スケール・評価

長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)の使い方|実施のコツと結果の活かし方

2026-04-16

「認知症のスクリーニングをしておいてください」——こう指示を受けたとき、迷いなく実施できるでしょうか。

HDS-Rは臨床で最もよく使われる認知機能スクリーニングの一つですが、正しい実施方法を理解しているか、結果をケアにどう活かすかとなると、自信がない方もいるかもしれません。

HDS-Rとは——何を評価するスクリーニングか

開発の背景と目的

HDS-R(改訂長谷川式簡易知能評価スケール)は、1974年に長谷川和夫氏によって開発された簡易知能評価スケールを、1991年に加藤伸司氏らが改訂したものです(加藤伸司ほか, 老年精神医学雑誌, 1991)。

目的は、認知症のスクリーニング——つまり「認知症の疑いがあるかどうか」を短時間で簡便に評価することです。診断を確定するための検査ではないという点が重要です。

9項目で何を見ているのか

HDS-Rは以下の認知機能を評価する9つの設問で構成されています。検査時間は5〜10分程度です。

HDS-R 9つの評価項目と配点
HDS-Rの9項目と配点(合計30点)

特徴的なのは、視覚的な課題(図形模写・書字など)が含まれていないことです。そのため、視力に問題がある方や手指の巧緻性が低下している方にも実施しやすいスクリーニングです。

カットオフ値(20/21点)の意味

合計30点満点で、20点以下の場合に「認知症の疑いあり」と判定します。

このカットオフ値は、原著論文において感度93%・特異度86%と報告されています。つまり、認知症の方の93%を「疑いあり」と検出でき、認知症でない方の86%を「疑いなし」と正しく判定できるということです。

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いつ使うのか——臨床での使用場面

入院時のスクリーニング

特に高齢の入院患者に対し、入院時の認知機能のベースラインを把握するために実施されることが多いです。入院中にせん妄が生じた場合、入院時のスコアと比較することで変化を客観的に評価できます。

術前評価

手術を受ける高齢患者に対して、術後せん妄のリスク因子の一つとして認知機能を評価する目的で実施されます。

認知症の疑いがある時の初期評価

日常の関わりの中で「あれ?」と感じたとき——たとえば同じ話を何度も繰り返す、日時がわからない、薬の管理ができなくなったなど——認知機能低下の客観的な指標を得るために実施します。

経過観察

定期的に実施することで、認知機能の変化を経時的に追うことができます。ただし、繰り返し実施すると設問を覚えてしまう(学習効果)ため、実施間隔は少なくとも1か月以上空けるのが望ましいとされています。

実施の手順——9項目の進め方

準備するもの

  • HDS-Rの評価用紙(またはスコアリングツール)
  • 筆記用具
  • 相互に関連のない5つの物品(例:時計、鍵、はさみ、スプーン、めがねなど)——問8で使用

実施環境の整え方

  • 静かで落ち着いた場所で行う
  • 被検者がリラックスできるよう配慮する
  • 難聴がある場合は、事前にどの程度の声の大きさで聞こえるか確認しておく
  • テストであることを前面に出しすぎず、「少しお話を聞かせてもらいたい」のような自然な導入がよい

各設問の進め方とポイント

問1:年齢(1点)

「お歳はいくつですか?」と質問します。2年までの誤差は正解とします。

問2:日時の見当識(4点)

「今日は何年の何月何日ですか?何曜日ですか?」年・月・日・曜日それぞれ正解で1点ずつ。

問3:場所の見当識(2点)

「私たちが今いるところはどこですか?」自発的に正解すれば2点。答えられない場合、5秒おいて「家ですか?病院ですか?施設ですか?」のように選択肢を提示し、正しく選べれば1点。

問4:3つの言葉の記銘(3点)

「これから言う3つの言葉を言ってみてください。あとでまた聞きますのでよく覚えておいてください。」系列は a)桜・猫・電車 または b)梅・犬・自動車 のいずれか1つを使用。覚えられない場合は繰り返し提示し、3回繰り返しても覚えられない言葉は問7(遅延再生)から除外します。

問5:計算(2点)

「100から7を順番に引いてください。」93で1点、86でさらに1点。最初の引き算を間違えた場合は打ち切り。

問6:数字の逆唱(2点)

「私がこれから言う数字を逆から言ってください。」3桁(6-8-2)で1点、4桁(3-5-2-9)で1点。3桁を間違えた場合は打ち切り。

問7:3つの言葉の遅延再生(6点)

「さきほど覚えてもらった3つの言葉をもう一度言ってみてください。」自発的に正解で各2点。出てこない場合にカテゴリーのヒント(植物・動物・乗り物)を出して正解なら各1点。

問8:5つの物品記銘(5点)

「これから5つの品物を見せます。それを隠しますので何があったか言ってください。」相互に無関係な5つの物品を見せ、隠した後に答えてもらう。各1点。

問9:野菜の名前(5点)

「知っている野菜の名前をできるだけたくさん言ってください。」途中で詰まり約10秒間出ない場合は打ち切り。0〜5個=0点、6個=1点、7個=2点、8個=3点、9個=4点、10個以上=5点。

結果の解釈——点数をどう読むか

カットオフ値と重症度の目安

臨床では、便宜的に以下のような目安が用いられることもありますが、これはあくまで参考にすぎません。単回のスコアだけで重症度を判断することは適切ではなく、日常の観察や他の評価と合わせて総合的に判断する必要があります。

合計スコア便宜的な目安
21点以上カットオフ値以上
20点前後軽度の認知機能低下
11〜19点中等度の認知機能低下
10点以下高度の認知機能低下

点数に影響する要因

💡 HDS-Rの得点は、認知機能以外の要因にも左右されます。

  • 教育歴:影響の程度について報告は一貫していないが、解釈時には個別の背景に注意が必要
  • うつ状態:意欲低下により実際の能力より低い得点が出ることがある
  • 難聴:聞き取れないことで誤答になる可能性がある
  • 体調・疲労:体調不良時は集中力が低下し得点が下がる
  • せん妄:一過性の意識変容により得点が大きく低下する(認知症とは異なる)

スクリーニング結果=診断ではない

繰り返しになりますが、HDS-Rはスクリーニング検査です。「20点以下=認知症」ではありません。認知症の診断には、医師による問診、画像検査(CT・MRI)、血液検査、さらに詳細な神経心理検査などを総合して行われます。

HDS-Rが検出しにくい認知症のタイプ

HDS-Rは記憶力に重点を置いたスクリーニングです。そのため、初期段階で記憶障害が目立ちにくい以下のタイプでは、感度が十分に発揮されないことがあります。

  • レビー小体型認知症:注意力の変動、幻視が特徴。記憶障害は初期には目立ちにくい
  • 前頭側頭型認知症:行動変化や人格変化が主体。記憶や見当識は比較的保たれることがある

HDS-Rの点数が高くても、日常の行動に変化がある場合は注意が必要です。

HDS-RとMMSEの違い——どう使い分ける?

日本では、HDS-Rと並んでMMSE(Mini-Mental State Examination)もよく使われます。両者の違いを整理しておきましょう。

HDS-RとMMSEの比較表
HDS-RとMMSEの主な違い

使い分けのポイント

  • HDS-R:口頭のみで実施できるため、視力低下や手指の巧緻性が低下している患者さんに適している
  • MMSE:空間認知や動作性の評価も含むため、より幅広い認知機能を評価できる
  • 両方実施する場合もあり、得点の乖離から認知機能の特徴を把握できることがある

実施時の配慮——患者さんへの声掛けと環境づくり

「テストされている」と感じさせない声掛け

HDS-Rを実施するとき、患者さんが「テストされている」と感じると緊張や不安が高まり、本来の力を発揮できなくなることがあります。

  • 導入の声掛け例:「少しお話を聞かせていただいてもいいですか?」「記憶の確認をさせてくださいね」
  • 「テスト」「検査」という言葉を避け、自然な会話の延長として始める
  • 正解・不正解に対して一喜一憂しない。淡々と、でも温かく進める

答えられないときの配慮

答えられない設問があると、患者さんは混乱したり、自尊心を傷つけられたと感じることがあります。

  • 「大丈夫ですよ」「わからなければ次に進みますね」と安心感を与える
  • 焦らせない。沈黙が続いても穏やかに待つ
  • 検査後に「ありがとうございました」と感謝を伝える

拒否がある場合の対応

  • 無理に実施しない——信頼関係を損なう方がリスクが大きい
  • 拒否の理由を探る(「テストされたくない」「わからないと思われたくない」など)
  • 時間や担当者を変えて再度試みることも一つの方法
  • 拒否した事実と推測される理由をカルテに記録する

難聴・失語がある場合の工夫

  • 難聴:事前に聞こえる声の大きさを確認。筆談の併用も検討
  • 失語:HDS-Rは言語応答を前提としているため、結果の解釈に注意が必要。医師に相談のうえ、MMSEの使用も検討する

繰り返し実施する場合の注意(学習効果)

  • 実施間隔は少なくとも1か月以上空ける
  • 前回の検査結果を患者さんに見せない
  • 問4・問7の系列(桜・猫・電車 or 梅・犬・自動車)を前回と変えることも有効

結果をケアにつなげる——スクリーニングの先にあるもの

結果を多職種で共有する

スクリーニングの結果は、カンファレンスで多職種と共有することで初めてケアに活きます。

  • スコアだけでなく、実施時の様子(集中力、不安の有無、拒否の有無)も共有する
  • 「この方は見当識が保たれているが、近時記憶が低下している」など、どの機能が低下しているかを具体的に伝える
  • ケアプランへの反映(見守りの強化、服薬管理の方法、退院支援の方向性など)

Tip:印象的な回答は「備考欄」に残すと共有価値が上がる

点数(例:18点)だけだと、他のスタッフに患者さんの状態がリアルに伝わりません。失点した設問で「患者さんが実際に何と答えたか」を備考欄に1行残しておくと、認知症のタイプや進行度合いを推測する材料になります。

  • 設問2(日時):「"昭和60年"と回答」→ 時間見当識の崩れ方が見える
  • 設問3(場所):「"小学校です"と回答」→ 場所見当識の質が見える
  • 設問6(数字逆唱):「順唱はできたが逆唱で混乱」→ ワーキングメモリの様子が見える

全項目を細かく記録する必要はなく、印象に残った1〜2点で十分です。の備考欄に書けば、印刷物にもそのまま反映されます。

日常の観察と組み合わせる

HDS-Rはあくまで一時点の評価です。日常の観察と組み合わせることで、より正確なアセスメントになります。

  • 同じ話の繰り返し、日付の混乱、薬の飲み忘れなど、日常の変化を記録する
  • HDS-Rの点数が高くても、日常生活に支障があれば注意が必要
  • 逆に、点数が低くても穏やかに生活できている場合もある——点数だけで判断しない

患者さん・家族への説明の仕方

  • 「認知症です」とは言わない——スクリーニング結果は診断ではない
  • 「少し記憶の確認をさせていただきました。詳しいことは先生からお話がありますので」のように、医師の説明に橋渡しする形が望ましい
  • 不安を煽らず、必要に応じて相談窓口を案内する

よくある疑問 Q&A

Q: 看護師がHDS-Rを実施してもいい?

A: はい。HDS-Rは看護師をはじめ、さまざまな医療・介護職が実施できるスクリーニング検査です。ただし、結果の解釈と診断は医師が行います。

Q: 何点差があれば「変化あり」と言える?

A: 確立された基準はなく、施設の運用や臨床判断による部分が大きいです。体調やせん妄などの一時的な要因で点数が変動することもあるため、単回の点差だけで判断せず、複数回の評価と日常の観察を組み合わせて総合的に判断することが大切です。

Q: 患者さんが途中で拒否したらどうする?

A: 無理に続けません。拒否した事実と理由をカルテに記録します。実施できた設問のスコアも参考情報として記録しておきましょう。

Q: 入院中に何回実施する?

A: 施設のプロトコルによりますが、一般的には入院時に1回、経過中に変化があれば追加で実施します。学習効果を避けるため1か月以上の間隔を空けます。

まとめ——「点数をつける」で終わらせないために

  • HDS-Rはスクリーニング検査であり、診断ではない
  • カットオフ値は20/21点。ただし、教育歴・うつ・難聴・体調などが得点に影響する
  • 実施時の配慮——テストされている感を減らし、患者さんの自尊心を守る
  • 結果はチームで共有し、ケアプランに反映する
  • 日常の観察と組み合わせることで、より正確なアセスメントになる

点数をつけることが目的ではなく、患者さんの認知機能を理解し、適切なケアにつなげることがHDS-Rを使う本当の意味です。

参考・根拠

  • 加藤伸司ほか「改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)の作成」老年精神医学雑誌, 2(11), 1339-1347, 1991.
  • 日本神経学会:認知症疾患診療ガイドライン
  • ナース専科:改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)

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この記事を書いた人

臨床ナースラボ 管理者現役看護師

日々の臨床で感じた「これ、もっと早く知りたかった」をもとに、チームで判断を揃えるための知識とツールを作っています。