コミュニケーション

「不安で一歩が出ない患者さん」に届く——認知行動療法(CBT)のエッセンスを患者指導に活かす

2026-04-05

「先生に言われているのはわかってるんですけど、動くのが怖くて……」

「食事制限、頭ではわかってるんです。でも、どうしても続かなくて」

こうした言葉、患者さんから聞いたことはないでしょうか。知識は届いている。でも、行動が変わらない。そのギャップにどう関わればいいか、悩んだことがある人に知ってほしいのが「認知行動療法(CBT)」のエッセンスです。

ただし、この記事でお伝えするのは、CBTの理論・考え方を日常の声かけに活かすヒントであり、正式なCBT療法そのものではありません。CBTを専門的に実施するには臨床心理士などの専門家によるトレーニングが必要です。ここでは「CBTの発想を患者指導に応用する」という視点で読んでいただけると幸いです。

CBTは精神科や心療内科だけの領域ではありません。患者さんの「思考」と「行動」のつながりを理解することで、日常の看護場面での関わり方にも活かせる考え方です。

1. 認知行動療法(CBT)ってなに?——基本の考え方

思考・感情・行動はつながっている

CBTの核心は、「思考・感情・行動は互いに影響し合っている」という考え方です。たとえば、骨折後のリハビリを前にした患者さんを想像してみてください。

「動いたら、また骨が折れるかもしれない」(思考)

→ 怖い、不安(感情)

→ リハビリを避ける、ベッドで安静にしている(行動)

→ 筋力が落ちる、廃用が進む(結果)

→ 「やっぱり動けない」という確信がさらに強まる(思考が強化される)

この「悪循環」が定着してしまうと、知識を伝えるだけでは動き出せなくなります。CBTは、この循環のどこかに働きかけて、少しずつ別の流れをつくっていくアプローチです。

思考・感情・行動の悪循環サイクル図
思考・感情・行動は互いに影響し合い、悪循環をつくりやすい

CBTは「精神科だけのもの」ではない

「認知行動療法」と聞くと、「カウンセリング室で専門家がやるもの」というイメージを持つ人が多いかもしれません。確かにCBTは、うつ病・不安障害への治療効果が最も多くの研究で実証されている心理療法です(Hofmann et al., 2012)。うつ・不安障害への有効性は国際的にも広く認められており、多くのガイドラインで推奨されています。

しかし今日では、糖尿病・慢性疼痛・がん・心臓リハビリなど、身体疾患の患者指導にも広く応用されています。また、精神科領域では診療報酬として評価されており、医療現場での有効性が広く認められています。「精神科ではない病棟の私には関係ない」——その先入観を、まず手放してみてください。

2. なぜ看護師の患者指導にCBTが役立つのか

「知識を教えるだけ」では行動は変わらない

「患者さんの気持ちを尊重しているが、行動変容につなげられない」と感じている看護師は少なくありません。多くの看護師が感じているこのもどかしさは、知識や熱意の問題ではなく、関わり方のアプローチにあることが多いのです。

行動が変わらないのは、患者さんの意志が弱いからではありません。その行動の裏に、変わることへの恐怖・過去の失敗体験・自己効力感の低下など、「思考と感情のパターン」があることが多いのです。CBTは、そのパターンに気づき、少しずつほぐしていくための枠組みです。

患者さんのベッドサイドで話を聴く看護師のイラスト
まず「聴く」ことが、行動変容への最初の一歩

研究でわかっていること

CBTを取り入れた患者指導には、臨床的な根拠が積み上がっています。糖尿病患者へのCBTの効果を調べたメタ分析では、血糖コントロール(HbA1c)の改善だけでなく、抑うつ・不安の軽減、睡眠の質の向上まで報告されています(Li et al., 2023)。

また、整形外科領域では、慢性疼痛患者の「痛みへの破局的思考」(「この痛みは一生続く」「動いたらもっとひどくなる」など)に対してCBTが有効であることが示されています。「気持ちに働きかける」ことが、身体的な回復にも影響する——その事実は、現場での関わり方を変えるヒントになります。

3. 現場で使えるCBTのエッセンス

考え方のクセに気づく——「どうせ無理」をほぐす問いかけ

CBTでよく使われる概念に「認知の歪み」(考え方のクセ)があります。難しい言葉ですが、要は「現実よりも悲観的・極端な受け取り方をしてしまうパターン」のことです。

リハビリを怖がる患者さんによく見られる考え方のクセ:

  • ・「どうせ私は回復できない」——根拠なく最悪の結果を前提にする
  • ・「前回も失敗した、今回もダメだ」——過去の一例を全体に当てはめる

ここで大切なのは、この「歪み」を「違います、思い込みですよ」と否定しないことです。「思い込みですよ」という言葉は、患者さんにとって「あなたの感じていることは間違いだ」と聞こえることがあります。痛みは本物です。不安も本物です。それを否定されると、人は心を閉じてしまいます。

CBT的なアプローチは、「その気持ちはそうですよね」と受け止めた上で、別の視点を一緒に探すことです。

行動活性化——「小さな一歩」を一緒に設計する

CBTのもう一つの柱が「行動活性化」です。「まず動いてみる」ことで、気持ちや思考も変わっていくという考え方に基づいています。ポイントは、最初の一歩をとにかく小さくすること。

「リハビリをがんばりましょう」ではなく、「今日は5分だけ、ベッドの端に座ってみませんか」。「食事制限を守りましょう」ではなく、「今週、昼食のごはんを少しだけ減らしてみるのはどうでしょう」。

小さな成功体験が「できた」という感覚を生み、それが次の行動への自信につながります。

よくある誤解——「無理をさせることにならないか?」

「CBTって、患者さんの気持ちを否定して、無理やり動かすことでしょ?」

改めて確認しておきたいのは、CBTは症状や痛みを「気のせい」「思い込み」として否定しないということです。骨折後の痛みは本物です。CBTが働きかけるのは、その「痛みや症状への解釈」と「それに伴う行動パターン」です。患者さんの気持ちを尊重しながら、より良い方向を一緒に探す——それがCBTの本質です。

4. 会話例で見てみよう

場面①:「動いたら怖い」リハビリを避ける患者さん

大腿骨頸部骨折の術後。「また骨が折れそうで怖い」と消極的な患者さん。

NG例:気持ちを否定してしまう

看護師:「大丈夫ですよ、思い込みです。もっとやる気を出して、頑張らないと回復しませんよ」

→ 「思い込み」「頑張れ」という言葉は、責められているように聞こえやすい。心を閉じてしまうことも。

OK例:気持ちを受け止めた上で、別の視点を届ける

※この会話は医師・理学療法士の方針や疼痛評価を踏まえた上で行うものです。動いてよいかの判断はチームで確認してから関わります。

看護師:「動くのが怖いというお気持ち、そうですよね。手術したばかりだし、当然だと思います。」

「少し聞いてもらってもいいですか?実は、ずっと安静にしていると筋肉がどんどん落ちてしまって、逆に転びやすくなってしまうことがあるんです。特に高齢の方は、筋力が落ちるのはあっという間なんですが、戻すには何倍もの時間がかかってしまって。だから、怖いお気持ちはわかりつつ、少しだけ動くことが、実は○○さんを守ることにつながるんです。今日は、ベッドの端に5分座るだけでいいので、一緒にやってみませんか?」

→ まず感情を受け止め、根拠のある情報を添えて「小さな一歩」を提案。「あなたを守るための行動」というフレームが、動く理由をつくります。

NG/OK会話シーンの対比イラスト
左(NG):否定された患者さんは心を閉じる。右(OK):受け止められると、患者さんは前向きになれる

場面②:「どうせ私には無理」食事管理が続かない患者さん

糖尿病の外来フォロー中。「食事制限は頭でわかってるけど、どうせ続かない」と繰り返す患者さん。

NG例:正しいことを繰り返し伝える

看護師:「食べすぎはよくないって、前回もお伝えしましたよね。ちゃんとHbA1cを下げないと、合併症のリスクが上がりますよ。もっとしっかり意識してください」

→ 情報は正しい。でも「どうせ無理」という気持ちには一切触れていません。責められているように感じると、次回の受診を避けることも。

OK例:「どうせ無理」の背景を一緒に探る

看護師:「続かないって感じるんですね。正直に話してくれてありがとうございます。少し聞いてもいいですか?これまでに、うまくできた日はありましたか?」

患者さん:「……お昼だけは、まあまあ気をつけてたかな」

看護師:「そうなんですね!お昼は気をつけられていた。じゃあ、今週はお昼だけ続けてみるのはどうでしょう?夕食はとりあえず今まで通りでいい。お昼だけ。それならできそうですか?」

→ 「どうせ無理」を否定せず、「できていたこと」を一緒に見つける。目標を極限まで小さくし、「できそう」という感覚を引き出しています。

5. まとめ——CBTは「聴き方と問いかけ」を変えるスキル

ナースステーションでチームが情報共有しているイラスト
CBTのアプローチはチームで共有されてこそ効果が出る

この記事でお伝えしてきたのは、CBTの「考え方」を声かけに応用するヒントです。正式なCBTは専門家が実施するものですが、その発想——「気持ちを否定しない」「別の視点を一緒に探す」「小さな一歩を設計する」——は、日常の看護でも活かすことができます。その考え方を知っているだけで、声かけの質は変わります。

「思い込みですよ」の一言を飲み込んで、「そうですよね、怖いですよね」と受け止めることから始める。そこから、患者さんとの関係性と、少しずつ変わっていく行動が生まれます。

ひとつ注意しておきたいのは、CBTのアプローチはチームで共有されてこそ効果が出るということです。ある看護師が丁寧に関わっても、別のスタッフが「そんな思い込みで……」と言ってしまうと、積み上げたものが崩れてしまうことがあります。チーム全体でこの考え方を育てていくことが、患者さんの回復を支える土台になります。

まず、明日の一場面から。「そうですよね」のひと言から試してみませんか。

参考文献

  • Hofmann SG, et al. (2012). The efficacy of cognitive behavioral therapy: A review of meta-analyses. Cognitive Therapy and Research, 36(5), 427–440.
  • Li C, et al. (2023). The short- and long-term effects of cognitive behavioral therapy on the glycemic control of diabetic patients: a systematic review and meta-analysis. BMC Psychiatry.
  • 日本認知療法・認知行動療法学会(JACT)「認知行動療法の共通基盤マニュアル」(2023).
  • 厚生労働省「うつ病の認知療法・認知行動療法 治療者用マニュアル」.
  • 精神看護学会シンポジウム(2019)「看護師でもできること、看護師だからできること」.

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この記事を書いた人

臨床ナースラボ 管理者現役看護師

日々の臨床で感じた「これ、もっと早く知りたかった」をもとに、チームで判断を揃えるための知識とツールを作っています。