持続痛(鎮痛剤が効かない、動かさなくても痛い)
- 他動痛(動かしたとき/受動的に伸ばしたときの激痛)
- 硬い腫脹(コンパートメントが張りつめている感触)
- しびれ(Paresthesia)
- 経時変化(時間とともに悪化しているか)
色や脈は触れて確認するクセがついていても、「指動かせますか?」「しびれありませんか?」を聞き忘れることが多い。しびれの聞き取りは早期発見の鍵。化学療法後(CIPN)・糖尿病性神経障害の患者では、もともとしびれがある場合があるのでベースラインからの変化を見る視点が大切。
2. 「5項目×左右上下グリッド」で記録する
ここまで5項目を見てきましたが、現場では「観察したのに伝わらない」「前日と比較できない」問題が起こります。大きな原因は記録形式が揃っていないこと。
「冷感あり、CRT延長、しびれあり」という記録だけでは、右足?左足?両足?上肢は?「いつもより悪い」のか「いつも通り」なのか——これがわかりません。これを解決するのが5項目×左右上下のグリッド記録です。

グリッド記録例
| 部位 | 色 | 温 | 脈 | CRT | 知覚運動 |
|---|---|---|---|---|---|
| 右上肢 | 正常 | 温 | 橈骨○ | 2秒 | 異常なし |
| 左上肢 | 正常 | 温 | 橈骨○ | 2秒 | 異常なし |
| 右下肢 | 正常 | 温 | 足背○後脛○ | 2秒 | 異常なし |
| 左下肢 | 蒼白 | 指先まで冷感 | 足背×後脛△ | 4秒 | しびれあり |
このように記録されていれば、左下肢に明らかに偏った所見がある/急性動脈閉塞・コンパートメント症候群を強く疑うと、誰が見ても同じ判断ができます。
観察時刻も必ず併記がポイント。「14:00、左下肢に上記所見」と書けば、次のシフトで「16:00 同所見、変化なし/悪化/改善」と比較できる。
「色悪いじゃない」と言われない記録法
「申し送りの後で『色悪いじゃない、見落とした?』と次のシフトに思われる」問題。これはあなたの観察が甘いから起きるのではなく、観察フォーマットがチームで揃っていないから起きる構造的な問題です。
グリッドで残せば「14:00 のグリッドではこの状態」「16:00 のグリッドではこう変化」と客観的に検証できる。個人の主観の話ではなく、記録の話に変えられるのがグリッド記録の最大の価値です。
3. CRT測定プロトコル——施設で1つに統一する
CRTは末梢循環で最も使われる指標ですが、測定方法のばらつきが最も大きい項目でもあります。実は国際的に公式な標準化条件は確立されていません(圧迫秒数・部位・基準値とも、文献によって異なる)。ここで提案するのは、これらのばらつきの中で施設・チームが判断を揃えるための「運用案」です。エビデンス上の絶対的な基準ではなく、職場で「うちはこのやり方でやろう」と話し合うための叩き台として読んでください。
圧迫部位の選び方
| 部位 | 特徴 |
|---|---|
| 爪床(指爪・足爪) | 最も標準的。色の変化が見やすい |
| 指腹 | 爪床と同等。指爪が変色している場合の代替 |
| 胸骨 | 末梢循環不全が疑われる場面で、中心側の灌流を評価する時に使う |
標準は「指の爪床」がおすすめ。手指の人差し指または中指の爪床で測定すると施設内で揃えやすい。
「足の指?手の指?」とよく聞かれますが、手の指(人差し指または中指)の爪床を標準に。下肢の循環評価が必要な場面では、追加で足の指(母趾爪床)でも測定し両方記録。「何本の指で?」も1本(人差し指または中指)で十分です。
圧迫秒数(5秒)と室温配慮
- 圧迫時間:5秒間(教科書・救急領域では5秒が標準)
- 圧迫の強さ:爪床が白くなる程度(強すぎると痛みを誘発、弱すぎると変化が出ない)
- 室温は20〜25℃が望ましい——測定前に室温・末梢温が極端に低くないか確認
基準値と交絡因子
| 集団 | 正常上限の運用案 |
|---|---|
| 成人 | 2〜3秒(多くの文献で正常上限は3秒未満とされる) |
| 高齢者 | 3秒(加齢性の延長を考慮) |
| 小児 | 2秒 |
補足:CRTの基準値は文献ごとにバラつき(2秒・3秒・5秒など)があり、国際的な公式基準は確立されていません。上の数値は施設内で揃えるための運用目安として扱い、絶対的な異常閾値とは考えない方が安全です。
延長の交絡因子(病的でなくてもCRTが延長する要因):室温・末梢温の低下/PADの既往/浮腫の強い患者/高齢/低体温。これらがあると「ショック」と即断はできない。ベースラインと比較することが大切。
「CRT延長=ショック」と早合点しない
CRTは便利な指標ですが、単独でショックを診断できる検査ではありません。確定にはバイタル・尿量・乳酸値などとの総合判断が必要。看護師としては「CRT延長+他の所見の組み合わせ」で報告する習慣を。
4. 中枢冷感と末梢冷感——意味がまったく違う
「冷感あり」とだけ書いてはいけません。冷感は「どこまで冷たいか」で意味が180度変わります。
末梢冷感
- 指先・足趾の先端のみ冷たい
- 環境因子(室温低下)、自律神経の反応(緊張・寒さ)でも起こりうる
- 健常者でも頻繁に経験する所見
- 単独では病的とは言えない
中枢冷感
- 手首・足首より中枢側(前腕・下腿、ひどいと上腕・大腿まで)が冷たい
- 心拍出量低下・末梢血管収縮による中心循環の保護を強く示唆
- ショック・心不全・低体温で出現
- 他のバイタル・所見と併せて評価し、緊急報告の後押しとする(中枢冷感単独で病態を確定するのではなく、強い疑いを医師判断につなげる)
触り方の習慣化
冷感を評価する時は、毎回必ず「指先→手首→前腕→上腕」と順番に触っていく。「指先のみ冷感」と「前腕まで冷感」では患者の状態がまったく違います。
記録例:
14:00、右上肢:指先のみ冷感、前腕は温
14:00、左下肢:足趾〜下腿まで冷感、左右差あり、ショック疑い
5. 時間帯で冷感の意味は変わる——「いつ触ったか」を必ず記録する
「朝の冷感は当たり前、午後の冷感は気にする」——熟練看護師が無意識にやっている判断、これを言語化します。末梢の冷感は時間帯で生理的に変動します。これを知らないと、「朝の冷え」を異常と誤認したり、逆に「午後にも続く冷感」をいつものことと見過ごしたりします。
なぜ時間帯で冷感が変動するか
末梢の冷感は生理学的にいくつかの要因でぶれます。厳密なメカニズム解説より、現場で押さえたいのは「ぶれうる要因が複数ある」という前提です。
- 概日リズム:深部体温は朝に低く午後に高い傾向。末梢の冷感も朝の方が出やすい
- 起床直後・睡眠中の循環状態:朝の検温時点では循環がまだ立ち上がっていない可能性。離床・歩行で改善するなら生理的反応の余地
- 食事による血流再配分:食後は消化管に血流が集中するため、末梢の所見が前後で変わることがある
- 自律神経の影響:ストレス・痛み・不安・寒さなどで末梢が収縮することがある
要するに、末梢所見は時間帯・環境・離床状況でぶれうる——この前提を持つだけで、「朝の冷感をすぐ病的と決めつけない」「午後にも続く冷感はより重く見る」という感覚が現場で持てるようになります。
生理的変動 vs 病的悪化——切り分ける3つの判断軸
- ①同時刻同士で比較する:朝6時の冷感は前日朝6時の所見と比較。異なる時刻同士で比較すると生理的変動を病的悪化と誤認する
- ②中枢まで及んでいるか・左右差があるか:時間帯由来の変動は通常末梢のみ・左右対称。中枢まで及ぶ・左右差があるなら時間帯では説明できない病的所見
- ③環境因子を排除して再評価する:室温・体位を整え10〜15分後に再評価。改善するなら環境・体位由来、改善しないなら病的所見の可能性
記録のコツ——時刻を必ず併記する
「冷感あり」だけではダメ。「14:00、左下肢:足趾〜下腿まで冷感、左右差あり、室温調整10分後も改善なし」と書く。これで次のシフトは同時刻の前日所見と比較/中枢まで及んでいる時点で時間帯由来ではないと判断/環境因子を排除しても改善しないという情報も持てる——主観の話ではなく判断のための材料が揃う。
「時間帯で違うから判断に困る」のは、観察スキルの問題ではなく、「いつ触ったか」と「環境条件」を記録する習慣がチームで揃っていないことが原因です。
6. 急性 vs 慢性——緊急度をどう見分けるか
末梢循環の異常には、分単位で進行する急性と、数日〜数年単位で進行する慢性があります。両者を同じトーンで観察・報告すると、緊急度が伝わりません。

急性(時間勝負)
| 病態 | 主な所見 | 初動 |
|---|---|---|
| コンパートメント症候群 | 5P徴候(特にPain・Paresthesia)、患肢の硬い腫脹 | 即報告・即整形受診。6〜8時間で不可逆 |
| 急性動脈閉塞 | 突然発症の冷感・蒼白・脈拍触知不能・痛み | 即報告。血栓溶解・血行再建のタイムウィンドウあり |
| ショック(各種) | CRT延長、中枢冷感、冷汗、意識低下、血圧低下 | 即RRT・医師コール。NEWSスコア併用 |
慢性(経過観察)
| 病態 | 主な所見 | 初動 |
|---|---|---|
| 末梢動脈疾患(PAD) | 間欠性跛行、足背触知微弱、皮膚萎縮、CRT延長 | 定期評価・主治医報告、フットケア |
| 糖尿病性足病変 | 足趾の感覚鈍麻、皮膚乾燥、潰瘍形成 | フットケア・予防教育、皮膚科/形成外科連携 |
| 心不全関連の浮腫・冷感 | 両下肢の浮腫、軽度の末梢冷感 | 原疾患の経過観察、体重・尿量・呼吸状態と併せて報告 |
緊急度トリアージ表
| 所見の組み合わせ | 緊急度 | 初動 |
|---|---|---|
| 持続痛・他動痛・硬い腫脹・しびれのいずれかが急性発症 | ★★★ | 即医師コール、整形・血管外科コンサルト(コンパートメント疑い) |
| 中枢冷感+CRT延長+意識低下 | ★★★ | 即RRT・医師コール、ショック疑い |
| 片側のみの冷感・蒼白・触知不能の急性発症 | ★★★ | 即報告、急性動脈閉塞・コンパートメント疑い |
| 両側の徐々に悪化する冷感、足背触知微弱 | ★★ | 定期評価、主治医へ報告 |
| 両側の指先のみ冷感、その他所見なし | ★ | 経過観察、室温・体位確認 |
「片側だけ/中枢まで/急速進行」の3要素のいずれかがあれば、急性病態を強く疑って即報告。これが基本ルールです。
7. なぜコンパートメント症候群を最も警戒するのか
末梢循環評価でCRTや冷感を執念深くチェックする。その目的の半分くらいは、ある一つの病気のためと言ってもいい——コンパートメント症候群です。末梢循環評価を学ぶ意味を本当に理解するには、この病気の病態を知っておく必要があります。
病態——筋区画内圧の上昇
私たちの四肢の筋肉は、いくつかの「区画(コンパートメント)」に分かれて存在し、各区画は強固な筋膜で囲まれていて伸び縮みしません。何らかの原因(骨折、打撲、出血、外部圧迫、再灌流障害など)で区画内圧が上昇すると、
- まず静脈が圧迫されて静脈還流が止まる
- 区画内のうっ血がさらに圧を高める(悪循環)
- やがて動脈血流まで停止する
- 筋・神経の虚血が始まる
筋膜が伸びないせいで、内側の圧がどんどん高まり、自分で自分の血流を絞めてしまう——これがコンパートメント症候群の本質です。
「最初に消えるのは静脈、次に動脈」——5P徴候の出現順序
5P徴候は同時に揃いません。順番に出てきます。
| 段階 | 出現する所見 | メカニズム |
|---|---|---|
| 早期 | Pain(持続痛) | 区画内圧上昇による神経刺激 |
| 早期 | Paresthesia(しびれ) | 神経への虚血開始 |
| 中期 | 患肢の硬い腫脹・他動運動時の激痛 | 区画内圧の更なる上昇 |
| 進行期 | Pallor(蒼白) | 動脈血流の低下 |
| 末期 | Pulselessness(脈拍触知不能) | 動脈血流の停止 |
| 末期 | Paralysis(運動麻痺) | 神経・筋の虚血壊死 |
つまり「足背動脈が触れなくなった時にはもう手遅れ」という事実があります。「脈は触れるから大丈夫」と判断してはいけない。まだ触れているうちに、痛み・しびれ・硬い腫脹で気付くことが看護師の仕事です。
6〜8時間ルールの根拠
- 動物実験・臨床研究で、筋肉組織が完全虚血に耐えられる時間は4〜6時間程度
- 神経組織はさらに早く、4時間程度で不可逆的な損傷
- 部分虚血でも8時間を超えると重大な後遺症リスク
この時間内に筋膜切開術(fasciotomy)を行えば組織を救える可能性があります。逆に時間を超えると、いくら手術をしても組織は戻らない。「朝発見されて、午前中の医師回診で報告すれば大丈夫だろう」というのが最も危険な思考。疑った瞬間に医師コールが原則です。
見逃した先にあるもの——フォルクマン拘縮
フォルクマン拘縮(Volkmann's ischemic contracture)——医学生・看護学生が必ず教科書で目にする病態です。
- 上肢(特に前腕)のコンパートメント症候群を放置した結果
- 数週〜数ヶ月かけて筋肉が瘢痕化・短縮し、関節が屈曲したまま固まる
- 手指は「鳥手(claw hand)」状の拘縮
- 不可逆性——一度起きたら基本的に元に戻らない
- 小児の上腕骨顆上骨折後の症例が古典的(牽引・ギプス装着後の見逃しが歴史的に多発)
下肢でも同様の現象は起こり、足関節の尖足拘縮・歩行障害として現れます。「6〜8時間で不可逆」という抽象的な数字を、「見逃したら手や足が一生戻らない」という具体的なイメージで持っておくと、観察の重みが変わります。
看護師ができる予防——観察と早期報告
コンパートメント症候群の治療は外科医の仕事ですが、早期発見は看護師の仕事です。特に注意すべき場面:
- 骨折後(特に四肢の閉鎖骨折・開放骨折)
- ギプス装着後(ギプス内で腫脹が進行する)
- 牽引中(介達牽引・直達牽引——包帯・絆創膏の圧迫、原疾患の腫脹進行で区画内圧が上昇しやすい。フォルクマン拘縮の古典的場面)
- 長時間の圧迫後(手術中の体位、無意識下での圧迫など)
- 再灌流後(虚血肢の血行再建術後)
- 出血・血腫形成後(抗凝固療法中、外傷後)
これらの患者では通常より頻回に末梢循環評価を行うこと。シフト交代時には必ず引き継ぐ。
8. 落とし穴になりやすい5場面
①高齢者の冷感——加齢性か病的か
高齢者は加齢に伴い末梢血管反応が低下し、もともと冷感があることが多い。鑑別のポイント:
- ベースラインからの変化があるか
- 左右差があるか(加齢性なら左右対称)
- 中枢まで冷感が及んでいるか(加齢性は通常、末梢のみ)
- 同時に意識・血圧・脈拍に変化があるか
「いつも冷たい高齢患者だから今日も冷感」と思考停止せず、変化に注目する。
②透析シャント側——標準比較は使えないが、虚血徴候は逆に見逃さない
透析患者のシャント側上肢は動静脈の血流が通常と異なるため、左右差を使った標準的な比較評価が成り立ちません。ただし、「シャント側だから評価しない」は逆に危険です。
注意すべきはスチール症候群(steal syndrome)——シャントが血流を「盗む」ことで、シャントより末梢側の手指に虚血が起きる合併症。シャント側手指の冷感・しびれ・色不良・疼痛は、見逃してはいけない虚血サインです。
評価の方針:
- 触知・CRTの左右比較は健側で(シャント側は通常の比較指標として使えない)
- シャント側のスリル(振動)・血流音は別途確認
- シャント側手指の冷感・しびれ・色不良・疼痛はスチール症候群のサインとして重視
- カルテで「右シャント/左シャント」を必ず確認
③化学療法後(CIPN)・糖尿病性神経障害——痛みを訴えない虚血
化学療法後(CIPN)や糖尿病性神経障害がある患者では、末梢の感覚が低下しているため、虚血が進行しても痛みを訴えないことがあります。「Pain(疼痛)」がないからといって虚血を除外できない。触知・色・温・CRTで判断。糖尿病患者の足では痛みのない潰瘍・壊死が進行することがあるため、フットケアでは必ず全足を視診する。
④浮腫が強い患者——触知困難時の代替評価
浮腫が著明な患者では、末梢動脈の触知自体が物理的に困難になります。代替評価:
- ドップラー血流計で動脈音を確認(施設にあれば積極的に活用)
- CRTを主軸に評価
- 皮膚色・温度の左右差を重視
- SpO2の波形が出るかも参考になる(指尖で取れない時は耳朶など)
「触れないから異常」ではなく、「触れない原因が浮腫なのか、灌流低下なのか」を切り分ける視点を持つ。
なお、色の評価も難しくなりますが、青紫=静脈うっ滞(DVT・心不全)、発赤=炎症(蜂窩織炎)、蒼白=動脈不全の合併、という色の傾向は浮腫があっても読み取れます。「浮腫だから色がおかしい」で片付けず、色の意味も併せて見る習慣を。
⑤皮膚色素が濃い・色素沈着がある患者のチアノーゼ評価
皮膚色素が濃い患者・下腿に色素沈着がある患者では、チアノーゼの目視評価が困難です。代替部位:
- 爪床(最も信頼できる)
- 口唇・口腔粘膜
- 眼瞼結膜
- 手掌・足底(色素が薄い)
色素の濃い部位だけで判断せず、色素の薄い部位を必ず確認する習慣をつける。
9. SBARで報告する——判断を揃える共通言語
ここまで観察と記録の話をしてきました。最後は「報告」です。SBARは医療現場で広く使われている報告フォーマット。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| S(Situation) | 何が起きているか |
| B(Background) | 患者の背景・既往 |
| A(Assessment) | 自分の評価・疑い |
| R(Recommendation) | こうしてほしい |
SBARテンプレ例(即報告型)
S:◯号室の◯◯さん、左下肢にコンパートメント症候群を疑う所見があります
B:本日10:00の脛骨骨折手術後、経時観察中の患者さんです
A:14:00時点で左下肢に5P徴候のうち4つ(持続痛・蒼白・足背動脈触知不能・しびれ)を認め、左下腿は硬い腫脹あり。CRTは左4秒(右2秒)
R:整形主治医にすぐ連絡をお願いします。同時に患肢を心臓と同じ高さに保ち、追加の冷却・圧迫は中止します
SBARテンプレ例(定期報告型)
S:◯号室の◯◯さん、両下肢の冷感と足背動脈触知微弱が続いています
B:PAD既往ある患者さん、入院時から両足背動脈触知微弱でフットケア介入中
A:本日も両足背触知微弱、CRT3秒(前日と同等)、新規所見なし、痛み・しびれの増悪なし
R:経過観察継続、次回主治医回診時に状況共有をお願いします
「変化がない」こともベースラインからの逸脱がないこととして明確に伝える。これが定期報告の本質。
いつ即報告/いつ次回検温で報告
| 状況 | 報告タイミング |
|---|---|
| 5P徴候3つ以上、中枢冷感、片側急性所見 | 即報告 |
| ベースラインから明らかに悪化 | 即報告 |
| ベースラインと同等、変化なし | 次回検温時/申し送り時 |
| 経過の中での軽度の変動(時間帯由来など) | 申し送り時 |
「迷ったら即報告」が原則。「呼んだら大事じゃなかった」より「呼ばなかったら手遅れだった」のリスクの方が圧倒的に高い。
10. よくある質問(Q&A)
Q1. CRT基準が先輩によって違うんですが、どう揃えればいいですか?
A. 基準のばらつきは全国的な問題で、あなたの職場だけではありません。「成人2秒・高齢者3秒」を施設の標準として提案し、CRT測定プロトコル(圧迫部位・秒数・基準値)を1枚にまとめて病棟で共有するのがおすすめ。個人で抱える問題ではなく、チーム単位で揃える問題として動くと解決しやすいです。
Q2. 中枢冷感と末梢冷感、現場でどう見分ければいいですか?
A. 触る順番を「指先→手首→前腕→上腕(または足趾→足首→下腿→大腿)」と固定する。指先だけ冷たいのが末梢冷感、前腕や下腿まで冷たいのが中枢冷感。中枢冷感は心拍出量低下・ショックを示唆する所見の1つ——単独で病態を確定するものではないけれど、見つけたら他バイタル全項目を即時確認し、組み合わせで強く疑える状況なら医師に早めに相談、が安全側の判断です。
Q3. 触知できないけどCRTは正常、これは異常ですか?
A. 単独では判断しきれません。他の所見と組み合わせて判断します。色・温・知覚運動も正常→もともと触れにくい体質(足背動脈は健常者の約10%でもともと触知困難)/色がやや悪い・冷感あり→慢性のPADの可能性/急に触れなくなった・痛みあり→急性動脈閉塞を疑う。「触れない」だけでなく、「いつから・他の所見はどうか」をセットで考えるのがコツ。
Q4. シャント側はどう観察すればいいですか?
A. 「シャント側は見なくていい」は誤解です。左右差を使った標準的な比較評価は使えませんが、シャント側こそスチール症候群(steal syndrome)——シャントが血流を盗むことで末梢手指に虚血が起きる合併症——のリスクがあります。シャント側手指の冷感・しびれ・色不良・疼痛は、見逃してはいけない虚血サインとして注意深く観察します。標準比較は健側で(触知・CRT)、シャント側は別途スリル・血流音+虚血徴候の有無を確認、という二段構えで見ます。カルテで必ず「右シャント/左シャント」を確認、申し送りでも明示しましょう。
Q5. チアノーゼがわかりにくい患者では何を見ればいいですか?
A. 皮膚色素が濃い・色素沈着がある場合は、爪床・口唇・眼瞼結膜・手掌・足底など色素の薄い部位を確認します。SpO2と併用すれば客観的な低酸素の指標が得られるので、目視+SpO2の組み合わせで判断します。
Q6. コンパートメント症候群、絶対見逃さないための初動を教えてください。
A. 「5Pが揃うのを待たない」が大原則。Pulselessness(脈拍消失)や Paralysis(運動麻痺)は末期所見で、出た時には組織が不可逆になっている可能性が高い。早期サインはPain(持続痛、特に他動運動で増悪)・Paresthesia(しびれ)・硬い腫脹・経時変化。「鎮痛剤が効かない持続痛」「患肢の硬い腫脹」が出たら6〜8時間以内に行動が必要。疑った時点で即整形コール、患肢を心臓と同じ高さに保ち、圧迫物(包帯・ギプス等)は医師指示のもと緩める準備を。「迷ったら呼ぶ」を絶対に守ってください。
Q7. 長時間座っていた患者の足の色が悪い時、ベッドに戻すべきですか?
A. まずは体位を変えて再評価します。下垂位での色不良は体位由来の可能性が高いですが、仰臥位にして10分後にも色が戻らない/痛み・しびれを伴う/片側のみ顕著——のいずれかがあれば、体位由来ではなく病的所見として報告対象になります。「とりあえずベッドへ戻して再評価」が正しい初動です。
Q8. 確認は指1本で大丈夫ですか?足の指と手の指、どっちで見ますか?
A. CRTは手の人差し指または中指の爪床、1本で十分です。複数の指で測ると値がばらついて解釈が困難になります。下肢の循環評価が必要な場合は、追加で足の母趾爪床でも測定し、上下肢を比較します。標準は手、必要に応じて足を追加するイメージです。
Q9. 末梢循環不全をそのままにしていたら、どうなりますか?
A. 病態によります。コンパートメント症候群→6〜8時間で不可逆的な筋・神経障害、放置すれば壊死・切断のリスク/急性動脈閉塞→数時間で組織壊死、血栓溶解のタイムウィンドウを逃すと血行再建が困難に/ショック→多臓器不全へ進行、致死的/PAD・糖尿病性足病変→数ヶ月〜年単位で潰瘍・壊死・切断のリスク。「急性所見」は時間勝負、「慢性所見」も進行性であることを覚えておくと、見逃しを防げます。
まとめ
- ✅ 5項目(色・温・脈・CRT・知覚運動)を左右上下のグリッドで記録——主観の話を客観の話に変える
- ✅ CRT測定プロトコルを施設で統一——CRTは公式な国際標準が確立していない指標。だからこそ施設内で「圧迫部位・秒数・基準値」を1つに揃え、共通言語化することが大切
- ✅ 冷感は「どこまで冷たいか」を必ず触る——中枢冷感は他バイタルと併せて報告判断の強い後押しに
- ✅ 時間帯由来の変動と病的悪化を切り分ける——同時刻同士で比較・中枢/左右差・環境因子の排除
- ✅ 急性所見(片側・中枢・急速進行)は報告判断の強い後押し——慢性所見は経過観察
- ✅ コンパートメント症候群は脈が触れる前に気づく——痛み・しびれ・硬い腫脹
- ✅ SBARで報告——「異変があれば報告」を脱却し、共通言語で動く
「先輩によって判断が違う」のは、あなたのスキル不足ではなく、チームのフォーマットがまだ揃っていないということ。この記事を職場のカンファレンスや勉強会で共有して、チームで評価軸を揃えるきっかけにしてもらえたら嬉しいです。
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参考・根拠
- 日本循環器学会「末梢動脈疾患(PAD)ガイドライン」
- 日本救急医学会「ショック診療指針」
- 日本透析医学会「透析患者における末梢循環障害」
- 日本離床学会「Q&A Vol.178 手足の冷感=心機能低下?」
- 整形外科領域:コンパートメント症候群の早期発見指針
- 看護roo!・ナース専科 等の標準看護記述
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この記事を書いた人
臨床ナースラボ 管理者現役看護師
日々の臨床で感じた「これ、もっと早く知りたかった」をもとに、チームで判断を揃えるための知識とツールを作っています。