フィジカルアセスメント

呼吸音の聴診|副雑音の聞き分け方・聴取部位の順序・チームで揃えたい報告の言語化

2026-05-01

この記事でわかること

  • ✓ 呼吸音聴診で「何を聴いているのか」の整理
  • ✓ 聴診部位の標準ルート(順序を決めて聴き漏らさない)
  • ✓ 正常呼吸音3種類と副雑音4分類の聞き分け方
  • ✓ 副雑音→疑う疾患→次のアクションのマップ
  • ✓ オノマトペ(ヒューヒュー・ゼーゼー等の音を表す言葉)と教科書名称の対応
  • ✓ 「ハイザツ」「ゼロゼロ」では伝わらない——チームで揃える報告の言語化

「夜勤帯で患者さんの呼吸音を聴いた。なんかゼロゼロ言ってる気がするけど、これって医師に報告するレベル?」

「先輩、これ副雑音ですか?」

「うーん、ハイザツって書いとけばいいんじゃない?」

——病棟でこんなやり取り、ありませんか?呼吸音聴診は、看護師全員が毎日行う基本動作なのに、「何を聴いているか」「どう報告するか」が施設・人によってバラバラになりやすい領域です。この記事では、聴診の基本から副雑音の聞き分け、そしてチームで揃える報告の言語化まで整理します。

1. 呼吸音聴診の基本——「なんとなく聞く」から「目的を持って聞く」へ

何を聴いているのか

呼吸音聴診の目的は、「肺で何が起きているかをリアルタイムで把握する」こと——これに尽きます。具体的には、

  • 換気状態:空気が入っているか、左右差はないか
  • 気道の状態:狭窄・分泌物貯留はないか
  • 肺胞・間質の状態:浮腫・線維化はないか

呼吸音は、画像検査(X線・CT)では捉えられない「動的な変化」を捉えられるのが強みです。心不全の悪化・痰の貯留・気管支痙攣など、「いま起きていること」を最も早く検知できる検査の一つです。

聴診器の膜面vsベル面——どっちを使う?

面拾いやすい音主な用途
膜面(ダイアフラム)高音呼吸音・腸蠕動音・正常心音Ⅰ・Ⅱ
ベル面(カップ)低音心雑音・血管音

呼吸音は基本的に膜面で聴きます。胸壁にしっかり密着させ、軽く押し当てるのがコツです。

患者さんへの声掛けと体位

聴診はケアの場面でもあります。雑な聴診は患者さんに不快感を与え、信頼を損ねます。

  • 聴診器を温めてから当てる(手のひらで軽く挟むだけでOK)
  • 羞恥心への配慮(特に女性患者の前胸部はタオル・ガーゼで隠せる範囲を広げる)
  • 「深く息を吸って、口から吐いてください」と具体的に依頼する(鼻呼吸では雑音が混ざりやすい)
  • 座位が望ましい(座位がとれない場合は仰臥位・側臥位)

長時間の聴診は患者さんを疲れさせます。部位を絞り、順序を決めて短時間で——これが現場のコツです。

2. 聴取部位——標準ルートで聴き漏らさない

前胸部・背部の標準ルート(左右交互・上から下へ)

聴診部位の数は施設や目的で流儀がありますが(前後4カ所ずつから9〜12箇所まで)、共通して大切なのは「左右交互・上から下へ」の順序を自分の中で固定することです。順番がぶれると聴き漏らしや左右差の見逃しにつながります。

前胸部の聴診ルート
前胸部の聴診ルート:鎖骨上窩→第2肋間→第4肋間→第6肋間を左右交互に

順序が決まっていないと、聴き漏らし・重複・左右差を見逃す原因になります。新人指導でも、まず「自分の標準ルートを決める」ことから始めるのが効果的です。

なぜ「左右交互」なのか

「右上→右中→右下→左上→左中→左下」と片側ずつ聴くのではなく、「右上→左上→右中→左中→右下→左下」と左右交互に聴く理由は、左右差をリアルタイムで比較するためです。片側だけ聴いてから反対側に移ると、最初に聴いた音の記憶が薄れ、左右差に気づきにくくなります。気胸・無気肺・胸水などは左右差で気づくことが多いので、この順序は重要です。

疾患を疑った時の重点部位

疑う疾患重点部位
間質性肺炎背側下部(肺底部)
心不全(肺水腫)背側下部・両側
気管支拡張症両側胸部(乳房レベル~側胸部)
誤嚥性肺炎背側下部(特に右)
気胸患側上肺野(呼吸音減弱)

「全体を聴いてから重点部位をもう一度」という順序にすると効率的です。

背部聴診の実際——体位と声掛け

背部聴診は前胸部より「やってない人」が多い領域。理由のひとつは、体位の取り方や声掛けに迷うからです。ここを整理しておきましょう。

背部の聴診ルート
背部の聴診ルート:座位前傾姿勢で、肩甲骨上部→肩甲骨間部→肩甲骨下角→第10肋間レベルを左右交互に

体位の選択肢(患者さんの状態に合わせる):

体位適応コツ
座位(前傾姿勢)自分で起きられる患者「猫背気味」にすると肩甲骨が広がり聴きやすい
端座位(ベッド端)座位は取れるが立位は不安介助者が支えながら
側臥位寝たきり・体位変換ケアと組み合わせる上側になった肺が聴きやすい
仰臥位のままどうしても起こせない患者看護師が手を背中に滑り込ませて聴く

声掛けの例:

  • 「背中の音も聴かせてもらえますか」
  • 「少し前に体を倒してもらえますか」(座位の前傾を依頼)
  • 「向きを変えるのお手伝いしますね」(側臥位への誘導)
  • 「冷たくてビックリさせちゃうかも、温めてからあてますね」
  • 「深く息を吸って、口から吐いてくださいね」(口呼吸で雑音を減らす)

現場の工夫:

  • 体位変換ケアと組み合わせる——左側臥位にした時に左肺、右側臥位にした時に右肺、というようにケアの流れに乗せる
  • 入浴介助・更衣の時もチャンス——裸になっているので素肌で聴ける
  • 介助者と協力する——寝たきり患者を安全に体位変換するため
  • 起立性低血圧に注意——座位への急な移行で血圧変動が起こることがある
  • 長時間にしない——患者さんが疲れる前に重点部位を絞って終える

「背部を聴かない理由」の多くは、体位の取り方が分からない・声掛けが恥ずかしい・時間がかかる——という心理的・物理的ハードルです。 ハードル自体を一度言語化して、チームでルーチンに組み込んでしまうと、聴き漏らしを防げます。

3. 正常呼吸音——3種類の聴き分け

呼吸音には3種類の正常音があり、聴く部位によって聞こえる音が違います。

気管呼吸音

  • 聴取部位:頸部(気管直上)
  • 特徴:高音・大きく粗い音
  • 吸気と呼気の比:呼気が長い

気管支肺胞呼吸音

  • 聴取部位:前胸部上部(第2〜3肋間)・背部上部(第2〜3肋間レベル)
  • 特徴:気管呼吸音と肺胞呼吸音の中間
  • 吸気と呼気の比:ほぼ等しい

肺胞呼吸音

  • 聴取部位:末梢肺野(前胸部下部・背部下部)
  • 特徴:低音・柔らかい音
  • 吸気と呼気の比:吸気が長く、呼気は短い

「本来あるべき場所と違う音」も異常のサイン

末梢肺野で気管支肺胞呼吸音が聞こえる——これも異常所見です。これは肺の含気が減って音が伝わりやすくなっていることを意味し、肺炎や無気肺を疑います。「副雑音はないけど、音の質が変だ」——この感覚を言語化できるようになると、聴診のレベルが一段上がります。

4. 副雑音の分類——4つの音をマップで整理

連続性ラ音 vs 断続性ラ音(基本の二分法)

「副雑音」の「副」って何?

「副雑音」の「副」は「主に付随する」「主に加えて」という意味です。「正常呼吸音(主)に加えて聞こえる雑音」を指します。副会長・副作用・副菜と同じ「副」ですね。英語では adventitious sounds(付随的な音) と訳されます。呼吸音は2つの層で成り立っていて、基本層(正常呼吸音)+追加層(副雑音)として聞こえるイメージです。

「ラ音」って何?

「ラ音」は副雑音とほぼ同じ意味で使われる医学用語です。語源はドイツ語の Rasselgeräusch(ラッセルゲロイシュ/ガラガラ音) で、その頭文字「ラ」をとって略されています。明治期にドイツ医学が日本に入った名残で、現代の日本の医療現場でも使われています。「副雑音 ≒ ラ音」と覚えておけば現場では十分です。

副雑音は、「音が続くか・短いか」でまず2つに分かれます。

分類音の特徴含まれる音
連続性ラ音一定時間続く(250ms以上)ウィーズ・ロンカイ
断続性ラ音短い・パチパチ・プツプツファインクラックル・コースクラックル

連続性ラ音は気道の狭窄、断続性ラ音は気道や肺胞の異常を示します。

4つの副雑音マップ

副雑音4分類マップ
連続性vs断続性、高音vs低音の2軸で4つの副雑音を整理
国際名称日本語名称音の特徴主な原因
ウィーズ(wheeze)笛音(てきおん)高音・連続性・「ヒューヒュー」気管支喘息・COPD
ロンカイ(rhonchi)いびき音低音・連続性・「グーグー」太い気道の狭窄・分泌物(気管支炎など)
ファインクラックル捻髪音(ねんぱつおん)高音・断続性・「パリパリ・プツプツ」間質性肺炎・心不全
コースクラックル水泡音(すいほうおん)低音・断続性・「ブツブツ・ボコボコ」肺水腫・気管支拡張症・痰貯留

国際的名称と日本語名称の対応

施設や世代によって、同じ音を違う名前で呼ぶことがあります。

  • ウィーズ=笛音=喘鳴
  • ロンカイ=いびき音=類鼾音(るいかんおん)
  • ファインクラックル=捻髪音=細小水泡音
  • コースクラックル=水泡音=粗大水泡音

近年は国際名称(ウィーズ・クラックル)で統一する流れにあります(日本呼吸器学会)。「ハイザツ(肺雑音)」のような曖昧な省略では情報が伝わらないため、できるだけ国際名称か正式な日本語名称を使うのがおすすめです。

5. 副雑音の聞き分けポイント——タイミング・音色・オノマトペ

呼気か吸気か

副雑音を聞き分ける最大のヒントが「呼気か吸気か」です。

副雑音聞こえやすいタイミング
ウィーズ呼気優位(呼気の後半)
ロンカイ吸気・呼気どちらでも
ファインクラックル吸気の後半
コースクラックル吸気の初期〜中期

「いつ聞こえるか」を意識するだけで、副雑音の特定が一気にラクになります。

高音か低音か

  • 高音:ウィーズ・ファインクラックル
  • 低音:ロンカイ・コースクラックル

オノマトペで覚える——現場感覚と教科書名称の橋渡し

教科書の名前だけ覚えても、実際の音と結びつかないことが多いです。オノマトペ(音や様子を言葉で表現したもの。「ヒューヒュー」「プツプツ」など)で覚えると現場で活きます。

副雑音オノマトペ
ウィーズヒューヒュー・ピーピー
ロンカイグーグー・ガーガー(いびきっぽい)
ファインクラックルパリパリ・プツプツ(髪を耳元でこするような)
コースクラックルブツブツ・ボコボコ・ゴロゴロ

「ヒューヒュー=ウィーズ=気管支喘息」のように、音→名前→疾患の3点セットで覚えると現場で出てきやすくなります。

胸膜摩擦音という第5の音

副雑音の主役は4つですが、胸膜摩擦音という第5の音もあります。

  • 特徴:「ギューギュー」「キュッキュッ」(革靴がきしむような音)
  • タイミング:吸気・呼気の両方
  • 疑う疾患:胸膜炎(肺炎・肺梗塞等に伴うものを含む)。少量胸水で聴かれることもあるが、胸水が増えると胸膜同士が離れて摩擦音は消失する

肺音ではなく胸膜由来なので、別カテゴリーとして覚えておくと整理しやすいです。

複数の副雑音が混在する場合——むしろ現場ではよくある

副雑音は「1つだけ聞こえる」ことの方が珍しく、複数が混在することが現場ではよくあります。

よくある混在パターン:

病態混在しやすい副雑音
心不全急性増悪(心臓喘息)ファインクラックル+ウィーズ
COPD増悪+痰貯留ウィーズ+コースクラックル
重症肺炎コースクラックル+ロンカイ+ウィーズ
誤嚥性肺炎ファインクラックル+コースクラックル
間質性肺炎の急性増悪ファインクラックル+ウィーズ

例えば心不全急性増悪では、肺水腫(ファインクラックル)に加えて気管支粘膜の浮腫で気道が狭窄してウィーズが出ます——これが「心臓喘息」と呼ばれる状態です。

新人が混乱しないコツ:

  1. 主たる音を1つ特定する(一番大きく・一番特徴的な音)
  2. 部位ごとに分けて聴く(右下はクラックル、左上はウィーズ、など)
  3. タイミングで分ける(吸気後半はファインクラックル、呼気はウィーズ)

複数ある時は、聞こえた副雑音を併記してください。例:「両側下肺野でファインクラックル+呼気時にウィーズ聴取。心不全急性増悪を疑います」

6. 副雑音→疑う疾患→次のアクション

聴いて「副雑音あり」で終わらせず、何を疑い、誰に何を伝えるかまで一気通貫で考えます。

副雑音→疾患→アクション
副雑音→疑う疾患→次のアクションのフローチャート

ファインクラックル:間質性肺炎・心不全

  • 両側下肺野で聴取される場合 → 心不全(肺水腫の初期)を疑う
  • 下肺野・両側で進行性に出る場合 → 間質性肺炎
  • アクション:SpO2低下・呼吸困難・浮腫・体重増加とセットで評価。新規出現や急速な変化なら速やかに医師報告

コースクラックル:肺水腫・気管支拡張症・痰貯留

  • 吸気初期から聴取 → 気道分泌物(痰貯留)の可能性
  • 両側で聴取 → 肺水腫の進行を疑う
  • アクション:まず咳をしてもらって聴き直す(喀痰由来なら音が消える)。残れば本物の副雑音として報告

ウィーズ:気管支喘息・COPD・アナフィラキシー

  • 両側・呼気優位 → 気管支喘息・COPD
  • 急速出現+蕁麻疹・血圧低下 → アナフィラキシー(緊急対応)
  • アクション:SpO2・努力呼吸・チアノーゼをセットで評価。アナフィラキシーが疑われる場合は即時医師コール

ロンカイ:太い気道の狭窄・分泌物

  • 吸気・呼気どちらでも・低音 → 太い気道の狭窄や分泌物
  • 本物のロンカイか分泌物由来かを区別:咳をしてもらって消失するなら分泌物由来、残るなら気道狭窄を疑う
  • アクション:分泌物が疑われれば体位ドレナージ・吸引で改善するかを評価。残存・進行する場合は医師報告

「これは医師に報告」「これは経過観察」の判断基準

【すぐ報告】

  • 新規出現の副雑音(昨日まではなかった音)
  • 両側に拡がっているファインクラックル
  • SpO2低下・呼吸困難・チアノーゼを伴う
  • アナフィラキシーが疑われるウィーズ
  • 左右差のある呼吸音減弱(気胸を疑う)

【経過観察〜次回ラウンド時に再評価】

  • 痰貯留が疑われ、咳で消失したコースクラックル・ロンカイ
  • 既知の副雑音で変化がない(COPD患者の慢性的なウィーズなど)
  • バイタルサイン安定・呼吸状態落ち着いている

7. チームで揃えたい報告の言語化

「ハイザツ」「ゼロゼロ」では伝わらない

現場で記録や申し送りに「ハイザツあり」「ゼロゼロ言ってる」という表現を見かけます。便利ですが、これでは情報が伝わりません。

  • ハイザツ=肺雑音の略。どんな音か特定できない
  • ゼロゼロ=オノマトペ。受け取る側で解釈が違う
  • ギュー音=胸膜摩擦音?コースクラックル?判断不能

「肺雑音」と書くと起きる3つの問題

#問題具体例
①音の種類が特定できないウィーズ?ロンカイ?クラックル?すべて「ハイザツ」になる
②疾患・次のアクションにつながらないハイザツ→何を疑い、どう動くか医師も判断できない
③時系列比較ができない昨日の「肺雑」と今日の「肺雑」で悪化か改善か分からず、経時記録としても説明資料としても弱い

特に③の時系列比較は心不全や誤嚥性肺炎の経過を追う場面で響きます。「昨日のクラックルから今日のウィーズに変化」と書けて初めて悪化が捉えられます。

「副雑音」と「肺雑音」の違い——なぜ副雑音はOKで肺雑音はダメ?

項目副雑音肺雑音(ハイザツ)
定義医学的に定義された総称日本の現場の口語的省略
国際性国際的に通用日本の現場のみ
教科書掲載標準用語教科書にはほぼない
指す範囲明確曖昧
次への流れ「これから分類する」前提「分類なしで終わる」

ざっくり言えば、「副雑音」は分類への入り口になる言葉、「肺雑音」は分類なしで終わる言葉——この違いが決定的です。ただし「副雑音聴取」だけでも実は不十分で、理想は「右下肺野でファインクラックル聴取」のような具体名まで書くこと。

「エア入り」も曖昧表現——換気状態は減弱・消失で表す

副雑音だけでなく、換気状態(呼吸音そのものの強弱)も呼吸音聴診の重要な評価項目です。silent chest(重症喘息で呼吸音がほぼ聴こえない状態)・気胸・無気肺・大量胸水など、音が小さい・聴こえないこと自体が命に関わるサインになります。

ところが現場でよく見るのが、こんな記録です。

O:エア入りまずまず。右>左 明らかな肺雑音なし

一見ちゃんと書いてあるようですが、読み解くと曖昧さだらけです。

表現何が問題か
エア入りまずまず「エア入り」は教科書・学会用語にない現場の俗語。「まずまず」も主観
右>左右が強いのか右が良いのか不明。左が減弱しているのか、右が亢進しているのかも分からない
明らかな肺雑音なし「明らかな」が主観的。「肺雑音」も前述の通り曖昧

「エア入り」は日本呼吸器学会の用語にも教科書にも載っていません。チームで揃えるなら、呼吸音そのものを客観語で表現するのが基本です。

換気状態を表す客観語

表現意味
清明(せいめい)正常な呼吸音が左右対称に聴取できる
減弱呼吸音は聴こえるが弱い
消失呼吸音が聴取できない
左右差あり/なし左右で強弱の差があるか

書き直してみる

先ほどの記録を、客観語に翻訳するとこうなります。

O:両肺野で呼吸音聴取可能、左下肺野で減弱(右との左右差あり)、副雑音聴取せず

これなら、どこの音が・どう弱いのかが伝わります。「左下肺野の減弱」と書かれていれば、医師は無気肺・胸水・気胸などを鑑別に挙げて動けます。

ポイント:「エア入りが悪い」と感じた時こそ、部位+減弱・消失+左右差の3点で書く。これだけで記録の解像度が一気に上がります。

「いつ・どこで・どんな音が」の3点セット

呼吸音を報告する時は、3点セットを揃えると伝わります。

項目例
いつ吸気の後半/呼気優位/持続的
どこで右下肺野/両側下肺野/背側全体
どんな音ファインクラックル/ウィーズ/ロンカイ

例:「右下肺野で吸気後半にファインクラックル聴取」これだけで、医師は「間質性肺炎の進行か、誤嚥性肺炎の所見か」と判断材料を得られます。

SBARに乗せる呼吸音の表現

急変対応で使うSBARでも、呼吸音の表現は重要です。

  • S:「○号室の○○さん、SpO2が94%に下がりました」
  • B:「肺炎で入院中、昨日まで呼吸音は両側清明でした」
  • A:「今、両側下肺野でファインクラックル聴取しています。努力呼吸あり、起座呼吸の傾向です」
  • R:「医師の診察と胸部X線オーダーをお願いします」

具体的な副雑音名と部位まで添えることで、医師は次のアクションをすぐ決められます。

カンファレンスで名称を揃える価値

施設・部署で呼吸音の名称を揃えるカンファレンスを一度でも開くと、その後の記録・申し送り・医師との連携が劇的に変わります。

  • 「ロンカイとウィーズの違いをみんなで確認」
  • 「『ハイザツ』禁止令を設ける」
  • 「副雑音→疑う疾患→アクションをチームで共有」

チームで揃えることで、看護師個人の聴診技術以上に、ケアの質が底上げされます。

「いきってる」と思われる気まずさ——個人で変えるのではなく、チームで合意形成する

ここまで読んで、「正論はわかるけど、現場で『ファインクラックル』なんて書いたら浮くよね」と感じた方も多いと思います。正直に言うと、この感覚はとてもリアルです。

  • 周りが「肺雑」と書いている中、自分だけ正式名称を使うと浮く
  • ベテランから「ハイザツでいいじゃん」と空気を作られる
  • 「意識高い系」「教科書通りすぎる」「いきってる」と陰口を言われる怖さ
  • 個人で変えようとすると、職場の人間関係に摩擦が生まれる

これは「正しさ」だけでは超えられない壁です。でも、ここを越えないとケアの質は変わらない。「ハイザツでいいよね」という空気は、情報の質を下げ、結果として患者さんが不利益を被る。

だから、個人で突き抜けるのではなく、「チームで合意形成する」のがおすすめです。

  1. 個人で突き抜けない(「私だけ」だと浮きます)
  2. チーム単位で問題提起する(カンファレンス・勉強会で「みんなで揃えよう」と提案)
  3. 「肺雑禁止令」をチームで決める(個人責任にしない)
  4. 小さい所から始める(まず「肺雑」→「ヒュー音」のオノマトペ記録に変えるだけでもOK)
  5. 新人指導の段階から正式名称を教える(次世代から変えていく)

「いきってる」と思われる気まずさは、あなた個人の問題ではなく、組織文化の問題です。一人で抱え込まず、まず1人でも仲間を見つけて、勉強会・カンファレンスから始めてみてください。

よくある疑問 Q&A

Q: 服の上から聴いてもいい?

基本は素肌か薄手の肌着の上で聴きます。厚手の衣類の上から聴くと、衣類のスレ音が混ざって本物の副雑音と区別がつかなくなります。

Q: 毎回背部も聴く必要がある?

毎回フルで聴く必要はありませんが、聴くべきタイミングは決まっています。

  • 低リスク患者のルーチンスクリーニング(症状なし・状態安定)→ 前胸部中心でも可(実践例として、勤務帯に1回は背部も聴く運用にしている施設もあります)
  • 呼吸器疾患・心不全患者・発熱・呼吸困難・SpO2低下時 → 背部も必須
  • 術後・寝たきり・誤嚥リスク高 → 背部も推奨

特に仰臥位の寝たきり患者・誤嚥リスク患者・心不全患者では、前胸部だけ聴いて「異常なし」と判断するのは危険です。「前胸部のみで省略してOK」と読まないように——あくまで低リスクのルーチンスクリーニングに限った話です。

Q: 副雑音と気道分泌物の音の区別がつかない

「咳をしてもらって聴き直す」が最も実用的なテクニックです。喀痰由来の音は咳で気道がクリアになると消失します。残った音は本物の副雑音と考えて報告してください。咳ができない患者さんなら、体位ドレナージや吸引後に再聴取します。

Q: 「肺雑」「ハイザツ」と書いてもいい?

避けたほうがいいです。記録には「右下肺野で吸気後半にファインクラックル聴取」のように、部位・タイミング・副雑音名を明示するのが理想です。慣れるまでは「ヒューヒューという呼気時の音」のような具体的なオノマトペでもOKですが、徐々に正式名称に移行しましょう。

Q: 「ヒュー音」「グー音」「プツプツ」みたいなオノマトペ記録はNG?

いいえ、「肺雑」「ハイザツ」よりずっとマシです。具体性があって受け取り手も音をイメージできるので、現場では十分機能している記録方法です。「ヒュー音」と書いてあれば、読み手も「ウィーズだな」と推測できます。

現実的なステップアップ:

  1. 「肺雑」をやめてオノマトペ記録に変える(ここで大進歩)
  2. オノマトペ+正式名称を併記(例:「ヒュー音(ウィーズ)」)
  3. 徐々に正式名称メインへ移行

Q: いい聴診器を買うべき?

病棟備え付けの聴診器でも基本的な聴診は可能ですが、自分専用の聴診器は感染対策・音質ともに有利です。リットマン社のClassic Ⅲあたりが看護師の定番(相場は数千円〜数万円台と幅があります)。音質に慣れることで聞き分け精度も上がるメリットがあります。

Q: いびきをかいている患者さんで肺音が聴き取れない

意識レベルが低い患者さん・睡眠中の患者さんでは、上気道由来のいびき音が肺音と混ざって聴き取りづらくなります。

  • 可能なら声をかけて目を覚ましてもらう
  • 顎を持ち上げて気道を確保してから聴取
  • いびき音と肺由来のロンカイの区別:いびき音は頸部聴取で同じ音が聞こえる、肺由来は頸部では聞こえないことが多い
  • それでも不明なら、「いびき音のため肺音聴取困難」と正直に記録する

Q: 聴診の苦手意識を克服するには?

「正常音をたくさん聴く」のが最大の近道です。異常音より先に正常音を耳に染み込ませると、異常との違いに気づきやすくなります。スマホアプリ・教材CD・YouTube動画など、音源教材も豊富です。1日5分でも継続すると、3ヶ月で確実に変わります。

Q: 副雑音が「あるような気がする」程度のとき、報告すべき?

新規出現なら、迷ったら報告が原則です。報告の仕方は「右下肺野で副雑音の可能性あり、ファインクラックルか喀痰由来か判断つかず。再評価予定」のように自信のなさも含めて伝えるのがプロです。

まとめ

  • ✅ 呼吸音聴診は、換気状態・気道の状態・肺胞の状態をリアルタイムで把握する基本動作
  • ✅ 聴取は膜面で、「左右交互・上から下へ」の標準ルートで聴き漏らさない
  • ✅ 副雑音は連続性(ウィーズ・ロンカイ)と断続性(ファインクラックル・コースクラックル)の2軸で整理
  • ✅ オノマトペ(ヒューヒュー・パリパリ等)と教科書名称を結びつけると現場で出てくる
  • ✅ 咳をしてもらって聴き直す——副雑音と気道分泌物の区別の最強テクニック
  • ✅ 「ハイザツ」「ゼロゼロ」では伝わらない。「いつ・どこで・どんな音」の3点セットで報告
  • ✅ 副雑音→疑う疾患→次のアクションまで一気通貫で考える

呼吸音聴診は、看護師の毎日の動作の中で最も「チームで揃えるべき」言語の一つです。「ハイザツ」を「ファインクラックル」に変えるだけで、医師との連携・チームの判断・ケアの質が一段階上がります。

参考・根拠

  • 日本呼吸器学会「肺音(呼吸音)の用語」
  • 肺音(呼吸音)研究会
  • 日経メディカル 倉原優「『ギュー音』『ハイザツ』では正しい情報共有になりません」
  • ナース専科「呼吸音の聴診 5つのポイント」「異常呼吸音(副雑音)の種類とアセスメント」
  • 看護roo!「呼吸音と副雑音の分類」「副雑音の特徴」「聴診器を当てるべき場所(疾患別)」
  • レバウェル看護「呼吸器看護師に必須!基本的な聴診と呼吸音・副雑音の分類を復習」
  • 金芳堂「ナースのための肺の聴診」

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この記事を書いた人

臨床ナースラボ 管理者現役看護師

日々の臨床で感じた「これ、もっと早く知りたかった」をもとに、チームで判断を揃えるための知識とツールを作っています。