フィジカルアセスメント

浮腫評価|圧痕の深さから鑑別・報告までチームで判断を揃える完全ガイド

2026-05-03

この記事でわかること

  • ✓ 浮腫の発生メカニズム4分類と原因疾患の逆算
  • ✓ 「浮腫があるかないか」を新人でも判断できる視診5サイン+触診のコツ
  • ✓ 評価部位・圧迫秒数・4段階評価をチームで揃える方法
  • ✓ 両側/片側、急性/慢性で読む鑑別フローチャート
  • ✓ 「いつドクターコールするか」の報告トリガー表
  • ✓ 弾性ストッキングの禁忌とABIが取れない時の代替スクリーニング
  • ✓ スキンケア・ポジショニング・靴選び・マッサージの可否
  • ✓ 浮腫患者の点滴ルート管理(皮下漏出を見逃さない)

「圧迫って何秒押せばいいんですか?」

「軽度って書いたのに、夜勤で重度って書かれてた」

「いつもの浮腫だと思ってたら、実はDVTでした」

浮腫の評価をしていて、こういうモヤモヤを感じたことはありませんか?浮腫は看護師が毎日見る所見ですが、実は評価方法・判定基準・報告のタイミングが施設・人によってバラバラになりやすい領域です。この記事では、浮腫の評価・鑑別・報告・ケアまで、チームで判断を揃えるための完全ガイドとして整理します。と密接に関連するので、合わせて読むとさらに強い理解が得られます。

1. 浮腫の基本——4つの発生メカニズム

浮腫は単一の病態ではなく、4つの主要メカニズムで発生します。これを知っておくと、原因疾患の鑑別が一気に楽になります。

メカニズム何が起きているか主な疾患
①静脈圧上昇血管内の圧が上がり、間質に水が押し出される心不全、DVT、静脈不全、肝硬変
②膠質浸透圧低下血漿のアルブミンが減り、水を血管内に保持できない低Alb血症、ネフローゼ、肝硬変、栄養失調
③血管透過性亢進血管壁が緩み、水・タンパクが間質に漏れる炎症(蜂窩織炎)、アレルギー、敗血症
④リンパ還流障害リンパが流れず、組織液がうっ滞するリンパ浮腫(術後、放射線後、原発性)

補足:Alb(アルブミン)とは

肝臓で合成される血漿タンパクで、血漿タンパクの約60%を占め、膠質浸透圧の主要因。基準値3.5〜5.0g/dL、3.0g/dL未満で浮腫が出やすくなり、2.5g/dL未満で著明な浮腫が出現。低下原因は合成低下(肝硬変・栄養失調)、喪失(ネフローゼ・火傷)、消耗(感染・がん)、希釈(大量輸液)。採血伝票では「Alb」と表記。

注意:低Alb単独で浮腫が出ることは実は稀で、ナトリウム貯留・心不全・腎機能低下などの複合要因で浮腫が顕在化することが多いと指摘されています。Alb値だけでなく、Na・体液バランス・原疾患を合わせて判断します。

現場での意義:

  • 「低Alb血症(栄養性)」は採血データ(Alb < 3.0g/dL)で気付ける
  • 「DVT」は片側性・急性発症が手がかり
  • 「リンパ浮腫」は乳がん術後・婦人科がん術後に多い、左右差で気付く
  • 「心不全」は両側下肢から始まり、悪化すると全身性に進行
  • 「静脈不全」は下肢静脈の逆流防止弁が壊れて慢性的に静脈血が下肢にうっ滞する病態。夕方の増悪・下肢挙上で軽快・茶褐色の色素沈着・静脈瘤の合併が手がかり(DVT後の後遺症としても起きる)

メカニズムから疑う疾患を逆算する習慣をつけると、「この浮腫は何が原因か?」が見えてきます。

コラム:腫脹と浮腫の見分け方

「腫脹(swelling)」と「浮腫(edema)」、混同されがちですが意味が違います。

用語意味例
腫脹体の一部が腫れて大きくなった状態の総称(広い概念)炎症腫脹、外傷後の腫脹、血腫、腫瘤、浮腫もすべて含む
浮腫間質液(組織液)が異常に増加した状態(腫脹の一種)心不全による下肢浮腫、リンパ浮腫など

つまり浮腫は腫脹の中の1カテゴリ。報告では「両下肢の浮腫」「前腕の腫脹(血腫疑い)」のように使い分けると、医師にも誤解なく伝わります。

2. 浮腫があるかないかの「気付き方」

「むくんでる気がするけど、確信が持てない」——新人が最初に悩むのがここです。実は熟練看護師は、無意識に複数のサインから「浮腫の有無」を判断しています。それを言語化します。

視診ベースの簡易チェック(5つ)

サイン何を見るか
靴下の跡ふくらはぎに靴下のゴムの跡が深く残っているか
靴のきつさ普段の靴がきつい、入らない、夕方に履き替えたい
指輪の跡指輪が指に食い込んでいる、抜けにくい
目の周りの腫れまぶたの腫れぼったさ(朝に出やすい、特にネフローゼ・甲状腺機能低下)
腹壁・仙骨部のべたつき(沈下性浮腫)寝たきり患者で、仰臥位の背側に水分が溜まる

補足:なぜまぶたが腫れやすいのか

まぶたは皮膚が極めて薄く(人体で最も薄い)、皮下組織も疎で支持構造に乏しいため、わずかな間質液増加でも目立ちます。就寝中(仰臥位)に水分が顔へ移動するので朝に出やすく、起床後の活動で下肢へ移動して引いていくのが典型。ネフローゼ症候群では低Alb血症で漏れた水分の最初のサインとして、甲状腺機能低下症(粘液水腫)ではムコ多糖の蓄積による非圧痕性浮腫として出現します。

患者本人に聞く質問

  • 「朝と夕方で足の太さ違いますか?」
  • 「靴がきつくなってませんか?」
  • 「指輪が抜けにくくなったりしましたか?」
  • 「まぶたが腫れぼったいって、ご家族に言われたりしましたか?」

患者本人が「いつもと違う」感覚を持っていることが多いので、聞き取りはとても重要な情報源です。

触診で「指離した瞬間の感覚」

熟練看護師は、圧迫を解除した瞬間に指の腹で感じる感触で、浮腫の有無を判断しています。

  • 正常:指がスッと離れ、皮膚が弾力よく戻る
  • 軽度浮腫:指が少し沈み、戻りに微妙な抵抗感
  • 明らかな浮腫:指が沈み、戻りが遅く、圧痕が残る

これは経験で身についていく感覚ですが、「圧迫→解除の瞬間に意識して感じる」訓練を繰り返すと、新人でも数ヶ月で身につきます。

3. 浮腫評価の基本——「どこで・何秒・何を見るか」を揃える

ここからが、チームで判断を揃えるための核です。評価部位・圧迫秒数・判定基準を施設で統一することが、評価のばらつきをなくす第一歩です。

評価部位の標準化

部位特徴適応
脛骨前面骨が皮下にあり、圧痕が残りやすく評価しやすい標準的な評価部位
足背浮腫が早期に出現する部位初期の浮腫検出に有用
内くるぶし上静脈うっ滞性浮腫の好発部位DVT・静脈不全の評価
圧痕性浮腫の評価部位
圧痕性浮腫の3つの主要評価部位:脛骨前面(標準)・足背・内くるぶし周辺

標準は脛骨前面を基本とし、必要に応じて足背・くるぶし上も評価する流れが推奨されます。

圧迫秒数のプロトコル

圧迫秒数は文献・教科書で「数秒」「5秒」「1分」と統一されていません。施設内で1つに揃える運用案として:

  • 圧迫時間:5秒間(多くの実践書で採用、現実的なバランス)
  • 圧迫の強さ:母指の腹で、骨に当たるまで軽く沈める程度
  • 圧迫部位の皮膚をしっかり目視できる位置で

圧痕の深さの定量化(4段階評価)

「軽度」「中等度」「重度」という曖昧な表現を、圧痕性浮腫のアセスメントスケール(4段階+non-pitting)で定量化します。

圧痕性浮腫の4段階評価
圧痕性浮腫の4段階評価(1+〜4+):深さと戻り時間で重症度を判定
度数圧痕の深さの目安戻り時間表現
0度圧痕なし—浮腫なし
1度(+)2mm程度即時軽度浮腫
2度(++)4mm程度15秒以内中等度浮腫
3度(+++)6mm程度約60秒高度浮腫
4度(++++)8mm程度2〜3分重度浮腫
non-pitting圧痕が残らない—リンパ浮腫・粘液水腫など

現場のコツ——4つの観察ポイントを組み合わせる:

  1. 凹みの深さを目視で評価(浅い/明らかに凹む/深く凹む)
  2. 指で再度なぞって沈み込みを感じる(指の腹がほとんど沈まない/少し沈む/しっかり沈む)
  3. 戻る時間(pitting time)——客観性が高い指標
  4. 画像記録——施設内で「これが2度」という共通イメージを作る

自分の体を物差しにする:爪の厚み約1mm、小指の爪の幅約5〜6mm——これらを基準に圧痕の深さを推定する習慣をつけると定量化しやすくなります。

「アセスメントスケール 2度(++)」のように記録すれば、施設・シフトを越えて伝わります。

周径測定で経時変化を追う

圧痕の深さに加えて、周径測定を組み合わせると経時的な変化が客観化できます。

  • 足関節上◯cm(例:内くるぶしから10cm上)
  • 下腿最大周径
  • 大腿◯cm(例:膝蓋骨上方15cm)

「測定位置を毎回固定」が鉄則。違う位置で測ると比較になりません。

4. 圧痕性 vs 非圧痕性——鑑別の最初の分岐

浮腫の鑑別で最初に行うのが、圧痕性(pitting)か非圧痕性(non-pitting)かの判断です。

圧痕性浮腫(pitting edema)

  • 圧迫すると圧痕が残る、戻りに時間がかかる
  • 間質液中の水分が主体(タンパク質が比較的少ない)
  • 多くの全身性浮腫(心不全・腎不全・低Alb血症・薬剤性)が該当

非圧痕性浮腫(non-pitting edema)

  • 圧迫しても圧痕が残らない、または戻りが速い
  • 間質液中のタンパク質が多い、または線維化が進んでいる
  • リンパ浮腫、粘液水腫(甲状腺機能低下症)、リポデルマトスクレローシス(脂肪皮膚硬化症)などが該当

5. 浮腫鑑別フローチャート——両側/片側、急性/慢性で読む

「この浮腫は何が原因か?」を判断するためのフローを示します。

STEP 1:両側性か片側性か/STEP 2:急性発症か慢性経過か/STEP 3:圧痕性か非圧痕性か/STEP 4:随伴症状をチェック

浮腫鑑別フローチャート
浮腫鑑別フローチャート:両側→心不全・腎不全/片側急性→DVT・蜂窩織炎/片側慢性→リンパ浮腫

両側性浮腫の鑑別

両側下肢に対称性に浮腫が出ている場合、全身性疾患を疑います。

候補疾患特徴確認ポイント
心不全両下肢から始まり、進行で腹水・全身性へBNP、胸部X線、体重変化
腎不全(CKD・ネフローゼ)顔面・眼瞼から始まることも、尿量減少クレアチニン、尿タンパク、尿量
肝硬変腹水を伴うことが多い、黄疸、クモ状血管腫Alb、ビリルビン、PT-INR
低Alb血症栄養失調・吸収障害で。Alb < 3.0g/dLが目安採血Alb、食事摂取量
薬剤性Ca拮抗薬(アムロジピン等)、NSAIDs、ステロイドが原因服薬歴チェック
甲状腺機能低下非圧痕性、顔面・四肢にむくみ、徐脈・寒がりTSH、FT4

片側性浮腫の鑑別

片側だけの浮腫は、原則として警戒所見です。

候補疾患特徴確認ポイント
DVT(深部静脈血栓症)急性発症、疼痛、熱感、患肢の周径増大D-ダイマー、エコー検査
蜂窩織炎発赤・熱感・疼痛・新規発熱採血(CRP・白血球)、皮膚所見
リンパ浮腫術後(乳がん・婦人科がん)、慢性経過、非圧痕性既往歴、手術歴
外傷・骨折受傷歴明確、腫脹+疼痛受傷歴、X線
静脈瘤・慢性静脈不全慢性経過、立位で増悪、皮膚色素沈着視診、エコー

特にDVTは見逃したくない疾患——急性発症の片側性浮腫は、まずDVTを疑って報告するのが安全です。

非圧痕性浮腫の鑑別

非圧痕性は、頻度は少ないですが見逃すと診断が遅れます。

  • リンパ浮腫:手術後・放射線後の慢性経過、Stemmer徴候陽性(足背の皮膚がつまめない)
  • 粘液水腫(甲状腺機能低下症):全身性、寒がり、徐脈、皮膚乾燥
  • リポデルマトスクレローシス(脂肪皮膚硬化症):慢性静脈不全の終末像。下腿が「逆さシャンパンボトル状」に変形、皮膚硬化、色素沈着

補足:うっ滞性皮膚炎は圧痕性?非圧痕性?

慢性うっ滞性皮膚炎は初期〜中期は圧痕性浮腫を呈します。長期化してリポデルマトスクレローシス(脂肪皮膚硬化症)まで進行すると、皮下組織の線維化により非圧痕性に移行します。「うっ滞性皮膚炎=非圧痕性」と単純化せず、進行段階で評価する視点が大切です。

急速進行性浮腫の鑑別

数時間〜数日で急速に進行する浮腫は、緊急性が高いことが多いです。

  • DVT:片側、疼痛、熱感
  • 蜂窩織炎:発赤、熱感、発熱
  • 血管浮腫(アレルギー性):顔面・喉頭の浮腫、呼吸困難——気道閉塞のリスクで超緊急

色の傾向で原因を絞る

浮腫部位の皮膚色は、原因疾患を絞る重要な情報になります。

色示唆する病態
青紫色(暗赤色)静脈うっ滞(DVT、心不全、静脈不全)
発赤+熱感炎症(蜂窩織炎、感染)
蒼白動脈不全の合併(PADと心不全併存など)
茶褐色(色素沈着)慢性うっ滞性皮膚炎、長期化した静脈不全

「浮腫だから色がおかしい」で片付けず、色の意味から原因を読む視点を持ちます。末梢循環評価との関連は、も参照してください。

6. 報告トリガー表——「いつドクターコールするか」

新人が最も困るのが「報告するべきか、様子見か」の判断。ここを明文化します。

状況緊急度初動
片側急性浮腫+疼痛(DVT疑い)★★★即報告、安静、患肢の屈曲・マッサージ禁止
片側急性浮腫+発赤・熱感・発熱(蜂窩織炎疑い)★★★即報告、抗菌薬準備、患肢の冷却検討
顔面・喉頭浮腫+呼吸困難(血管浮腫)★★★即RRT、気道確保準備
両側下肢浮腫の急速増悪+呼吸困難(心不全憎悪)★★★即報告、SpO2・体重・尿量確認
全身性浮腫+尿量減少(腎機能悪化)★★★即報告、IN/OUTバランス確認
慢性的な両側下肢浮腫の段階的増悪★★主治医へ報告、体重・採血データ確認
薬剤性疑い(新規Ca拮抗薬開始後など)★★主治医へ報告、薬剤調整の検討依頼
安定した慢性浮腫(変化なし)★定期記録、申し送り

「片側+急性+疼痛または発熱」は、ほぼ無条件で即報告の組み合わせです。

7. 浮腫のケア——「保湿しましょう」では終わらせない

スキンケア——皮膚障害を絶対に起こさない

浮腫部位の皮膚は薄く張りつめ、バリア機能が低下しています。わずかな摩擦・乾燥で水疱・びらんを起こします。

  • 保湿剤の選び方:白色ワセリン・ヒルドイドソフト軟膏など、油分の多いものを1日2回以上塗布
  • 入浴後すぐの保湿(皮膚がまだ湿っているうちに塗ると吸収が良い)
  • 強い摩擦を避ける——タオルで擦らない、押さえるように水分を取る
  • 皮膚観察——毎日、発赤・水疱・びらん・小さな傷を確認
  • 小さな傷からの感染リスク——浮腫部位の感染は蜂窩織炎に発展しやすい

なぜ浮腫部位は蜂窩織炎になりやすいか

①皮膚バリアの破綻(薄く張りつめている)、②間質液が細菌の培地になる、③リンパ還流障害で免疫細胞が届きにくい、④静脈うっ滞で酸素・抗菌薬も到達しにくい——これら4つが重なるため、小さな傷から一気に感染が広がる悪循環に陥ります。「たかが擦り傷」が患者を入院させることもある領域です。

ポジショニング——下肢挙上の角度と時間

  • 角度:心臓より高い位置(クッション・タオルを丸めて10〜15cmの高さに足を乗せる)
  • 時間:1日3〜4回、各30分以上が目安
  • 就寝中:ベッドの足側を10〜15cm上げる、または足元にクッション
  • 長時間の座位は避ける——下肢を下げ続けると重力で浮腫が増悪

注意:膝の裏(膝窩部)に直接クッションを当てない——膝窩静脈を圧迫し、かえって静脈還流を妨げます。ふくらはぎ全体を支えるように、足首〜下腿全体に当てるのが正解です。

「夜だけ足を上げて意味ある?」と聞かれたら、「重力で日中下方に溜まった水分を、夜間に吸収・排出するための時間」という意味があります。

弾性ストッキング——サイズ・着脱・禁忌

弾性ストッキングの正しい着用方法と禁忌
左:着用手順(ロールダウン→足を入れる→巻き上げる)/右:4つの禁忌(PAD・急性DVT・急性心不全・皮膚潰瘍)

サイズ選び:足首・ふくらはぎ・大腿の周径を測定し、サイズ表に合わせる。きつすぎると逆効果、ゆるすぎると効果なし。

着脱のタイミング:

  • 朝、起床時にすぐ着用(重力で浮腫が出る前)
  • 就寝前に脱ぐ
  • 入浴時には脱ぐ

禁忌・慎重投与の整理(医師判断のもとで実施):

状態判断
ABI < 0.5(重度PAD)または重度虚血肢原則禁忌——動脈血流障害が悪化する
急性DVT(未治療・評価前)自己判断では行わない——医師評価のもと、抗凝固療法と併用での圧迫療法は国際的に容認。開始判断は医師に委ねる
重症心不全(非代償期)慎重投与——静脈還流増加で心負荷悪化リスク。安定期では使用可、症状増悪時は医師相談
重度の感染(蜂窩織炎の急性期)慎重投与——抗菌薬治療と併用で検討。治療経過で判断が変わる
皮膚潰瘍・重度の皮膚障害部位を避けて使用、または専用の創傷ケア用品との併用を検討

重要:上記はあくまで「原則禁忌・慎重投与」の整理で、最終判断は患者の重症度と全身状態を含めて医師が行います。看護師は「絶対だめ」と単純化せず、「医師判断のもとで実施」を基本姿勢とします。

ABIグラデーション:

ABI値圧迫療法の判断
< 0.5原則禁忌(重度PAD・重度虚血肢)
0.5〜0.8慎重投与(医師指示で減圧 20〜30mmHg を検討)
0.8〜0.9境界域(標準圧の使用は医師判断、観察を強化)
≥ 0.9標準圧で施行可
> 1.4石灰化動脈の偽高値(糖尿病・高齢者で多い)——ABI単独では判断できないため医師相談

ABI測定ができない場合の代替スクリーニング

弾性ストッキング装着前のABI測定はガイドライン上推奨されていますが、現実には病棟ですべての患者にABIを測定している施設は少ないのが実情。ABIが取れない場合でも、看護師ができる最低限のスクリーニングがあります:

  1. 足背動脈・後脛骨動脈の触知——触れない/微弱なら強い警戒サイン
  2. PAD既往の確認(カルテ、患者本人に聞く)
  3. 糖尿病の有無(PADリスクが高い)
  4. 間欠性跛行の有無(少し歩くと足が痛くなる→PAD示唆)
  5. 冷感・蒼白・チアノーゼの有無
  6. ABI既往値があればカルテで確認

これらに1つでも当てはまれば、装着前に医師相談が安全です。

装着後の観察も忘れない

  • 装着後30分〜数時間以内に、皮膚色・冷感・しびれ・疼痛を確認
  • 装着部より末梢側(つま先)の色が蒼白・チアノーゼになっていないか
  • 患者から「痛い・しびれる」の訴えがあれば、無理に着けさせない
  • 異常があれば即外して医師報告

靴・履物の選び方

  • 夕方にフィッティング——浮腫がピークになる時間帯に合わせる
  • マジックテープや紐で調整可能なもの——浮腫の日内変動に対応
  • 柔らかい素材——皮膚への摩擦を避ける
  • つま先に余裕——指の浮腫で食い込まない
  • 季節要因——夏は通気性、冬は保温と乾燥対策

マッサージ・運動の注意点

「マッサージはしていい?」と聞かれることが多いですが、疾患によって禁忌が異なります。

状態マッサージ
慢性的な静脈不全による浮腫OK(軽い末梢→中枢方向)
心不全急性期NG(静脈還流増加で心負荷悪化)
DVT絶対禁忌(血栓が肺動脈へ飛ぶリスク=肺塞栓)
リンパ浮腫専門技法(MLD)が必要、自己流NG
蜂窩織炎NG(感染を広げるリスク)

8. 浮腫患者の点滴ルート管理

浮腫患者で皮下漏出が見逃されやすい理由:

  • 浮腫で腫れていることが普通になっているため、漏出による腫れと区別しにくい
  • 皮膚が張りつめているため、痛みの訴えが弱いことがある
  • 静脈の走行が見えにくく、穿刺自体が難しい

対策:

  • 点滴開始前に部位を確認し、ベースラインの腫れを把握
  • 観察頻度を上げる(通常より短い間隔で滴下確認)
  • 点滴部位の周径を測定しておくと、変化が定量化できる
  • 末梢血管が乏しければ早めにCV検討を医師と相談
  • 抜針時の止血を丁寧に——浮腫部位は止血しにくい、皮下出血しやすい

9. 落とし穴になりやすい5場面

①高齢者の廃用性浮腫——加齢か病的か

高齢者の下肢浮腫は、加齢による筋ポンプ作用低下+座位時間の長さで起こることが多い。判断のポイント:

  • 両側性・対称性・慢性経過・他に随伴症状なし→廃用性の可能性高い
  • 片側性・急性発症・疼痛・発熱・呼吸困難→病的浮腫、即評価

「加齢だから諦めましょう」ではなく、「対処できる部分はあります」と前向きに伝えるのが大切。

②低Alb血症の見落とし——栄養データとの突合

採血のAlb値(基準:3.5〜5.0g/dL)を確認していますか?

  • Alb < 3.0g/dL:浮腫の原因になる可能性が高い
  • Alb < 2.5g/dL:高度の低Alb血症、浮腫が出現しやすい

栄養失調・吸収障害・がん終末期・ネフローゼなどで起こります。心不全と思っていたら実は低Alb血症だったというケースは多い。

③化学療法後・術後リンパ浮腫の早期サイン

リンパ浮腫は、術後・放射線治療後に数ヶ月〜数年かけて出現します。

  • 患肢の「重だるさ」「違和感」
  • 衣服のきつさ(腕時計、指輪、ブラジャーの跡)
  • 朝より夕方に強くなる
  • まだ目に見える腫れは少ない

このサインを患者本人に伝えておくと、自己発見・早期受診につながります。

④塩分・水分摂取量との関連

「水分制限したほうがいいですか?」と聞かれることが多い。疾患による:

状況制限の方向性
心不全(症状あり)水分・塩分とも制限を考慮(医師指示に従う)
腎不全(透析中)水分・塩分・カリウム制限あり
健常者の下肢浮腫過度な水分制限はむしろ有害(脱水リスク)。塩分控えめは推奨
加齢性・廃用性水分制限は不要、塩分は控えめに

「むくむから水を飲まない」は、特に高齢者では脱水のリスクが上回ることがあります。

⑤粘液水腫(甲状腺機能低下症)の見落とし

非圧痕性の浮腫で、寒がり・徐脈・皮膚乾燥・倦怠感を伴う場合、甲状腺機能低下症(橋本病など)を疑います。血液検査でTSH↑・FT4↓を確認。意外と見落とされやすい疾患です。

10. SBARで報告する

SBARテンプレ例(即報告型・DVT疑い)

S:◯号室の◯◯さん、左下肢に急性発症の浮腫と疼痛があります

B:3日前から臥床中の患者さん、特に既往なし

A:左下肢の周径が右より3cm増加、左下肢に熱感・疼痛あり、DVT疑い(※Homans徴候は感度・特異度とも低いため、現在は判定材料として推奨されていない)

R:当直医に至急報告お願いします。患肢の安静を保ち、マッサージ・屈伸は中止します

SBARテンプレ例(即報告型・心不全憎悪)

S:◯号室の◯◯さん、両下肢の浮腫が急速に増悪し、呼吸困難も出現

B:心不全既往、本日朝の体重が前日比+2kg

A:両下肢アセスメントスケール3度(前日2度)、SpO2 92%(前日96%)、起座呼吸あり、心不全憎悪疑い

R:主治医に至急報告お願いします。SpO2継続モニタリング、In/Outバランス確認します

SBARテンプレ例(定期報告型・慢性浮腫)

S:◯号室の◯◯さん、両下肢の慢性浮腫が継続

B:CKD既往、入院時から両下肢にアセスメントスケール2度の浮腫あり

A:本日も両下肢アセスメントスケール2度、周径変化なし、新規所見なし、呼吸状態安定

R:経過観察継続、次回回診時に状況共有お願いします

11. よくある質問(Q&A)

本文では拾いきれなかった、現場で実際に受けやすい質問だけ補足します。

Q1. 体重を毎日測る意味は?

A. 浮腫は1〜2L溜まらないと圧痕として見えにくいのですが、体重なら500g単位の変化を捉えられる——つまり浮腫よりも早く悪化を検出できるのが体重測定の価値です。心不全患者で「3日で2kg増加」は赤信号。同じ時刻・同じ条件(朝食前・排尿後)で測定する習慣をつけ、患者にも意味を伝えると協力が得られます。

Q2. 体位で浮腫の場所は変わりますか?

A. 変わります。重力の影響で、立位・座位なら下肢に、仰臥位なら背側(仙骨部・腹壁)に水分が移動します。これを沈下性浮腫(dependent edema、別名:重力性浮腫)と呼びます。寝たきり患者で仙骨部・背部にべたつきや浮腫を見つけたら「重力に従って溜まった浮腫」のサイン。逆に「左側臥位にしても消えない片側性」は病的浮腫を疑います。

Q3. 筋力低下でも下肢は浮腫みますか?

A. 浮腫みます。下肢の静脈血を心臓に戻すには、ふくらはぎの筋肉が収縮するポンプ作用(筋ポンプ)が必要。筋力低下や長時間の座位・臥床では、このポンプが働かず、静脈血が下肢に滞って浮腫が出ます。これが廃用性浮腫。対策は運動・足首の屈伸運動・歩行・足上げ。「動かないから浮腫む」のメカニズムを患者に伝えると、運動の動機づけになります。

まとめ

  • ✅ 浮腫は4つのメカニズム(静脈圧上昇・浸透圧低下・血管透過性亢進・リンパ還流障害)から原因を逆算する
  • ✅ 評価プロトコルを統一——脛骨前面・5秒圧迫・アセスメントスケール0〜4度+non-pittingを施設の共通言語に
  • ✅ 片側性浮腫はDVT・蜂窩織炎を疑う——急性発症+疼痛+発熱は即報告
  • ✅ 報告トリガー表で「いつドクターコールするか」を明確化——「片側+急性+疼痛/発熱」は無条件で報告
  • ✅ 末梢循環評価と連動して見る——色・触知困難・冷感の意味を読む
  • ✅ ケアは具体に踏み込む——保湿剤の選び方、弾性ストッキングの禁忌、靴選び、マッサージの可否まで

「先輩によって判断が違う」のは、あなたのスキル不足ではなく、チームのフォーマットがまだ揃っていないということ。この記事を職場で共有して、評価軸を揃えるきっかけにしてもらえたら嬉しいです。

参考・根拠

  • 日本心不全学会「急性・慢性心不全診療ガイドライン」
  • 日本腎臓学会「CKD診療ガイドライン」
  • 日本リンパ浮腫学会「リンパ浮腫診療ガイドライン」
  • 国際リンパ学会(ISL)病期分類
  • 圧痕性浮腫の4段階アセスメントスケール(一般的な看護記述)
  • 日本フットケア学会「下肢の浮腫を視る」
  • 日本離床学会「浮腫の原因と鑑別方法」

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この記事を書いた人

臨床ナースラボ 管理者現役看護師

日々の臨床で感じた「これ、もっと早く知りたかった」をもとに、チームで判断を揃えるための知識とツールを作っています。