入院患者の夜間不眠時対応|チームで判断を揃えるアセスメントと不眠時指示の使い方
2026-06-11
この記事でわかること
- ✓ 夜勤の「眠れません」にスタッフ間で判断がばらつく理由と、揃えるべき3つの軸
- ✓ 不眠・せん妄・身体症状を分ける最初の鑑別フロー
- ✓ 不眠4タイプを30秒で見分ける視点
- ✓ 眠剤を渡す前に必ず揃えたい観察ポイントと、「渡さない」判断の言語化
- ✓ 不眠時指示「Ⅰ→Ⅱ」の運用ルールとコールタイミング
- ✓ SBARで伝える医師コールのテンプレート
- ✓ 薬を使わない介入と、入院前の生活リズムを引き出す声かけ
- ✓ 投与後のラウンドと、次の夜勤に申し送る記録の3要素
本記事で使う用語について
「不眠時Ⅰ/Ⅱ」は、多くの病院で採用されている頓用指示の段階分け表記です。Ⅰが第1選択の眠剤、Ⅱが効果不十分時に追加する第2選択を指します。施設によって表記や運用が異なる(「不眠時1/2」「A/B」など)ため、自施設のプロトコルに合わせて読み替えてください。
「眠れません」——夜勤帯でナースコールを取ると、月に何度も耳にする言葉です。
新人さんから「あの時、眠剤を渡してよかったんでしょうか」と相談されたことはないでしょうか。先輩によって対応が違う、指示書には「不眠時Ⅰ→Ⅱ」と書いてあるけれど、いつ次に進めばいいのか曖昧。そうした「夜勤の不眠対応のばらつき」は、どの病棟にも少なからずあります。
この記事では、夜間の不眠の訴えに対して、チームで判断を揃えるためのアセスメントと不眠時指示の使い方を整理していきます。
1. 夜勤の「眠れません」をチームで揃える——なぜ判断のばらつきが起きるのか
看護師ごとに対応が分かれる場面
同じ「眠れません」というコールに対して、現場の対応はけっこう分かれます。
- すぐに不眠時指示の眠剤を渡す人——「指示が出ているから」「同室の方が起きてしまうから」
- まずベッドサイドで話を聞く人——「何時間眠れていないんですか?」「何が気になりますか?」と聴取から入る
- 環境調整から入る人——室温・足元灯・隣のいびき・尿意など、まず外側の要因をひとつずつ外していく
どれが正解、ということではありません。むしろ問題は、同じ患者さんに対して、夜勤者が変わるたびに対応が変わってしまうことです。昨夜はすぐ眠剤、今夜は様子観察——患者さんからすれば「人によって違う」と感じ、看護への信頼にも影響します。
「揃える」対象は3つ——判断軸・観察項目・報告基準
チームで揃えたい対象は、次の3つです。
- 判断軸:眠剤を渡すか/渡さないかを、何をもって決めるか
- 観察項目:渡す前・渡した後に必ず見るポイントは何か
- 報告基準:どの段階で当直医にコールするか
このうち、新人さんが一番迷うのが 「眠剤を渡すかどうか」 です。指示があるから渡してよい、とも言える一方で、「本当に今、この方に渡していいのか?」という躊躇は、実は的を射ています。このあとのH2-4で、この線引きを正面から扱います。
この記事のゴール
この記事のゴールは、夜勤の不眠対応を「個人技」から「チームの共通言語」に変えることです。日本看護協会の「夜勤・交代制勤務に関するガイドライン」でも、夜間業務の質を担保するためにはチーム内での判断基準の共有が重要だと示されています。個々の経験ではなく、チームで再現性のある対応——ここを目指していきます。
2. まず鑑別する3つの軸——不眠か、せん妄か、身体症状か
「眠れません」の訴えを聞いたら、いきなり眠剤を取りに行く前に、3つの軸でざっくり鑑別します。ここを飛ばすと、本当は対応が必要な別の病態を見落とすことがあります。
不眠:「眠れない訴え」が主軸で意識は清明
純粋な不眠の場合、患者さんは自分が眠れていないことを自覚しており、会話のつじつまも合います。話す内容は「目が冴えてしまって」「考えごとをしてしまって」など、本人の言葉で状況を説明できることが多いです。
せん妄:意識・注意の障害を伴う「不眠様症状」
一方で、「眠れない」と訴えていても、よく見ると会話のつじつまが合わない・注意が続かない・日時や場所が曖昧——こうした場合は、せん妄を疑う必要があります。
特に夕方〜夜間に悪化する日内変動、急性発症、注意力の障害がそろっていれば、CAM(Confusion Assessment Method)でせん妄評価をかけてください。せん妄に対して安易にベンゾジアゼピン系の眠剤を渡すと、症状を悪化させるリスクが指摘されています(ベンゾ・アルコール離脱を除く)。
せん妄の評価方法・3タイプの見分け方・チームでの判断基準は、別記事で詳しく整理しています。
疼痛・呼吸困難・尿意など身体症状による覚醒
3つ目の軸は、身体症状で目が覚めているパターンです。
- 創部痛・腰背部痛・神経障害性疼痛
- 呼吸困難感(心不全の夜間増悪、COPD、SpO2低下)
- 頻尿・残尿感・前立腺症状
- 掻痒感、こむら返り、レストレスレッグス症候群
これらは「眠れない」と訴えるのではなく、「眠っても起きてしまう」という形で現れることが多いです。眠剤で蓋をしても根本原因は残ったままですし、呼吸状態が悪い方に眠剤を渡すと呼吸抑制のリスクもあります。
鑑別のための最初の声かけと観察フロー
ベッドサイドに行ったら、まず3つだけ確認します。
- 「今日は何時から、どんなふうに眠れていない感じですか?」(自覚と経過)
- 「今日は何月何日でしたっけ?ここはどこかわかりますか?」(見当識・注意力)
- 「体のどこか、痛みや息苦しさはありませんか?トイレは行きましたか?」(身体症状)
この3つの応答で、ほとんどのケースは「不眠寄り」「せん妄寄り」「身体症状寄り」のどれに振り分けられます。

3. 不眠の4タイプを30秒で見分ける
「不眠寄り」と判断したら、次は不眠のタイプを見ます。タイプによって、優先すべき介入が変わってくるからです。
日本睡眠学会の「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン2014」でも、不眠は次の4タイプに分類されています。
入眠困難(30分以上眠れない)
布団に入ってから30分以上眠りにつけないタイプ。不安・緊張・入院初日などで多いパターンです。「考えごとが止まらない」「ベッドに入ると目が冴える」という訴えが特徴。
中途覚醒(夜中に何度も目が覚める)
一度は眠れたが、夜中に何度も目が覚めてしまうタイプ。高齢者に最も多く、頻尿・疼痛・浅い睡眠が背景にあります。起こされる原因(尿意・痛み・物音)をまず探すのが先で、眠剤の追加投与は基本的に勧められません(詳しくはH2-5で)。
早朝覚醒(予定より早く目覚めてしまう)
予定の起床時刻より2時間以上早く目覚め、そのまま眠れないタイプ。高齢者の生理的変化のほか、うつ状態でも見られます。
熟眠障害(眠れたが疲れが取れない)
睡眠時間は取れているのに、「ぐっすり眠った感じがしない」「疲れが取れない」という訴え。睡眠時無呼吸症候群、レストレスレッグスなど、睡眠の質を下げる別の病態が隠れていることがあります。
タイプによって介入の優先順位が変わる
ざっくり言うと、こんな順序で考えます。
| タイプ | まず優先する介入 |
|---|---|
| 入眠困難 | 不安・緊張の聴取、環境調整、必要時に不眠時Ⅰ |
| 中途覚醒 | 覚醒原因の除去(排尿・除痛・体位)が最優先。眠剤の追加は基本NG |
| 早朝覚醒 | 抑うつのスクリーニング、日中活動の確認 |
| 熟眠障害 | 睡眠時無呼吸の評価、医師に背景病態の共有 |
「眠れない=眠剤」ではなく、タイプを見極めてから手段を選ぶ——これが30秒の判断で介入の質を変えます。

4. 眠剤を渡す前に揃える観察ポイント
不眠タイプを見極め、「眠剤を使うのが妥当」と判断したとしても、渡す前にもう一段、観察を挟みます。ここをチームで揃えておくと、夜勤者が誰でも安全に判断できるようになります。
バイタル・呼吸状態
特にSpO2と呼吸数、徐脈の有無は必ず確認します。ベンゾジアゼピン系睡眠薬は呼吸抑制を起こしうる薬剤で、もともと呼吸状態が不安定な方(COPD、心不全、肺炎急性期、SAS疑い)に渡すと、夜間にSpO2が落ちる事故につながりかねません。
転倒リスク
厚労省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」や日本老年医学会「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」でも、高齢者へのベンゾジアゼピン系投与は転倒リスクを高めることが繰り返し指摘されています。次のような方は、眠剤投与に特に慎重さが必要です。
- 転倒既往あり
- 歩行が不安定、夜間にトイレ歩行がある
- 入院前から自宅で同系統の睡眠薬を使っていない(耐性がない)
併用薬
ベンゾジアゼピン系の重複処方、オピオイド・抗ヒスタミン薬・抗コリン薬の併用は、過鎮静・呼吸抑制・せん妄誘発のリスクを上げます。PMDAも「ベンゾジアゼピン受容体作動薬の依存性」資料の中で、漫然投与・重複投与への注意を促しています。指示書の眠剤を渡す前に、定時薬・頓用薬を一度カルテで横並びに確認するひと手間が事故を防ぎます。
最終排尿・排便、疼痛、不安の聴取
中途覚醒タイプで触れた通り、「眠れない原因」が身体側にあるなら、そちらを先に解決します。
- 最終排尿はいつか、膀胱は張っていないか
- 排便コントロールは取れているか
- 創部痛・腰痛・神経痛など、頓用鎮痛薬の指示はあるか
- 検査・手術への不安、家族のことなど、訴えの裏にある不安はないか
また、入院前の生活リズム——「ご自宅では何時くらいに寝ていましたか?普段から眠剤は使われていましたか?」と一言聞くだけで、判断材料がぐっと増えます。普段23時就寝の方に、21時の段階で眠剤を渡すのは早すぎるかもしれません(このあたりは H2-7 で詳しく扱います)。
「眠剤を渡さない」判断もチームで共有する
ここが、新人さんが最もモヤモヤするポイントです。「指示が出ているのに、渡さなくていいんですか?」——いいんです。むしろ、渡さない判断こそ言語化して記録に残すことが大切です。
目安として、次のような場合は「渡さない/渡す前にコール」を優先します。
- SpO2 90%台前半、呼吸数が普段より多い・少ない
- せん妄を疑う所見がある
- 中途覚醒で、すでに不眠時Ⅰを使用済み
- 入院前に同種薬を使っていない高齢者で、転倒リスクが高い
- 「眠れない」の裏に強い不安や身体症状があり、眠剤では解決しない
これらを満たすときに「指示があるから機械的に渡す」では、安全管理として不十分です。「なぜ渡さなかったか」「代わりに何をしたか」を記録に残す——これが、夜勤者ごとのばらつきを減らし、次の夜勤に判断を引き継ぐ材料になります。日本睡眠学会のガイドラインでも、睡眠薬は「必要な人に・必要な時に・最小限」が原則とされています。渡さないという選択肢は、決して越権ではなく、看護師の正当なアセスメントの一部です。

5. 不眠時指示の読み解き方と段階を踏む基準
「不眠時Ⅰ→Ⅱ」が指示にある場合の運用ルール
入院時指示でよく見かける「不眠時:Ⅰ ◯◯(例:ロゼレム8mg)、効果不十分時 Ⅱ ◯◯(例:ベルソムラ15mg)」という段階指示。これは「Ⅰを試して、ダメならⅡに進む」という意味ですが、Ⅰ→Ⅱの間にどれくらい時間を置くかは指示に書かれていないことが多いんです。
ここでチームのばらつきが出ます。30分で次に進む人、1時間粘る人、朝までⅡに進まない人——同じ患者さんでも夜勤者によって対応が変わってしまう。「Ⅰを服用してから最低60分は効果判定を行い、それでも入眠できなければⅡに進む(または医師コール)」——このくらいの時間基準をチーム内で揃えておくと、判断のばらつきが減ります。施設の不眠時プロトコル(沼隈病院などが報告している運用例)でも、効果判定までの時間を明文化する流れがあります。
中途覚醒での追加投与は基本NG——その根拠
「23時にⅠを飲んで眠れた。でも2時に目が覚めてしまった、もう一錠ほしい」——よくある場面です。
ここでⅡを追加するのは、原則として避けてください。理由は3つあります。
- 翌朝への持ち越し(ハングオーバー):明け方に内服すると、覚醒時刻まで作用が残り、転倒・誤嚥のリスクが上がる
- 半減期の問題:1錠目がまだ体内に残っている状態での追加は、実質的に増量と同じ
- そもそも中途覚醒には不眠時指示の薬が不向きなことが多い:入眠用の短時間作用型は、中途覚醒には効きにくい
日本睡眠学会「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン2014」でも、必要量を超える追加投与は推奨されていません。中途覚醒では、まず何で目が覚めたか(尿意・痛み・不安・物音)を確認し、原因への対応を優先します。
「同室クレーム回避目的」の投与は避ける——倫理的配慮
ここが、実は新人さんが最も迷う場面です。
「隣のベッドの方からゴソゴソ音がうるさいとクレームが来た。本人は『眠れないわけじゃないけど、もらえるなら飲んでおく』と言っている」——同室者の睡眠を守りたい気持ちはわかりますが、他者からの苦情を理由にした眠剤投与は、本来の不眠時指示の運用から外れています。
不眠時指示はあくまで「本人の不眠症状」に対して出されているもの。他者のクレーム対応として薬を使うと、本人にとっては不要な転倒リスク・依存リスクを背負わせることになります。クレームへの対応は、ベッド位置の調整・耳栓の提供・環境調整で行うのが筋です。「渡したほうがその場が収まる」誘惑に流されない——ここはチームで明文化しておきたい線引きです。
6. これは医師コール——報告基準とSBARでの伝え方
コールを迷う5つの場面
「こんなことで起こしていいのかな」と迷う場面ほど、実はコールしたほうがいい場面です。具体的にはこの5つ。
- 不眠時Ⅱまで使用しても入眠できない
- バイタル異常を伴う不眠(SpO2低下・頻脈・発熱)
- せん妄を疑う症状(注意障害・つじつまの合わない発言)が新規出現
- 強い不安・希死念慮の訴え
- 持参薬と不眠時指示の重複が疑われる
SBARテンプレ(夜間不眠の報告例)
報告は S(状況)・B(背景)・A(評価)・R(提案) の順に整理すると、当直医にも伝わりやすくなります。
S(Situation):「302号室の◯◯さん、本日23時にロゼレム内服後も入眠できず、現在1時30分です」
B(Background):「術後2日目、痛みはNRS2で落ち着いています。入院前は自宅でマイスリーを内服されていたとのことです」
A(Assessment):「中途覚醒ではなく入眠困難が続いています。意識清明、バイタル安定、せん妄症状はありません」
R(Recommendation):「不眠時Ⅱの追加投与の可否、または別の指示をいただけますか」
SBARの基本構造や、夜勤帯での使い方は別記事で詳しく整理しています。
7. 薬を使わない介入——環境・声かけ・MI的アプローチ
環境調整の優先順位
薬の前にできることは意外と多いんです。優先順位はこの順。
- 音:ナースコール音・モニター音・廊下の話し声。耳栓の提供も検討
- 光:常夜灯の位置、廊下からの漏れ光、モニターの光
- 温度:寝具の調整、室温(夏は26〜28℃、冬は18〜22℃が目安)
- 同室者:いびき・夜間排泄頻度の多い患者との配置
厚労省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」でも、寝室環境の整備は睡眠の質に直結する要素として挙げられています。
入院前の生活リズムを確認する——声かけの核
新人さんに一番伝えたい声かけのコツがこれです。
「眠れないんです」と訴えがあったら、すぐに薬の話に行かず、入院前の生活リズムを聞いてみてください。
「お家ではいつもどれくらいの時間に寝ていらっしゃいましたか?」
「朝は何時頃に起きていましたか?」
「寝る前にされていたことはありますか?お茶を飲むとか、テレビを観るとか」
これだけで見えてくるものがあります。普段0時就寝の人に22時消灯はそもそも早すぎる、昼寝を2時間していた人が病棟で日中横になりっぱなしになっている、就寝前の晩酌が習慣だった人が入院で急に断酒して寝つけずにいる——「眠れない」の正体が、薬で解決すべき問題ではないことに気づけます。
入院前のリズムが分かれば、「無理に今すぐ寝なくても大丈夫ですよ。0時頃まで電気をつけて読書されていてもいいですよ」と返せます。これだけで、不眠の訴えが収まることが少なくありません。
MI的アプローチ:不安を引き出して整理する
「眠れない」の裏には、明日の検査への不安、家族への気がかり、退院後の生活への心配——いろいろな感情が隠れています。動機づけ面接(MI)の発想を借りると、「眠れない訴え」を薬で消す前に、不安そのものを言葉にしてもらう関わりができます。
「眠れないとお話しされていましたが、何か気になっていることがありますか?」
「ご自身では、どうしたら少し楽になれそうだと感じますか?」
詳しくはを参考にしてみてください。
日中の関わりが夜の睡眠を変える
夜の不眠対応の半分は、実は日勤帯で決まります。日中の離床・日光曝露・昼寝の制限——日勤者へ申し送るときに、「夜眠れないので、日中の離床を増やしてもらえると助かります」と一言添えるだけで、翌日からの睡眠が変わります。
8. 投与後のラウンドと記録——次の夜勤に申し送る情報
投与後30〜60分のラウンド項目
眠剤を投与したら、必ず30〜60分後にラウンドしてください。これは「効いたかどうか」を確認するためだけではありません。
- 入眠の有無と入眠までの時間
- 呼吸状態(SpO2・呼吸数):特にベンゾ系・スボレキサントは呼吸抑制リスクがある
- 転倒のリスク:トイレ歩行時のふらつき、立ち上がり時のめまい
- 意識レベル:過鎮静になっていないか
特に高齢者では、眠剤投与後の夜間トイレでの転倒が最も多い事故パターン。日本老年医学会「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」でも、ベンゾジアゼピン系の高齢者使用は転倒・骨折リスクとして注意喚起されています。
記録に残す3つの要素
夜勤の記録は「眠剤使用」「入眠あり」だけで終わらせない。次の夜勤者がそのまま判断できるよう、経緯・効果・副作用の3点を残します。
- 経緯:何時に訴えがあり、何分粘って、どの薬を選んだか
- 効果:何分後に入眠したか、何時間眠れたか、中途覚醒はあったか
- 副作用:ふらつき・日中の眠気・気分の変化
申し送りで揃えたい一文
「不眠時Ⅰ使用、入眠あり」より、こう書いてあると次の夜勤がぐっと楽になります。
「22時消灯後も入眠できず、入院前の就寝時刻が0時とのこと。環境調整と傾聴で経過観察、0時20分に自然入眠。眠剤未使用」
「23時にロゼレム8mg内服、約40分後に入眠。中途覚醒なし、翌朝のふらつきなし」
9. よくある疑問 Q&A
Q1: 持参薬の睡眠薬を病棟で継続投与してよい?
A: 基本は主治医の確認が必須です。自宅で長年内服していた薬を入院後に急に中止すると、反跳性不眠や離脱症状が出ることがあります(特にベンゾジアゼピン系)。一方で、入院中の新規併用薬との相互作用や、術前の中止指示が必要な薬もあります。「入院前に飲んでいた薬は飲んでいいですか」と聞かれたら、自己判断で渡さず、必ず指示を確認してください。持参薬鑑別の結果と主治医の継続指示があってはじめて投与できます。
Q2: 朝方近くに「眠れない」と訴えがありました。残り時間が少ない時間帯でも眠剤を渡していい?
A: 起床予定時刻から逆算して、作用時間分の睡眠時間が確保できないなら、初回投与は見送るのが基本です。たとえば起床6時のところ、4時に不眠時Ⅰを渡すと、覚醒予定時刻まで薬効が残ってしまい、リハビリ・清拭・食事介助の時間帯にふらつきや眠気が残ります。特に朝の離床や排泄介助のタイミングは、転倒リスクに直結します。目安として 「起床時刻の3〜4時間前を過ぎたら、初回投与は控える」 というカットオフをチームで揃えておくと、朝方の判断が楽になります。その時間帯なら、環境調整・傾聴・「あと2時間だけゆっくり過ごしましょう」の声かけに切り替えるのが安全です。日本睡眠学会のガイドラインでも、翌朝の持ち越し効果(ハングオーバー)は転倒・誤嚥のリスクとして注意喚起されています。作用時間が長めのベンゾ系睡眠薬ではなおさらの配慮が必要です。
Q3: 高齢者にも処方されている眠剤、安全性はどう考える?
A: 日本老年医学会の「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」では、ベンゾジアゼピン系睡眠薬は高齢者で『特に慎重な投与を要する薬物』として挙げられています。理由は、転倒・骨折・認知機能低下・せん妄誘発のリスクが高まるためです。処方されているからといって安心せず、転倒予防策(ベッド柵・センサー・夜間ポータブルトイレ)の併用を必ずセットで考えてください。PMDAもベンゾジアゼピン受容体作動薬の依存性について注意喚起しています。新規導入よりも、ラメルテオン・スボレキサントなどせん妄リスクの低い薬剤が選ばれる流れも知っておくと、医師との会話がスムーズになります。
Q4: 「眠剤は癖になりますか?」と患者さんに聞かれたら?
A: 正直に、でも不安を煽らずに答えるのがポイントです。「薬の種類によって、長く使うと体が慣れてしまうものはあります。ただ、入院中の短期間の使用であれば、その心配は少ないんですよ。退院後も必要かどうかは、退院前に主治医と一緒に考えていきましょう」——このくらいの返し方がちょうどいい温度感です。患者さんの「癖になる」という言葉の裏には、退院後も飲み続けることへの不安が隠れていることが多いので、退院時の見直しまで視野に入っていることを伝えると安心されます。
Q5: 「もっと強いのに変えてほしい」と言われたら?
A: 強さの希望は、「眠れない」という訴えの強さを反映していることが多いんです。すぐに「医師に相談しますね」と答える前に、「強いお薬がほしいと感じられるくらい、眠れなくてお辛いんですね」と一度受け止めてみてください。そのうえで、何時間眠れたか・どんな目覚め方だったか・何時に目が覚めたかを一緒に振り返ると、「思ったより眠れていた」「途中で目が覚めたのが辛かっただけ」など、薬の変更以外の解決策が見えてくることがあります。それでも変更が妥当と判断すれば、医師にSBARで報告します。
10. まとめ
- ✓ 不眠時指示「Ⅰ→Ⅱ」は、効果判定の時間基準をチームで揃える
- ✓ 中途覚醒での追加投与は原則NG。原因確認を優先する
- ✓ 同室クレーム回避目的の投与はしない。環境調整で対応する
- ✓ 迷ったらコール。SBARで状況・背景・評価・提案を整理して伝える
- ✓ 薬の前に入院前の生活リズムを聞く——「眠れない」の正体が見える
- ✓ 投与後30〜60分のラウンドで、呼吸・転倒リスク・意識レベルを確認
- ✓ 記録には経緯・効果・副作用の3点を残し、次の夜勤者が判断できる形にする
「眠れない」という訴えに、夜勤者全員が同じ筋道で向き合えるチームをつくる。眠剤を渡すか渡さないかではなく、判断の根拠が揃っているかどうか——そこが、患者さんの安全と回復を支える分かれ目になります。
参考・根拠
- 日本睡眠学会「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」(2014年改訂)
- 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」
- 日本老年医学会「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」
- PMDA「ベンゾジアゼピン受容体作動薬の依存性」適正使用に関する文書(2017)
- 日本看護協会「夜勤・交代制勤務に関するガイドライン」
- 沼隈病院「入院患者における不眠時不穏時のプロトコルに基づく薬物療法管理」(日本病院薬剤師会学術大会、2021)
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この記事を書いた人
臨床ナースラボ 管理者現役看護師
日々の臨床で感じた「これ、もっと早く知りたかった」をもとに、チームで判断を揃えるための知識とツールを作っています。