手技・処置

摘便の手順・適応・禁忌まとめ|安全に実施するポイント

2026-03-31

摘便とは?目的と適応を理解しよう

摘便の定義と目的

摘便(てきべん)とは、自力で排便できない患者さんに対して、看護師が指を直腸内に挿入し、便を用手的に取り出す処置のことです。

目的は主に以下のとおりです:

  • 直腸内に停滞した硬便・嵌入便を除去する
  • 排便障害による腹部不快感・苦痛を緩和する
  • 腸閉塞の原因となる嵌入便を除去することがある
直腸内に便が嵌入している状態の断面イラスト
直腸内に硬便が詰まった嵌入便の状態。便が栓のように直腸を塞いでいる。

嵌入便とは?

「嵌入便(かんにゅうべん)」とは、直腸内で便が硬くなり、栓のように詰まった状態です。腸が動いても便が出てきません。

嵌入便が生じやすいのは:

  • 長期臥床・活動量の少ない患者さん
  • 水分摂取が不十分な患者さん
  • 脊髄損傷や神経疾患で排便反射が低下している患者さん
  • 麻酔後・術後の腸蠕動低下がある患者さん

摘便の適応

  • 直腸内に便貯留があり、腹部触診または直腸診で確認できる
  • 自然排便・努責が困難な状態(麻痺・疼痛・意識レベル低下など)
  • 浣腸が禁忌または無効の場合
  • 医師から実施の指示または承認を得ている

ポイント

摘便は看護師が独断で実施するのではなく、医師の指示または事前の取り決め(プロトコル)のもとで行うことが基本です。判断に迷うときは必ず医師に確認しましょう。

摘便の禁忌・注意が必要な状態

原則として実施を避ける状態

禁忌の状態理由
肛門・直腸の炎症性疾患(クローン病・潰瘍性大腸炎など)粘膜損傷・出血・穿孔のリスク
直腸・肛門の術後(吻合部が近い場合)縫合不全・穿孔のリスク
肛門周囲の著明な疼痛・出血病態を悪化させる可能性
循環動態が不安定な状態迷走神経反射でさらに悪化

相対禁忌・慎重に行うべき状態

  • 血小板減少・抗凝固薬使用中(出血リスク上昇)
  • 痔核・裂肛がある(痛みが強く、損傷しやすい)
  • 高齢・認知症患者(説明理解が困難、突然の体動に注意)

実施前に知っておくべきアセスメント

バイタルサイン・腹部の観察

  • バイタルサイン:血圧・脈拍(迷走神経反射のベースラインを把握)
  • 腹部の視診・触診:腹部膨満・腸蠕動音・便貯留の部位を確認
  • 肛門周囲の観察:出血・炎症・痔核・皮膚損傷の有無

患者への説明と同意

摘便は患者さんにとって身体的・精神的な苦痛を伴う処置です。実施前の説明は丁寧に行いましょう。

  • これから何をするのか(処置の内容)
  • どんな感覚があるか(圧迫感・違和感)
  • 何か変化があればすぐ伝えてほしいこと
  • 嫌ならいつでも中断できること

声がけ例

「お通じが出づらい状態なので、今日は指を使って直腸内の便を取り出させていただきます。少し圧迫感があるかもしれませんが、痛みが強いときはすぐ教えてください。」

必要物品と環境の準備

物品備考
使い捨て手袋(2枚重ね)破損時の汚染防止に2重が有効
潤滑剤(キシロカインゼリー等)痛みの軽減・粘膜保護に多めに使用
使い捨てエプロン感染対策
マスク感染対策
処置用防水シーツ寝具汚染の防止
バスタオル・カーテンプライバシー確保
便器・ビニール袋摘出した便の処理用

現場のコツ

手袋は必ず2枚重ねて着用します。万が一内側の手袋が破損しても汚染を防げ、次の処置にもスムーズに移行できます。

プライバシーの確保

  • ベッド周囲のカーテンを閉める
  • ドアを閉める
  • バスタオルで不必要な露出を防ぐ
  • 複数スタッフが関わる場合は最小限の人数に

摘便の実施手順(ステップ解説)

摘便の体位(左側臥位)のイラスト
左側臥位(シムス体位)。左側を下にして横向きに寝て、膝を軽く曲げた姿勢をとる。

STEP1 体位を整える(左側臥位の理由)

患者さんを左側臥位(シムス体位)にします。

なぜ左側臥位なのか?

  • 直腸・肛門が看護師側に向き、処置がしやすくなる
  • 便がS状結腸から重力で直腸に下降しやすくなる
  • 患者さんの不安が軽減しやすい(顔が反対を向くため)

膝を軽く曲げてもらい、腰の下に防水シーツを敷いておきます。

STEP2 肛門周囲の観察

  • 発赤・腫脹・出血・亀裂・痔核の有無を確認する
  • 異常がある場合はこの時点で中止し、医師に報告する

STEP3 指の挿入と便の確認

  1. 利き手の人差し指に潤滑剤を多めに塗布する
  2. 「口で息を吐いてください」と伝え、肛門括約筋を弛緩させる
  3. 息を吐いたタイミングに合わせてゆっくり挿入する
  4. 指の方向は臍方向(斜め前上方)へ向ける
  5. 指は第2関節程度(一般に約4〜6cmを目安)までとし、無理な深挿入は避ける

根拠

直腸前壁への圧迫は穿孔リスクが高いため、前壁への強い圧力は禁忌です。指の腹を使い、後壁(仙骨側)を意識しながら挿入します。

便に触れないときは?

  • 便が直腸のさらに奥にある可能性がある
  • 無理に深く挿入せず、医師に報告・浣腸の検討を相談する

STEP4 便の摘出(コツと注意点)

軟便〜中等度の硬さの場合:

  • 指を便に当て、円を描くようにくるくると動かしながら外へ誘導する
  • 便の一部を「引っかけるように」肛門方向へ運ぶ

硬い塊便の場合:

  • 指先で少しずつ便を砕いてから取り出す
  • 一度に大量に取り出そうとしない
指の動かし方のイラスト(くるくる回す・引っかける)
左:円を描くように回転させる方法 / 右:引っかけるように肛門方向へ誘導する方法

現場のコツ(現役看護師より)

潤滑剤はためらわず多めに使うのがポイントです。「今、どんな感じですか?」と継続的に声がけしながら進めることで、苦痛の早期発見にもつながります。

処置の中断を検討するタイミング:

  • 出血が確認できたとき
  • 患者さんが強い痛みを訴えたとき
  • バイタルサインに変動があったとき
  • 患者さんが強く拒否したとき

STEP5 処置後の観察と記録

観察項目:

  • バイタルサイン(血圧低下・脈拍の変化)
  • 摘出した便の性状・量・色
  • 肛門周囲の出血・損傷の有無
  • 患者さんの自覚症状(痛み・気分不良など)

記録すべき内容:

  • 実施時刻・実施者
  • 体位・使用物品
  • 便の性状(硬さ・色・量)
  • 患者の反応・苦痛の程度
  • 処置後のバイタルサイン
  • 特記事項(出血の有無・中断した場合はその理由)

新人がよく迷うポイントQ&A

Q. 指が入らない・便に触れないときはどうすれば?

直腸内に便がなければ、当然触れません。まず腹部所見や直腸診などから便貯留の有無を総合的に確認しましょう。便が奥にある場合は無理に深く挿入しないこと。第2関節程度(約4〜6cm目安)を超えた挿入は穿孔リスクが高まります。医師に報告し、浣腸やX線での確認を検討してもらいましょう。

Q. 患者さんが痛がるときはどこまで続けていいの?

強い痛みを訴えたら、まず手を止めて状態を確認します。「違和感」や「圧迫感」は正常な反応ですが、「鋭い痛み」は粘膜損傷や肛門の亀裂サインかもしれません。出血がないか確認し、必要なら中断して医師に報告します。

Q. 1人でもできる?2人体制は必須?

安全確保のため、可能であれば2人体制が望まれます。1人が摘便を実施し、もう1人が腹部に圧をかける介助・バイタル観察・声がけを担当します。人手が少ない現場では1人で実施することもありますが、その場合はとくに患者さんの変化(顔色・発言)に細心の注意を払いましょう。

Q. どのくらいで中断すべき?終了の基準は?

終了の目安は①直腸内の便が除去できた、②患者さんが自力排便を促せる状態になった、③処置が長時間になっている(目安10分以内)のいずれか。迷走神経反射による血圧低下は処置後にも起こりやすいため、処置後も5〜10分は観察を続けることが重要です。

合併症と緊急時の対応

直腸粘膜損傷・出血

予防:爪を短く切る・潤滑剤を十分に使用する・愛護的に操作する。対応:出血を確認したらすぐに中断し、出血量・部位を観察して医師に報告。

迷走神経反射による血圧低下

肛門・直腸への刺激で血圧低下・徐脈・気分不良が起こります。処置を中断し安静を保ち、下肢挙上で脳への血流を確保。症状が回復しない場合は医師へ報告。

直腸穿孔

4cmを超えた深い挿入・直腸前壁への過度な圧迫で起こりやすい重篤な合併症。トイレ内での実施は転倒・体動・視認性低下のリスクがあり、原則としてベッド上での実施が望ましい。

浣腸との違いと使い分け

「浣腸と摘便はどう使い分けるの?」はよく聞かれる質問です。

摘便浣腸
対象硬便・嵌入便軟便〜固形便
方法指で便を直接取り出す薬液で腸を刺激・軟化
侵襲度やや高い比較的低い
向いている状態便が直腸に詰まっている排便刺激が必要

2つを組み合わせることもあります。浣腸で便を軟化させてから摘便すると、より効果的に便を除去できます。

介護職員は摘便できる?

摘便は医行為に位置づけられており、原則として看護師または医師が実施する処置です。介護職員(介護福祉士・ヘルパーなど)は摘便を行うことができません。

ただし、浣腸については2012年の法改正により、一定の研修を修了した介護職員が条件を満たした場合に実施できるようになっています。

現場で誤解が多いポイントなので、チームで共有しておきましょう。

まとめ

押さえるべき5つのポイント

  1. 適応・禁忌を必ず確認してから実施する
  2. 処置前後のバイタルサインチェックを忘れない
  3. 左側臥位・第2関節程度(約4〜6cm目安)・愛護的操作を徹底する
  4. 患者さんへの説明と継続的な声がけを大切に
  5. 異常を感じたらすぐ中断し、医師に報告する

参考文献・根拠

  • 医書.jp「浣腸・摘便」medicina 45巻13号
  • 厚生労働省「介護職員等によるたんの吸引等の実施のための研修テキスト」
  • スーパーナース「摘便の安全な基本手技」
  • ナース専科「根拠がわかる看護技術 摘便」
  • ナースのヒント「摘便の看護|手順と方法、注意点」

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この記事を書いた人

臨床ナースラボ 管理者現役看護師

日々の臨床で感じた「これ、もっと早く知りたかった」をもとに、チームで判断を揃えるための知識とツールを作っています。