グリセリン浣腸の手技と注意点|現場で使える実践ガイド
2026-03-30
1. 浣腸とは何か
グリセリン浣腸(GE:Glycerin Enema)とは、グリセリンと精製水を混合した液を直腸内に注入し、排便を促す処置です。
目的
- 浸透圧作用:腸管内に水分を引き込み、便を軟化・膨張させる
- 腸管刺激作用:腸蠕動を促進し、排便反射を誘発する
適応となる主な場面
- 便秘による排便困難
- 腸管検査・手術前の腸管内容物の除去
- 残便感があり自然排便が困難な場合
2. 実施前に必ず確認する禁忌・注意事項
⚠️ 立位での実施は避ける(直腸穿孔リスク)
立位では直腸とS状結腸の走行角度が急になり、直腸穿孔のリスクが極めて高くなります。日本医療機能評価機構の医療安全情報(No.3・No.157)でも繰り返し注意喚起されています。

相対的禁忌(要医師確認)
- 腸管術後早期
- 腸閉塞・イレウスの疑い
- 直腸・肛門の炎症・出血
- 重篤な心疾患
- 妊娠中
実施前チェックリスト
3. 容量の選択基準
現場でよく迷うのが容量の選択です。以下を目安にしてください。
| 対象 | 推奨容量 | 備考 |
|---|---|---|
| 成人(標準) | 120mL | 一般的な便秘 |
| 成人(便秘強め) | 150mL | 硬便・長期便秘 |
| 高齢者 | 60〜120mL | 腸管が脆弱なため少量から |
| 術前処置 | 医師指示に従う | 目的により異なる |
4. 実施手順
① 体位:なぜ左側臥位なのか
体位は左側臥位(シムス位)が基本です。
根拠
直腸・S状結腸は腹腔内で左側に走行しています。左側臥位にすることでこの走行に沿ってカテーテルを挿入でき、腸壁への負担が少なくなります。新人への説明は「直腸が左に走っているから左向きで寝てもらう」と覚えると理由とセットで伝えやすいです。

② カテーテルの挿入
- 潤滑剤をカテーテル先端にたっぷり塗布する
- 患者に「息を楽にしてくださいね」と声をかける(息を吐くタイミングで括約筋が緩む)
- へそ方向へ向けながらゆっくり挿入する
- 挿入の深さは成人5〜6cm、高齢者は4〜5cmを目安にする
- 抵抗を感じたら無理に押し込まない
③ 抜去後の対応
現場のコツ
カテーテル抜去直後は括約筋が弛緩しており液が漏れやすい状態です。おしり拭きを肛門に当てて軽く押さえることで外への漏れを防ぎながら我慢を促せます。
5. 我慢できない場合の対応
「我慢できなかったらどうしよう」と不安を感じる患者は多いです。事前に「もし我慢できなくても大丈夫ですよ」と伝えておくと安心感につながります。
- おしり拭きをしっかり当てて肛門を外側から補助する
- 便器やポータブルトイレをすぐ使える状態にしておく
- 少量でも腸内に残っていれば一定の効果は期待できると伝える
6. 起こりうる合併症と対応
直腸穿孔
まれですが最も重篤な合併症です。急激な腹痛・腹部硬直・発熱が出現したら直ちに医師へ報告。立位実施を避け、挿入深さを守ることで予防できます。
迷走神経反射
比較的起こりやすい合併症です。血圧低下・徐脈・気分不良が起こります。実施を中止し仰臥位にしてバイタルサインを測定。症状が回復しない場合は医師へ報告。
溶血・腎障害
まれな合併症です。腸管粘膜損傷がある場合、グリセリンが血中に吸収され溶血・腎障害が起こることがあります。事前の粘膜状態の確認が重要です。
7. 実施後の観察ポイント
- 排便量・性状:排便が得られたか、量・色・硬さを確認する
- 腹痛の有無:実施中・実施後の腹痛は直腸穿孔や迷走神経反射のサインとなりうる
- 血圧・脈拍:迷走神経反射による血圧低下・徐脈に注意する
- 気分不良・顔色:蒼白・冷汗・気分不良が出現した場合はすぐに対応する
- 排便なし・腹部膨満の持続:効果不十分の場合は医師へ報告し、追加対応を検討する
8. 摘便との使い分け
浣腸と摘便はともに排便を促す処置ですが、適応が異なります。適切に使い分けることで、患者への負担を最小限にしながら効果を得ることができます。
| 比較項目 | 浣腸(GE) | 摘便 |
|---|---|---|
| 主な適応 | 直腸〜S状結腸に便があり自然排便困難 | 直腸内の硬便塊(宿便)の除去 |
| メカニズム | 腸蠕動促進・浸透圧作用 | 直接的な便の除去(用手的) |
| 侵襲性 | 低〜中 | 中(直腸粘膜への直接刺激) |
摘便を先に行う(または併用する)場合
- カテーテル挿入時に抵抗を感じる(硬便が直腸を塞いでいる可能性)
- 直腸内に硬い便塊を触知する
- 浣腸を実施しても排便が得られない
判断のポイント
硬便が直腸を塞いでいる状態で浣腸を行っても液が奥まで届かず、効果が得られないことがあります。カテーテルに抵抗を感じたら無理に押し込まず、摘便を先行することを検討しましょう。
実際の判断の流れ
まとめ
押さえるべき3つのポイント
- 立位での実施は避ける(直腸穿孔リスク)
- 左側臥位が基本(直腸の走行に沿うため)
- ゆっくり・やさしく(粘膜を傷つけない)
参考文献・根拠
- 日本医療機能評価機構「医療安全情報 No.3」グリセリン浣腸実施に伴う直腸穿孔(2007年)
- 日本医療機能評価機構「医療安全情報 No.157」(2019年)
- 神奈川県看護協会「患者安全警報 No.6 安全なグリセリン浣腸の実施について」
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この記事を書いた人
臨床ナースラボ 管理者現役看護師
日々の臨床で感じた「これ、もっと早く知りたかった」をもとに、チームで判断を揃えるための知識とツールを作っています。