手技・処置

経鼻経管栄養の看護|挿入から注入・観察まで、チームで判断を揃える実践ガイド

2026-05-31

経鼻経管栄養は、看護師にとって日常的な手技です。けれど「日常的」だからこそ、確認の手順が病棟ごと・看護師ごとにバラついていくことがあります。

この記事では、挿入の手順から位置確認、注入時の体位、観察項目までを、根拠とともにまとめます。特に「気泡音だけでは危ない」位置確認と、誤嚥を防ぐ体位・時間管理は、現場でいちばん判断が揺れやすいところなので、厚めに扱います。

一人で完璧にやることよりも、チームみんなで同じ基準で動けることを目指していきましょう。

経鼻経管栄養とは——基本のおさらい

経腸栄養のなかの位置づけ(経鼻 vs 胃瘻・腸瘻)

経鼻経管栄養は、鼻からチューブを胃まで挿入して、そこに栄養剤を注入する方法です。経腸栄養(消化管を使って栄養を入れる方法)のなかでは、比較的短期間の使用に向く方法として位置づけられています。

経鼻経管栄養胃瘻・腸瘻
留置期間短期向き(おおむね4〜6週以内)長期向き
侵襲性挿入は低侵襲、留置中の違和感あり造設時に手術が必要
自己抜去リスク比較的高い低い
嚥下リハビリへの影響チューブ自体が嚥下を妨げる場合がある影響が少ない

長期に経腸栄養が必要な患者さんでは、胃瘻への切り替えを検討するタイミングが訪れます。経鼻チューブを「とりあえずそのまま」にしておくのではなく、医師・栄養士・リハビリスタッフと一緒に、栄養経路全体を見直す視点を持ちたいところです。

適応と禁忌

主な適応は、以下のような患者さんです。

  • 意識障害や嚥下障害で経口摂取が難しい
  • 一時的に経口摂取が中断される(術後管理など)
  • 経口摂取だけでは必要栄養量が確保できない

一方、以下のような場合は禁忌または慎重な検討が必要です。

  • 消化管の通過障害(イレウスなど)
  • 重度の食道狭窄・食道静脈瘤
  • 顔面・頭蓋底骨折のある患者(頭蓋内迷入のリスクがあるため、経鼻は避け、代替経路を医師と検討する)
  • 出血傾向が強い患者

チューブの種類とサイズ

成人で一般的に使われるのは、8〜14Fr(フレンチ)程度の太さのチューブです。栄養剤の粘度や留置期間によって選択します。

  • 細め(8〜10Fr):違和感が少なく長期留置向き。粘度の低い栄養剤に
  • 太め(12〜14Fr):粘度の高い栄養剤や半固形剤、薬剤注入が多い場合に

素材はポリウレタンやシリコンが主流で、長期留置にはシリコン製が選ばれることが多くなっています。実際の推奨留置期間は素材や製品によって違うので、詳しくは記事末尾のQ&A(Q1)も参照してください。

挿入の手順

必要物品

  • 経鼻栄養チューブ(指示されたサイズ)
  • 潤滑剤(キシロカインゼリーなど。施設の指示に従う)
  • カテーテルチップシリンジ(20〜50mL)
  • 聴診器
  • 固定テープ
  • ガーグルベースン、ティッシュ
  • 手袋、エプロン、必要時マスク
  • pH試験紙(使用する場合)
経鼻経管栄養に必要な物品の一覧

必要物品:チューブ、潤滑剤、カテーテルチップシリンジ、聴診器、固定テープなど

手順とコツ(NEX法による挿入長の目安、頸部前屈の意味)

1. 体位を整える

ベッドの頭側を30〜45度程度に上げ、ファウラー位(半座位)にします。頭を支えてもらえる場合は、家族や別の看護師に協力をお願いするとスムーズです。

2. 挿入長を測る——NEX法

挿入する長さの目安として、古くから使われているのがNEX法です。

  • Nose(鼻尖) → Ear(耳朶) → Xiphoid(剣状突起)

この順にチューブを当てて長さを測ります。成人ではおおよそ45〜55cmになることが多く、これに少し(5〜10cm程度)足した長さを胃内到達の目安にする方法もあります。ただし、NEX法はあくまで目安であり、これだけで「胃に入ったはず」と判断するものではありません。施設によって測定の流派が微妙に違うこともあるので、自分の病棟のルールがどうなっているかを一度確認しておきましょう。

補足:NEX法=Nose-Ear-Xiphoidの頭文字をとった、外見上の長さ測定法です。

3. 挿入する

潤滑剤を先端〜10cm程度に塗布します。チューブを鼻腔に沿ってまっすぐ後方(耳の方向)に進めます。

咽頭にチューブの先端が達したら、患者さんに少し顎を引いてもらいます(頸部前屈)。これは、頸部を前屈させることで気道側にチューブが入り込みにくくなるためです。意識のある患者さんなら、「ごっくんと飲み込んでください」と声をかけ、嚥下のタイミングに合わせてチューブを進めます。

患者さんへの声かけと配慮

挿入時の声かけは、患者さんの協力を引き出す最大のポイントです。現場では、

  • 「ちょっと違和感がありますが、ゆっくり息をしてくださいね」
  • 「いま飲み込むタイミングです、ごっくんしてみてください」
  • 「あと少しです、つらかったら手で合図してください」

といった声かけを、ひと続きの動作のなかで自然にかけ続けるようにしています。先輩によく言われるのは、「患者さんが今チューブのどの段階にいるのか、声で伝え続ける」ということ。何も言わずに無言で進めると、患者さんは恐怖で身体が緊張してしまい、かえって挿入しにくくなります。

意識障害のある患者さんでも、聞こえている前提で声をかけ続けます。

困ったとき:嘔気が強い/抵抗が強い/チューブが進まない

  • 嘔気が強い:一度動きを止めて、深呼吸を促す。落ち着いてから再開する
  • 抵抗が強い・進まない:無理に押し込まない。少し引き戻してから、向きを変えて再挿入する
  • 咳き込み・チアノーゼ・声が出ない:気管に入っている可能性があるため、ただちにチューブを引き抜く

重要

「気管迷入の徴候」は、新人がいちばん見落としやすいポイントです。「咳き込みは挿入時には普通にあること」と片付けず、SpO2の低下や顔色の変化を必ずセットで観察しましょう。

位置確認——「気泡音だけ」では危ない【ここが要】

ここはこの記事でいちばん厚く扱いたいパートです。経鼻経管栄養で起こる最も重大な事故は、気管に入ったチューブから栄養剤を注入してしまうことだからです。

なぜここまで強調するのか——38.5%の病院で気管迷入が起きている

公益財団法人 日本医療機能評価機構 認定病院患者安全推進協議会の調査・提言によれば、調査対象となった512病院中197病院(38.5%)が経鼻栄養チューブの気管迷入を経験していることが報告されています。これは「ごく一部の特殊な事例」ではなく、どの病棟でも起こり得る事故だということを示しています。

そして同提言では、長年「位置確認の定番」とされてきた気泡音法(胃泡音の確認)について、はっきりと次のように述べています。

「胃泡音の確認は誤認が多いために信頼できる方法とは言えない」

(日本医療機能評価機構 認定病院患者安全推進協議会「経鼻栄養チューブ挿入の安全確保」提言より)

「気泡音が聞こえたから胃に入っている」と判断するのは、今のスタンダードでは不十分なのです。

公的提言で推奨される確認の3点セット

同提言が推奨しているのは、単一の方法に頼らず複数の方法を組み合わせることです。実務に落とすと、次の3点セットが軸になります。

① 胃内容物の吸引(第1推奨)

カテーテルチップシリンジで陰圧をかけ、胃内容物(消化液など)が吸引できるかを確認します。吸引物の色・性状(黄色〜緑色の消化液、食物残渣など)も合わせて記録します。pH試験紙が使える環境なら、吸引液のpHが5.5以下であれば胃内容物である可能性が高いと判断できます(試験紙の精度や施設プロトコルにより判断基準が異なる場合もあるため、あくまで一般的な目安として用います)。

「引けない」ときは、体位を少し変える、チューブを少し進めるか引き戻すなどで再度試みます。それでも引けない場合は、安易に「胃に入っていることにする」のではなく、他の確認方法に進む判断が必要です。

② 口腔内視認

舌圧子とライトで口腔内を覗き、チューブが咽頭で蛇行・とぐろを巻いていないかを視認します。意識のある患者さんでチューブが口の中で見える場合、ほぼ確実に挿入位置が間違っています。

③ マーキング位置の確認

挿入直後にチューブが鼻腔出口でどの目盛りにあるかをマーキング(油性ペンや記録)しておき、毎回の注入前に同じ位置にあるかを確認します。注入直前にマーキングが大きくずれていたら、気管側にずり込んでいる、あるいは抜けかけている可能性があります。

位置確認の3点セット(胃内容物吸引・口腔内視認・マーキング位置)

位置確認の3点セット:胃内容物吸引・口腔内視認・マーキング位置

気泡音法はあくまで補助——単独では信頼できないとされる理由

気泡音法は「シリンジで空気を10〜20mL注入し、心窩部で『ボコッ』という音を聴く」方法です。長らく標準的に行われてきましたが、気管や食道に入っていても似た音が聞こえることがあるため、これだけで胃内挿入を確認することは推奨されていません。

「気泡音は鳴ったが胃液は引けない」というとき、新人さんはどうしても気泡音を信じたくなりますが、この記事を読んだあとは、迷わず先輩・医師に相談する判断を選んでください。

X線確認・pH測定・エコーの位置づけ

  • X線確認:最も確実な方法。初回挿入時や、確認に迷いがある場合には積極的に医師に依頼します
  • pH測定:胃液(強酸性、pH 1〜5程度)と気管分泌物(中性〜弱アルカリ性)を区別する補助になります
  • エコー(超音波):施設によっては、頸部・心窩部エコーでチューブの走行を確認する方法も取り入れられつつあります

「全部やる」のではなく、「3点セットを基本に、不安があれば追加の確認を選ぶ」という構造で覚えておくと、現場で判断しやすくなります。

【チームで揃える推奨例】挿入直後・注入前の確認手順チェックリスト

▼ 挿入直後(必ず全項目)

  • 胃内容物の吸引ができたか/pH(可能なら)
  • 口腔内視認でチューブの蛇行がないか
  • マーキング(目盛り○○cm)を記録
  • 必要時X線確認を医師に依頼

▼ 注入前(毎回)

  • マーキング位置のずれがないか
  • 胃内容物が引けるか(少量でOK)
  • 咳・SpO2低下・顔色変化など気管迷入を疑う所見がないか

このチェックリストを病棟で「全員が同じ順番で実施する」形にしておくと、誰が担当しても確認の質が揃います。新人が一人で注入する場面でも、リストがあれば判断がぶれません。

注入の手順

注入前の確認(バイタル・腹部所見・胃残量・体位)

注入を始める前に、必ず次の項目をひととおり確認します。

  • バイタルサイン(特に発熱、SpO2、呼吸数)
  • 腹部所見(腹部膨満、腸蠕動音、嘔気の有無)
  • 胃残量(前回注入分の消化が進んでいるか)
  • 体位(頭側挙上30〜45度になっているか)
  • チューブの位置確認(前項の3点セット)

胃残量の取り扱いについて

「胃残○○mL以上なら中止」という絶対的な基準は、現在はやや弾力的に運用される方向にあります。明確なカットオフ値の有無は施設・ガイドラインで見解が分かれており、施設のプロトコルに従うのが原則です。一般的な目安として「200mL以上なら医師に報告」とする施設が多いものの、胃残量だけで機械的に中止するのではなく、嘔吐・腹部膨満・呼吸状態などの臨床所見と合わせて判断するのが今の流れです。

滴下速度の目安と調整(持続 vs 間欠、開始時の速度)

注入方式には、大きく2種類があります。

間欠注入持続注入
注入時間1回30〜60分程度を1日数回24時間または長時間かけて持続
適応比較的全身状態が安定下痢が多い、嘔吐リスクが高い、重症患者
利点食事に近いリズムが作れる消化管への負担が少ない
注意点急速注入による嘔気・下痢体位維持時間が長くなる

開始時は少量・低速からが原則です。初回や栄養剤を変更したときは、50〜100mL/時程度の低速から始め、症状を見ながら段階的に増やしていくのが一般的な目安です(製品の指示や施設基準に従ってください)。

注入中・注入直後にチェックする3つのサイン

  • 呼吸状態の変化(咳、SpO2低下、呼吸数の上昇)
  • 腹部症状(嘔気、嘔吐、腹部膨満、痛み)
  • チューブからの逆流・漏れ

このうちどれか一つでも出たら、いったん注入を止めて評価する判断を躊躇しないでください。

体位と時間管理——誤嚥を防ぐ最大のポイント【厚め】

注入中の体位:なぜ30〜45度のファウラー位なのか

注入中の体位は、頭側挙上30〜45度のファウラー位(半座位)が基本です。

補足:ファウラー位=上体を起こした半座位の体勢のこと。背もたれの角度で30度・45度・60度などに分けて呼ばれます。

なぜこの角度かというと、胃の位置を食道より下にして、胃内容物の逆流を物理的に起こしにくくするためです。仰臥位(水平に寝かせた状態)で注入すると、胃の入口(噴門)と食道の高さがほぼ同じになり、わずかな腹圧や体動で内容物が食道に逆流しやすくなります。逆流した内容物が気道に入れば、誤嚥性肺炎の引き金になります。

角度の根拠——胃食道逆流の物理と研究エビデンス

人工呼吸器関連肺炎(VAP)の研究領域では、仰臥位と比較して頭側挙上が肺炎発生率を有意に下げることが繰り返し報告されており、「頭側挙上30〜45度」が国際的に推奨されています。経腸栄養も基本的な機序は同じで、胃内容物の逆流を防ぐという観点から、同等の角度が推奨されてきました。

ただし、「45度の方が30度より良い」と機械的に決まっているわけではありません。60度近くまで上げると、ずり下がりで仙骨部に圧がかかり褥瘡リスクが上がること、患者さんの安楽性が損なわれることなどから、現実的な落としどころとして30〜45度という幅で示されています。

注入後の体位維持時間(目安は30〜60分)

注入が終わった直後にすぐ水平に戻すと、胃に入った栄養剤がそのまま逆流してきてしまいます。一般的には、注入終了後30〜60分はファウラー位を維持するのが目安とされています(施設のプロトコルや患者さんの状態に合わせて調整します)。

これは、その時間で胃から十二指腸への排出がある程度進み、胃内容量が減ることで逆流リスクが下がるためです。

「30分か60分か」は患者さんの状態によって調整しますが、少なくとも30分は維持することを病棟の基準にしている施設が多いです。とくに高齢者・寝たきり・嚥下機能低下のある患者さんでは、60分以上の維持を目安にすることもあります。

30〜45度のファウラー位(角度の目安と支持クッションの当て方)

30〜45度のファウラー位:角度の目安と支持クッションの当て方

患者さんの安楽との両立——崩れない工夫(クッション、関節拘縮への対応)

理屈はわかっても、現場で30〜45度を保ち続けるのは意外と難しいですよね。患者さんは時間が経つにつれてずり落ちてきますし、関節拘縮のある方では、教科書通りの体位がそもそも取れません。

現場で実際に使われている工夫としては、

  • 背中・肩・大腿下にクッションを入れて、ずり下がりを防ぐ
  • 足側を少しだけ挙上して、骨盤が下にずれない支点を作る
  • 関節拘縮のある患者では、無理に整えず、「胃が食道より低くなっている」状態が保てているかを基準に角度を調整する
  • 円背の強い患者では、背中側に厚めのクッションを当てて、胃の位置が高くなりすぎないように調整する

「角度計で測ったら何度」よりも、「胃と食道の高低差が保たれているか」という機能的な視点で判断するのが現実的です。

拘縮や円背のある患者でのポジショニング例

拘縮や円背のある患者でのポジショニング例

【チームで揃える推奨例】体位・時間管理ルールの作り方

患者さんごとに体型や拘縮の状況が違うので、「全員一律30度」にすると現場で破綻します。次のように患者ごとのカルテに体位条件を明記し、誰が見ても同じ体位を作れるようにするのがおすすめです。

例:

  • 注入中の角度:45度(ベッド頭側角度表示の目盛りで指定)
  • 補助:右肩下に三角クッション、左大腿下にロールクッション
  • 注入後維持:45分
  • 患者の合図:手元のナースコールで体位調整を依頼してよい

このように「角度・補助物・時間・本人の合図方法」まで書ききっておくと、夜勤帯の応援スタッフでも迷いません。週1回の看護カンファレンスで見直すサイクルにすると、患者さんの状態変化にも追従できます。

観察項目と合併症対応

注入中の観察(呼吸・腹部・表情・SpO2)

注入中は「入れて放置」ではなく、患者さんのそばを定期的に通って表情と呼吸を見るのが基本です。とくに以下を気にします。

  • 呼吸数・SpO2・咳の有無
  • 腹部の張り、嘔気、ゲップの増加
  • 表情・苦痛の訴え
  • チューブ周囲からの逆流・漏れ

ベッドサイドモニターのSpO2だけを信じすぎないこと。表情の変化がいちばん早いサインになることもあります。

中止・中断の判断基準

次のいずれかがあれば、まず注入を止めて評価するのが安全です。

  • 嘔吐
  • 急な咳き込み・SpO2低下
  • 強い腹部膨満や腹痛
  • 意識レベルの低下
  • 出血性の胃内容物が引けたとき

「止めるかどうか迷ったら、いったん止める」が新人にとっての安全な判断軸です。

主な合併症と対応

  • 下痢:栄養剤の浸透圧、注入速度、温度、抗菌薬使用などが要因。速度を下げる、栄養剤を変更するなどを医師と相談します
  • 嘔吐・逆流:体位不良、胃残過多、注入速度が主な原因。注入を止め、体位と胃残を再評価します
  • チューブ閉塞:現場で本当によく起きるトラブル。薬剤注入後の白湯フラッシュなどで予防します(Q3も参照)
  • 自己抜去:認知症やせん妄のある患者さんで頻発します(後述)
  • 誤嚥性肺炎:発熱・SpO2低下・痰の増加で気づくことが多いです。注入中の体位、注入速度、口腔ケアの徹底が予防の3本柱になります

コーヒー残渣・血性胃残が引けたとき

重要

胃内容物を吸引したときに、コーヒー残渣様(黒っぽい)や鮮血が混じった胃内容物が引けることがあります。これは胃粘膜からの出血を示唆する所見なので、ただちに注入を中止し、医師に報告します。バイタル(とくに血圧・脈拍)と合わせて報告できると、緊急性の判断がスムーズです。

口腔ケアと固定管理

経鼻チューブ留置中の口腔ケアが重要な理由

「経口摂取していないから口腔ケアは軽くて良い」と思われがちですが、実はその逆です。経腸栄養中の患者さんは、唾液分泌が減り、自浄作用が低下することで、口腔内の細菌が増えやすい状態にあります。その細菌が誤嚥性肺炎の温床になります。

  • 1日2〜3回を目安に口腔ケアを実施
  • 保湿剤(口腔湿潤ジェルなど)の活用で乾燥を防ぐ
  • 経鼻チューブが舌に当たって不快感がある場合は、チューブの固定位置の見直しも検討する

固定方法とテープかぶれ予防

固定テープは、鼻翼〜頬にかけて貼ることが多いですが、長期になるとテープかぶれや皮膚剥離が起こります。

  • 同じ位置に貼り続けない——貼り替えのたびに少しずらす
  • 皮膚被膜剤を使う
  • シリコン系の優しいテープを選択する
  • 鼻翼への圧迫が強くないか——鼻翼の褥瘡(医療関連機器圧迫創傷/MDRPU)に注意する
経鼻チューブの固定方法(鼻翼〜頬のテーピング例、貼り替え位置のずらし方)

経鼻チューブの固定方法:鼻翼〜頬のテーピング例、貼り替え位置のずらし方

自己抜去予防の工夫

自己抜去は、現場で頻発するトラブルの代表です。

  • チューブの存在を意識させない工夫(衣服の下を通す、視界に入らない方向に固定する)
  • 手元の不快感を取り除く(爪が引っかかる位置にしない)
  • 不穏の原因の評価(疼痛、不眠、便秘、薬剤性せん妄など)

ミトンや抑制帯の使用は最終手段です。「そもそも今、この経鼻チューブは本当に必要か?」を医師・多職種と再評価することも、立派な抜去予防策です。

チームで判断を揃えるための「観察記録の書き方」

最低限残すべき記録項目

  • 注入前のバイタル・腹部所見・胃残量
  • 位置確認の方法と結果(マーキング位置、吸引内容物)
  • 体位(角度)と注入時間・速度
  • 注入中の変化(あれば)
  • 注入後の体位維持時間と終了時の所見

「なんとなく」を残さない書き方(定性→定量)

ここはサイトのもう一つの軸、「定性→定量」を意識したい部分です。

「なんとなく」な書き方揃えたい書き方(定量・定性の明確化)
「胃残少量」「胃残30mL、黄色透明、性状変化なし」
「呼吸状態問題なし」「呼吸数18回/分、SpO2 97%(室内気)、咳なし」
「体位整え、注入終了」「45度ファウラー位を45分維持し、終了時嘔気なし」
「腹部所見異常なし」「腹部平坦、腸蠕動音良好、圧痛・膨満なし」

数字と性状で書くと、次の勤務帯の看護師が同じ基準で経過を追えるようになります。「少量」「異常なし」が積み重なると、何かが起きたときに「いつから変化したのか」が読み取れない記録になってしまいます。

申し送りで揃えたい言葉

申し送りでも、揃えるべき5項目を決めておくと、誰が送っても同じ情報量になります。

  • 体位の指定(角度・補助物)
  • 注入時のバイタル・胃残量の傾向
  • マーキング位置のずれの有無
  • 注入中・注入後の変化
  • 次勤務帯への申し送り事項(注意してほしいサイン)

【チームで揃える推奨例】記録テンプレートの共有

病棟で経腸栄養用の記録テンプレートを作っておくと、誰が記録しても項目の漏れがなくなります。電子カルテのテンプレート機能を使えば、入力もスムーズです。

例:【経腸栄養記録テンプレート】

  • 体位:○○度/○○分維持
  • 位置確認:胃内容物 ○mL(色:  )/マーキング位置 ○○cm/視認 ○
  • 注入:○○ mL / ○○ mL/時 / 開始 ○○:○○ 終了 ○○:○○
  • 注入中所見:呼吸数 ○、SpO2 ○%、嘔気 −、咳 −、腹部 −
  • 注入後維持:○○分、終了時所見 ○○

「全員が同じ枠に入れる」だけで、引き継ぎ精度がぐっと上がります。

よくある質問(Q&A)

Q1: 経鼻チューブはどれくらいの期間留置できる?

A: 製品やメーカーによって推奨留置期間は異なりますが、ポリウレタン製で4週間程度、シリコン製で4〜8週間程度を目安にしているものが多いです(必ず製品の添付文書と施設基準を確認してください)。ただし「期間が来たから自動的に交換」ではなく、閉塞・劣化・固定部の皮膚トラブルなどの臨床所見も合わせて判断します。4〜6週を超えて長期に経管栄養が必要な見込みなら、胃瘻造設の検討を多職種で話し合う一般的な目安と考えてよいでしょう(施設や患者さんの状態により前後します)。

Q2: PEG(胃瘻)への切り替えは、どのタイミングで医師に話せばいい?

A: 明確な「ここで切り替え」というラインは決まっていませんが、経鼻経管栄養が4〜6週を超えて続く見込みになったときが、一般的な話し合いタイミングの目安になります(厳密なラインではなく、患者さんの全身状態や予後の見込みによって判断します)。経鼻のままにしておくデメリット(鼻翼の褥瘡リスク、嚥下リハの妨げ、自己抜去のリスク、本人の不快感)が、長期化するほど積み上がっていくからです。

切り替えの議論は看護師から発信してよい論点です。たとえば、

  • 「最近、自己抜去が○回/週で増えている」
  • 「鼻翼の皮膚が赤くなってきている」
  • 「ご家族から『いつまで鼻のチューブですか』と質問があった」

といった現場の観察を、医師・栄養士・ST(言語聴覚士)・MSWを含めた多職種カンファレンスに持ち込むのが流れを作りやすい方法です。胃瘻造設は本人・家族の意思決定が必要なので、情報提供のタイミングを早めに作ることが看護師の役割になります。

Q3: とろみ剤や薬剤を注入してもいい?

A: 薬剤注入は基本的に可能ですが、注意点があります。

  • 簡易懸濁法(錠剤・カプセルを温湯で崩壊させる方法)が使えるか、薬剤師に相談してから注入する
  • 徐放剤・腸溶剤・口腔内崩壊錠は粉砕してはいけないものが多いので、薬剤師の確認が必須
  • 薬剤注入の前後で20〜30mL程度の白湯フラッシュを行い、チューブ閉塞を防ぐ
  • とろみ剤の注入は基本的に行わない(チューブ閉塞の最大要因の一つ)。粘度の高いものは半固形栄養剤として設計された製品を使う

Q4: 在宅で家族が管理する場合、最低限教えるべきことは?

A: ご家族が管理する場合、「これだけは絶対」を優先順位で伝えます。

  • 体位(30〜45度を保ち、注入後30分は起こしておく)
  • 位置確認(マーキングがずれていないか、胃液が引けるか)
  • 異常時の対応(咳き込み・嘔吐・SpO2低下があればすぐ中止して連絡)
  • チューブ固定とテープかぶれの観察
  • 連絡先(訪問看護・主治医・夜間救急の電話番号を書いた紙を冷蔵庫に貼る)

退院前に家族と一緒に1回は注入を最初から最後まで実施しておくと、当日の不安が大きく減ります。

Q5: 経鼻チューブを長期使用していると鼻翼に褥瘡ができる。予防のコツは?

A: これはMDRPU(医療関連機器圧迫創傷)の代表例で、日本褥瘡学会のガイドラインでも注意喚起されている合併症です。チューブが鼻翼を持続的に同じ向きで圧迫し続けることが原因なので、予防は「圧を逃がす・分散する」がキーワードになります。

現場で実践しやすいコツは次のとおりです。

  • 固定位置を毎日少しずつずらす(鼻翼→鼻背→反対側の頬など、点ではなく面で支える)
  • チューブを頬側で「ひと曲げ」してテンションを逃がす(鼻翼を引っ張る方向に直接力がかからないようにする)
  • 皮膚被膜剤やハイドロコロイドドレッシングを鼻翼に貼って、テープと皮膚の間にクッションを作る
  • 1日1回は固定テープを外して皮膚を観察——発赤・水疱・びらんを早期発見する
  • 発赤を見つけたら早めに固定方法を変更(必要に応じて皮膚科や褥瘡対策チームに相談)

「気づいたときには深い創ができていた」となりやすい部位なので、チームで「鼻翼チェック」を毎日の申し送り項目に入れることを病棟ルールにできると安心です。

まとめ

  • 経鼻経管栄養は短期向きの経腸栄養——長期化するなら胃瘻への切り替えを検討
  • 挿入時は頸部前屈+嚥下のタイミングを活かす。声かけを切らさない
  • 位置確認は気泡音だけでは不十分——①胃内容物吸引 ②口腔内視認 ③マーキングの3点セットを基本に
  • 注入時の体位は30〜45度のファウラー位、注入後は30〜60分維持
  • 観察は呼吸・腹部・表情の3点を意識し、迷ったらまず止める
  • 口腔ケアは経腸栄養中こそ重要——誤嚥性肺炎予防の柱
  • 記録は「なんとなく」を残さず、数字と性状で——チームで判断が揃う土台になる

経鼻経管栄養は、看護師の手技のなかでも「個人差」と「事故リスク」の両方が大きいケアです。だからこそ、チームで同じ基準を持つことが、患者さんの安全と、自分自身の判断のよりどころになります。今日からひとつでも、病棟で「揃える」会話を始めてみてください。

参考・根拠

  • 公益財団法人 日本医療機能評価機構 認定病院患者安全推進協議会「経鼻栄養チューブ挿入の安全確保」(提言、2006年)
    https://www.psp-jq.jcqhc.or.jp/post/proposal/717
  • 日本栄養治療学会(JSPEN、旧 日本静脈経腸栄養学会)編『静脈経腸栄養ガイドライン 第3版』照林社、2013年
  • 一般社団法人 日本褥瘡学会編『ベストプラクティス 医療関連機器圧迫創傷の予防と管理』照林社、2016年(Q5 鼻翼MDRPUの根拠)
  • PMDA(医薬品医療機器総合機構)医療安全情報:経鼻栄養チューブ誤挿入に関する注意喚起
  • CDC "Guidelines for Preventing Health-Care-Associated Pneumonia, 2003"(VAP予防における頭側挙上の推奨)
  • 看護roo!「経管栄養剤注入の実施方法」(kango-roo.com/mv/53/)
  • 日本看護協会 看護業務基準

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この記事を書いた人

臨床ナースラボ 管理者現役看護師

日々の臨床で感じた「これ、もっと早く知りたかった」をもとに、チームで判断を揃えるための知識とツールを作っています。