スケール・評価

せん妄の評価と対応|3タイプの見分け方・見逃しやすい低活動型・チームで揃えたい判断基準

2026-04-29

「夜中に急に暴れ出した」「点滴を抜いてしまった」——こうした場面に遭遇したとき、まず何を考えますか?

「不穏だね」「認知症が進んだのかな」——そういう言葉で片づけていないでしょうか。せん妄は、不穏とも認知症とも異なる注意・認知の急性変化(しばしば覚醒度の変動を伴う)状態であり、原因があり、多くの場合は改善しうる状態です。

この記事では、せん妄の評価の仕方・3タイプの見分け方・対応・チームでの判断基準を整理します。

1. せん妄とは——「不穏」「認知症」との違いを整理する

せん妄の定義と中心症状

豆知識:「せん妄」の語源

せん妄は漢字で「譫妄」と書きます。「譫」はうわごとを言うこと、「妄」はつじつまの合わないことを意味し、「うわごとを言い、混乱した状態」を表しています。英語の delirium はラテン語の delirare(畑の畝から外れる=正常な軌道から逸れる)が語源です。

せん妄は注意と認知に急性の変化が起こり、しばしば覚醒度の変動を伴う状態です。

  • 急性発症:数時間〜数日で出現する(慢性的に進行するものではない)
  • 注意力の障害:会話中に集中が続かない、質問に対して的外れな返答をする
  • 日内変動:症状が一日の中で変動する(特に夕方〜夜間に悪化しやすい)
  • 意識レベルの変化:覚醒度が変動する(過覚醒〜傾眠)

表面的な行動(暴れる・大声を出す)に目が行きがちですが、根底にあるのは注意・意識の障害であることを理解しておくことが大切です。

「不穏」「夜間不穏」はせん妄と同じ?——言葉の整理

現場では「不穏」「夜間不穏」という言葉がよく使われますが、これらは症状の記述であって、診断名ではありません。

用語意味
不穏落ち着かない状態を表す症状の記述。原因はせん妄・疼痛・不安・薬剤など様々
夜間不穏夜間に落ち着かなくなる状態。せん妄による場合もあれば、睡眠障害や環境要因の場合もある
せん妄注意と認知の急性変化(しばしば覚醒度の変動を伴う)。原因がある病態であり、評価と介入が必要

「不穏=せん妄」ではありません。「この人は不穏なのか、せん妄なのか、それとも別の原因があるのか」を区別することが、適切な対応の第一歩です。

せん妄と認知症の鑑別ポイント

せん妄と認知症は混同されやすいですが、発症の仕方と経過が決定的に異なります。

せん妄認知症
発症急性(数時間〜数日)緩徐(数ヶ月〜数年)
経過変動する(日内変動あり)進行性(基本的に不可逆)
意識障害あり(覚醒度が変動)通常は清明
注意力著しく障害初期は保たれていることが多い
原因身体疾患・薬剤・環境変化など脳の器質的変化
可逆性原因を除去すれば改善しうる根本的な治癒は困難

特に重要なのは、認知症の患者さんがせん妄を合併することがあるということです。「もともと認知症があるから」で片づけず、急性の変化がないかを常に意識してください。

2. 3つのタイプを知る——見逃されやすいのは「おとなしい方」

過活動型せん妄

  • 興奮・幻覚・妄想・大声
  • 点滴やドレーンの自己抜去リスク
  • 転倒・転落のリスクが高い
  • 「問題行動」として目立つため、気づかれやすい

低活動型せん妄——最も見逃されやすい

  • 反応が鈍い、ぼんやりしている
  • 意欲・活動性の低下
  • 会話が減る、食事量が落ちる
  • うつ状態や「おとなしい患者さん」と混同されやすい

低活動型は過活動型に比べて目立たないため、発見が遅れやすいのが最大の問題です。「昨日まで普通に会話できていた方が、今日はぼんやりしている」——この変化に気づけるかどうかが鍵です。

せん妄の3タイプ(過活動型・低活動型・混合型)
左:過活動型(興奮・幻覚) 中央:低活動型(ぼんやり・反応低下) 右:混合型(日中は低活動、夜間に過活動)

混合型せん妄

  • 過活動型と低活動型の症状が交互に出現する
  • 日中はぼんやり → 夜間に興奮、というパターンが多い
  • 臨床で最も多いタイプとされている

3. せん妄のリスク因子——「誰に起きやすいか」を予測する

せん妄は突然起こるように見えますが、多くの場合リスク因子の重なりによって発症します。

準備因子(もともとのリスク)

  • 70歳以上の高齢者
  • 認知症の既往
  • 脳器質障害(脳梗塞・脳出血の既往など)
  • せん妄の既往
  • アルコール多飲歴

誘発因子(入院中に加わるリスク)

  • 手術(特に全身麻酔後)
  • 感染症(肺炎・尿路感染など)
  • 脱水・電解質異常
  • 疼痛のコントロール不良
  • 環境変化(入院そのもの・ICU・個室→大部屋の移動)
  • 身体拘束
  • 睡眠障害
  • 便秘・尿閉

直接因子(薬剤の影響)

以下の薬剤はせん妄のリスクを高めることが知られています。

  • ベンゾジアゼピン系(デパス・レンドルミンなど)——一般的なせん妄患者には第一選択にならない薬剤(症状を悪化させうるため)。ただしアルコール離脱・ベンゾジアゼピン離脱によるせん妄では例外的に第一選択となる
  • オピオイド
  • 抗コリン薬
  • ステロイド

「夜に眠れないから」と安易にベンゾジアゼピン系の睡眠薬を使用すると、多くのせん妄患者では症状を悪化させるリスクがあります(アルコール離脱・ベンゾ離脱を除く)。「とりあえず眠剤」で対応する前に、せん妄の可能性と背景を評価することが重要です。

4. スクリーニングと評価——「なんとなくおかしい」を言語化する

CAM(Confusion Assessment Method)の4項目

CAMは、せん妄の判定に広く使われる代表的な評価方法です(施設によっては4ATなど他のツールも用いられます)。

項目評価内容
① 急性発症・変動する経過いつもと違う精神状態の変化が急に起きたか。症状が変動するか
② 注意力の障害会話中に集中が続かない。質問に対して的外れな返答がある
③ 思考の混乱話のつじつまが合わない。まとまりのない会話
④ 意識レベルの変化過覚醒(興奮)または傾眠。通常と異なる覚醒状態

判定:①+②があり、さらに③または④がある場合、せん妄の可能性が高い

CAMのポイントは、①と②が必須であること。つまり、「急に変わった」+「注意力が落ちている」がせん妄の本質です。

Nu-DESC(看護師向けスクリーニング)

Nu-DESC(Nursing Delirium Screening Scale)は、看護師が日常のケアの中で使うことを前提としたスクリーニングツールです。5項目(見当識障害・不適切な行動・不適切なコミュニケーション・幻覚・精神運動遅延)を0〜2点で評価し、合計2点以上でせん妄を疑います。

日勤帯・夜勤帯ごとに評価でき、経時的な変化を追いやすいのが特徴です。

日常のケアの中で気づくポイント

スクリーニングツールを使わなくても、以下の変化に気づけることが大切です。

  • 昨日まで普通に会話できていたのに、今日はぼんやりしている
  • 話のつじつまが合わない(日時・場所を間違える)
  • 夜間に突然興奮した、または眠れなくなった
  • 点滴やモニターを気にして触る、落ち着かない
  • 食事量が急に減った、表情が乏しくなった

いずれも「いつもと違う」という変化に気づくことがスタートです。

5. せん妄への対応——原因への介入と環境調整

まず原因を探す

せん妄は原因のある病態です。「せん妄だからしかたない」ではなく、改善可能な原因を探して介入することが最も重要です。

  • 薬剤:新しく始めた薬・増量した薬はないか。ベンゾジアゼピン系・オピオイド・抗コリン薬
  • 感染症:発熱・CRP上昇・尿路感染・肺炎
  • 脱水・電解質異常:飲水量・尿量・血液データ
  • 疼痛:痛みの訴えがないか(低活動型では訴えられないことも)
  • 便秘・尿閉:排便状況・膀胱の緊満
  • 低酸素:SpO2の確認

非薬物的介入——環境を整えて自然に導く

非薬物的介入は、せん妄の予防にも対応にも有効です。患者さんの世界を否定するのではなく、環境を整えることで自然に落ち着ける方向に導く——いわば「ナッジ」的なアプローチです。

  • 見当識の支援:カレンダー・時計・家族の写真を見える位置に。日時や場所を穏やかに伝える
  • 光環境の調整:日中はカーテンを開けて明るく。夜間は暗く静かに。睡眠-覚醒リズムを整える
  • 早期離床:日中の活動量を確保し、昼夜逆転を防ぐ
  • 感覚の補助:眼鏡・補聴器を日中に装着してもらう
  • 安心できるコミュニケーション:ゆっくり、短い文で。患者さんの発言を否定しない
  • 家族の協力:馴染みのある声や存在が安心感につながる
  • 入院時の事前説明:リスクの高い患者さんとご家族に、せん妄が起こる可能性・一時的な状態であること・予防への協力(面会・日中の声掛け・馴染みの物の持参など)を事前に説明しておくと、発症時の動揺を軽減でき、予防的介入への協力も得やすくなる

薬物療法——看護師として知っておきたいポイント

薬物療法は医師の判断ですが、看護師として「なぜこの薬が出ているか」を理解しておくと、観察の視点が変わります。

薬剤主な使われ方
ハロペリドール(セレネース)等の抗精神病薬まず原因検索と非薬物的介入を行った上で、症状の緩和のために短期使用されることがある。過鎮静や錐体外路症状に注意して観察
ラメルテオン(ロゼレム)メラトニン受容体作動薬。睡眠-覚醒リズムの調整に用いられることがあるが、予防・治療効果の根拠は限定的。施設方針や主治医判断による使用にとどめるのが堅実
スボレキサント(ベルソムラ)オレキシン受容体拮抗薬。せん妄を悪化させにくい睡眠薬として用いられることがあるが、根拠は限定的。施設方針や主治医判断を基本とする

重要なのは、ベンゾジアゼピン系(デパス・レンドルミン等)は一般的なせん妄患者では第一選択にならないことです(症状を悪化させうるため)。ただしアルコール離脱・ベンゾジアゼピン離脱によるせん妄では例外的に第一選択となります。「眠れないから眠剤」の前に、せん妄の評価→背景の把握→医師への相談→適切な薬剤選択という流れを意識してください。

身体抑制をどう考えるか

せん妄の患者さんが点滴を抜こうとする、ベッドから降りようとする——こうした場面で身体抑制が選択されることがあります。

しかし、身体抑制はせん妄を悪化させる因子でもあります。抑制されることで興奮が増し、さらに抑制が必要になるという悪循環に陥ることがあります。

  • 抑制は最終手段であり、代替策を十分に検討した上で判断する
  • 抑制を行う場合は施設の手順に従い、定期的に再評価する
  • 「抑制しないためにどうするか」をチームで話し合うことが大切

報告例:夜勤帯でせん妄を発見したとき

報告例①:情報が薄い

「○○さんが暴れています。眠剤を使ってもいいですか?」

報告例②:文脈が伝わる

「○○さん、21時頃から急に落ち着かなくなり、点滴を触ろうとしています。日中は普通に会話できていましたが、今は話のつじつまが合いません。本日の手術から戻ってきた方で、せん妄の可能性を考えています。バイタルは安定しています。指示をいただけますか?」

報告のポイントは:「いつから」「何が変わったか」「せん妄の可能性」「バイタル」をセットで伝えることです。

6. チームで揃えたい判断基準

カンファレンスで話し合うべき3つの問い

1

せん妄リスクの高い患者を共有できているか?

入院時にリスク評価を行い、チームで共有する仕組みがあるか

2

「不穏」と「せん妄」を区別して記録しているか?

「不穏あり」で終わらせず、せん妄の評価(CAM等)を行っているか

3

対応がスタッフによってバラバラになっていないか?

ある人は「怒る」、ある人は「寄り添う」では患者さんが混乱する。関わり方の方針をチームで統一できているか

「せん妄だった」で終わらせない——振り返りの視点

せん妄が改善した後、「大変だったね」で終わっていないでしょうか。振り返りの視点を持つことで、次の予防につながります。

  • 原因は何だったか?(薬剤?感染?環境?)
  • 気づきのタイミングは適切だったか?(もっと早く気づけたか?)
  • 対応は統一できていたか?(スタッフ間でバラつきはなかったか?)
  • 予防的介入はできていたか?(リスク評価→事前介入の流れがあったか?)

よくある疑問 Q&A

Q: せん妄は治る?

A: 多くの場合、原因を除去すれば改善します。せん妄は認知症と違い、急性の病態です。原因(薬剤・感染・脱水など)に介入し、環境を整えることで数日〜数週間で改善することが多いです。ただし、高齢者や認知症のある方では回復に時間がかかることもあり、一部では認知機能の低下が残ることもあります。「どうしようもない」ではなく、「介入できる余地がある病態」として捉えることが大切です。

Q: 家族にどう説明する?

A: 家族は「急におかしくなった」「認知症が急に進んだ」と不安になることが多いです。説明のポイントは:一時的な状態であること(認知症が急に進んだのではない)、原因があること(手術後・薬の影響・感染など)、原因に対応すれば改善が見込めること、家族の存在が安心感につながること(面会・声掛けの協力をお願いする)。

Q: 夜だけ「おかしくなる」のはせん妄?

A: せん妄は夕方〜夜間に悪化しやすいことがあるという特徴があります。日中は比較的落ち着いているのに夜になると混乱する場合、せん妄の可能性を考えてください。ただし、「夜だけ不穏」の原因はせん妄以外にも睡眠障害や環境要因などがあるため、CAM等で評価した上で判断することが大切です。

まとめ

  • ✅ せん妄は注意・認知の急性変化(しばしば覚醒度変動を伴う)であり、「不穏」「認知症の悪化」とは異なる
  • ✅ 低活動型は見逃されやすい。「昨日と違う」変化に気づくことが鍵
  • ✅ 原因のある病態であり、薬剤・感染・脱水・疼痛などを探して介入する
  • ✅ 「とりあえず眠剤」ではなく、せん妄の可能性を評価してから対応する
  • ✅ 非薬物的介入(見当識支援・光環境・早期離床)をチームで統一する
  • ✅ 関わり方の方針をチームで共有し、スタッフ間のバラつきを防ぐ

せん妄は「大変だった」で終わらせるのではなく、予防・早期発見・原因介入・チームでの統一——この流れを整えることで、患者さんの安全と回復を支えることができます。

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参考・根拠

  • 日本サイコオンコロジー学会「がん患者におけるせん妄ガイドライン2022年版」
  • 日本クリティカルケア看護学会「せん妄ケアリスト(Ver.1)」(2020)
  • 国立がん研究センター DELTAプログラム(せん妄アセスメントシート)
  • Inouye SK, et al. (2014). Delirium in elderly people. Lancet, 383(9920), 911-922.
  • MSDマニュアル プロフェッショナル版「せん妄」
  • 看護roo!「せん妄を早期に発見するには、どんなアセスメントツールが有用?」
  • ナース専科「せん妄とは? せん妄の症状と看護」

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この記事を書いた人

臨床ナースラボ 管理者現役看護師

日々の臨床で感じた「これ、もっと早く知りたかった」をもとに、チームで判断を揃えるための知識とツールを作っています。