動機づけ面接(MI)入門——患者の「変わりたい気持ち」を引き出すコミュニケーション技術
2026-04-04
「薬、ちゃんと飲んでくださいね」と伝えたとき、患者さんが「はい」と返事をしても、次の外来でまた飲めていない——そんな経験、一度はあると思います。
指導はした、説明もした。それでも行動が変わらない。そのたびに「どう伝えれば届くんだろう」と悩む看護師は少なくないはずです。
動機づけ面接(Motivational Interviewing、以下MI)は、そんな場面にこそ力を発揮するコミュニケーション技術です。「正しいことを教える」のではなく、患者さん自身の中にある「変わりたい気持ち」を引き出すというアプローチです。
この記事では、MIの考え方の基本から、実際の会話例まで、現場で使えることを意識して解説します。
1. 動機づけ面接の概要
どうして生まれたか?——アルコール依存症の現場から
MIは1980年代、心理学者のウィリアム・ミラー(William R. Miller)によって提唱されました。最初はアルコール依存症の治療場面で「どうすれば患者が自分から変わろうとするか」を研究する中で生まれたアプローチです。
その後、スティーブン・ロルニック(Stephen Rollnick)との共著で体系化が進み、現在では糖尿病・高血圧・禁煙・服薬管理など、あらゆる行動変容の場面に応用されています。
MIが大切にする4つの精神(PACE)
MIはテクニックの寄せ集めではなく、その根底に「精神(スピリット)」があります。ミラーとロルニックはこれをPACEという4つの要素で表しています。

| 頭文字 | 英語 | 日本語 | 意味 |
|---|---|---|---|
| P | Partnership | 協働 | 医療者と患者は対等なパートナー |
| A | Acceptance | 受容 | 患者の自律性と価値観を無条件に尊重する |
| C | Compassion | 思いやり | 患者の利益を最優先に考える |
| E | Evocation | 引き出す | 変化への動機は患者の中にある。それを引き出す |
なかでも重要なのが Evocation(引き出す) という考え方です。「変わるべき理由を教え込む」のではなく、「患者自身がすでに持っている動機を引き出す」——この発想の転換がMIの核心です。
エビデンスはある?——研究から見るMIの効果
MIの効果は複数のメタ分析で確認されています。Hettemaら(2005年)の系統的レビューでは、BMI・血圧・コレステロール・飲酒量など様々な指標で有意な改善が示されています(効果量は小〜中程度)。
看護師によるMIに絞った研究でも、慢性疾患患者のQOLが有意に改善するという結果が出ています(標準化平均差 SMD:0.258〜0.296、Uzunら 2022/2024)。効果量として「大きい」わけではありませんが、日常の会話を少し変えるだけでこれだけの変化が生まれるという意味では、十分に注目に値します。
2. 看護師が使いやすい形に落とすと
MIの基本スキル:OARS
MIには、実践のための基本スキルとしてOARSという枠組みがあります。

O — Open questions(開かれた質問)
「はい/いいえ」で答えられない質問です。患者さんが自分の言葉で話せるよう、場を開きます。
例:「最近、体の調子はどうですか?」「薬について、どんなふうに感じていますか?」
A — Affirmations(是認)
患者さんの強みや努力を、具体的に認める言葉です。お世辞ではなく、本当に見えているものを伝えます。
例:「毎日忙しい中で、ここまで通い続けてくれているんですね。」
R — Reflective listening(反映的傾聴)
患者さんの言葉を、そのまま、または少し言い換えて返す技術です。「ちゃんと聞いていますよ」というメッセージになります。
例:患者「薬を飲むのが面倒で…」→ 看護師「毎日続けるのが、しんどく感じているんですね。」
S — Summaries(要約)
これまでの会話の要点をまとめて伝えます。患者さんが自分の気持ちを整理する助けになります。
例:「今日お話を聞いていて、○○さんは薬の副作用が心配で、でも体のことも気になっている、という気持ちがあるということですね。」
「説得」ではなく「引き出す」——正したい反射に気づく
MIを学ぶとき、多くの医療者が最初に気づくのが「正したい反射(righting reflex)」です。
「患者さんに正しい行動を取ってほしい」という思いから、つい正解を教えたり、説得しようとしてしまう——これは悪意ではなく、むしろ真剣に関わっているからこそ起こる反応です。でも実際のところ、人は「外から言われたこと」より「自分で気づいたこと」のほうが行動に移しやすいという特性があります。MIはこの性質を最大限に活かすアプローチです。
よくある誤解
「同調することで、悪い習慣を増長してしまうのでは?」
これは、MIを学ぶ多くの人が最初に抱く疑問です。MIは「なんでもOK」と言い続けるスタンスではありません。患者さんの価値観や気持ちを尊重しながら、変化の方向に一緒に向かっていく「伴走」のスタンスです。否定せず、でも流されない——そのバランスがMIの難しさでもあり、深さでもあります。
「時間がないと使えない」
確かに、丁寧なMIセッションには時間が必要です。でも、OARSの中の「O(開かれた質問)」を1つ意識するだけでも、患者さんとの関係は少し変わります。最初から全部やろうとしなくていいのです。
3. 会話例で見てみよう
場面:外来で、内服を続けられていない患者さんへの声かけ
NG例:正したい反射が出てしまっている
看護師:「血糖値がまた上がっていますね。薬、飲めていましたか?」
患者:「…なかなか忘れちゃって。」
看護師:「そういうことをしていると、合併症が出てしまいますよ。大丈夫だから、ちゃんと飲みましょう。毎食後にアラームを設定してみてはどうでしょう?」
看護師は親身になっているつもりでも、患者さんからすると「責められた」「また言われた」と感じやすい構造。アドバイスも「聞いてもいないのに提案された」と受け取られると抵抗感が生まれます。
OK例:MIを意識すると
看護師:「血糖値の数値、一緒に確認しますね。薬について、最近どんなふうに感じていますか?」(O)
患者:「…なんか面倒で、つい忘れちゃうんですよね。」
看護師:「毎日続けるのが、しんどく感じているんですね。」(R)
患者:「そうなんです。でも、このままだとまずいとは思ってて…」
看護師:「体のことはちゃんと気にしてくれているんですね。(A)…そのまずいと思う気持ち、もう少し聞かせてもらえますか?」(O)
患者:「足のしびれが怖くて。親が糖尿病で、合併症になったのを見ているから。」
看護師:「大切なご経験をしてきたんですね。それがあって、自分はなんとかしたいという気持ちがあるんですね。(R)…今のお話を聞いていると、○○さんは薬を飲むのが面倒でも、合併症への怖さがあって、変えたいと思っている——そういうことですかね?」(S)
患者:「…そうですね。なんとかしないとな、と思います。」

4. まとめ・まず試してみよう
動機づけ面接は、患者さんを「変えさせる」技術ではなく、患者さんが自ら変化を選ぶのを支える技術です。
その根底にあるのは、テクニックではなくスピリット——「この人には変わる力がある」という信頼です。
最初から完璧にやろうとしなくていいです。まず、次の患者さんとの会話で「O(開かれた質問)を1つ使ってみる」だけで十分です。
一つ変えるだけで、会話が変わります。会話が変わると、患者さんの表情が変わることがあります。
そしていつか、チームみんながこのスピリットを共有できたとき、病棟の空気そのものが少し変わるかもしれません。一人から始めて、少しずつ広げていく——それがMIの現場への根付かせ方だと思います。
参考文献
- Hettema J, Steele J, Miller WR. (2005). Motivational Interviewing: A systematic review and meta-analysis. Annual Review of Clinical Psychology, 1, 91–111.
- Miller WR, Rollnick S. (2013). Motivational Interviewing: Helping People Change (3rd ed.). Guilford Press.
- Uzun S, et al. (2022). The effect of motivational interview conducted by nurses on quality of life: Meta-analysis. Perspectives in Psychiatric Care.
- Uzun S, et al. (2024). The effect of motivational interviewing on quality of life and self-efficacy behaviors of individuals with chronic illness. Public Health Nursing.
- 医学界新聞 第3408号 (2021). 動機づけ面接で患者の意欲を引き出す. 医学書院.
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この記事を書いた人
臨床ナースラボ 管理者現役看護師
日々の臨床で感じた「これ、もっと早く知りたかった」をもとに、チームで判断を揃えるための知識とツールを作っています。