採血の手技とコツ|血管選びから困難血管への対応まで
2026-04-15
この記事でわかること
- ✓血管の選び方——なぜその血管を選ぶのか、解剖学的根拠とともに
- ✓採血の手順と、成功率を上げるためのコツ
- ✓困難血管への対応と、よくあるトラブルの対処法
「採血、苦手なんです」——こう感じている看護師は少なくありません。
でも、採血が上手い人を見ていると気づくことがあります。刺すのが上手いのではなく、刺す前の準備が丁寧なのです。
1. 「上手い人」は何が違うのか
採血の成功率を左右するのは、穿刺の瞬間の技術だけではありません。
上手い人ほど、準備と血管選びに時間をかけています。
逆に、焦って「とりあえず見えた血管に刺す」と失敗しやすい。血管を丁寧に探し、患者さんのポジショニングを整え、「ここなら採れる」と確信を持ってから穿刺する——この刺す前の工程が、採血の成否の大部分を左右すると言っても過言ではありません。
2. 血管の選び方——解剖を知って「見て、触って」選ぶ
第一選択:肘正中皮静脈とその理由
採血の第一選択は、肘窩(肘の内側)の肘正中皮静脈です(JCCLS標準採血法ガイドライン)。
この血管が第一選択である理由:
- 比較的太く、固定しやすい——穿刺の成功率が高い
- 皮膚表面に近い——視認・触知しやすい
- 深部の動脈や神経から距離がある——安全性が高い
肘正中皮静脈は、橈側皮静脈と尺側皮静脈をつなぐ吻合枝で、肘窩のほぼ中央を走行しています。
代替血管:橈側皮静脈・尺側皮静脈・前腕の静脈
肘正中皮静脈が確認できない場合の代替血管:
- 橈側皮静脈(親指側):肘正中皮静脈の次に選ばれることが多い。比較的太く、弾力がある。ただし、動きやすいため固定をしっかり行う。
- 尺側皮静脈(小指側):太い血管だが、近くに内側前腕皮神経が走行しており、神経損傷のリスクがやや高い。穿刺時は慎重に。
- 前腕の皮静脈:肘窩で適切な血管が見つからない場合に選択。ただし、末梢にいくほど血管は細くなり、痛みも強くなる傾向がある。
手背の静脈は見えやすいですが、痛みが強く、血管も細いため、他に選択肢がない場合に限ります。
避けるべき部位とその理由
⚠️ 以下の部位での採血は避けます:
- シャント(透析用)のある側の腕——シャントの閉塞リスク
- 麻痺側の腕——循環不良、感覚障害で痛みの訴えができない
- 点滴・輸液中の腕——輸液の成分が検査値に影響する
- 乳房切除術後のリンパ節郭清側——リンパ浮腫のリスク
- 皮膚に感染・炎症がある部位——感染拡大・炎症増強のリスク
神経損傷のリスク——解剖学的に注意すべきポイント
採血で最も避けたい合併症の一つが神経損傷です。
肘窩には、正中神経や内側前腕皮神経が走行しています。特に注意すべきは:
- 肘窩の内側(尺側):内側前腕皮神経が浅いところを走行しており、損傷リスクが高い
- 深い穿刺:表在静脈を超えて深く刺すと、深部を走行する正中神経に到達する可能性がある
患者さんが穿刺時に電撃様の痛み(ビリッとした痛み)やしびれを訴えた場合は、直ちに抜針してください。「もう少しで入る」と思っても、神経損傷のリスクがある場合は中止が最優先です。

3. 採血の手順——準備から止血まで
必要物品の準備
- 採血管(指示に応じた種類・本数)
- 駆血帯
- アルコール綿(消毒綿)
- 採血針(真空管採血の場合はホルダー付き、シリンジ採血の場合はシリンジ)
- 翼状針(必要に応じて)
- 絆創膏・止血テープ
- 手袋(標準予防策)
- 廃棄用シャープスコンテナ
患者確認と説明
- フルネームで患者確認(リストバンド照合)
- 採血の目的を簡潔に説明
- アレルギー(消毒薬・テープ)の確認
- 「少しチクッとしますが、すぐ終わりますね」——痛みへの声掛けは、穿刺の直前に短く伝える
駆血帯の巻き方と適切な位置
- 穿刺部位の7〜10cm上方(中枢側)に巻く
- 強すぎず、弱すぎず——指1本が入る程度の圧で、静脈のうっ血を促す
- 駆血帯を巻いたら2分以内に採血を終える。長時間の駆血は、うっ血による検査値への影響(カリウム上昇など)や溶血(赤血球が壊れて内容物が漏れ出し、検査値に影響を与える現象)の原因になる(JCCLS)
手指衛生と手袋着用
穿刺部位を決めたら、手指衛生を行い、手袋を着用します(WHO Guidelines on Drawing Blood)。採血は血液に触れる手技であり、標準予防策として手袋の着用は必須です。
消毒と穿刺
- アルコール綿で穿刺部位を消毒し、必ず乾いてから穿刺する(後述「昔はOK、今はNG」参照)
- 穿刺角度は皮膚に対して15〜30度
- 皮膚を穿刺部位の下方に引っ張り、皮膚と血管を固定してから刺す
- 躊躇せず、スムーズに刺入する——ゆっくり刺すと血管が逃げやすい
採血管への分注と順番
真空管採血の場合、採血管を差し込む順番には理由があります。
一般的な順番(JCCLS推奨):
① 血液培養ボトル
無菌操作が最優先
② 凝固検査用
クエン酸ナトリウム入り
③ 血沈用
④ 血清分離用
プレーン管
⑤ ヘパリン入り
⑥ EDTA入り
⑦ 血糖用
フッ化ナトリウム入り
翼状針で凝固管が最初の採血管になる場合は、チューブ内の死腔(デッドスペース)による血液量不足を防ぐため、ダミー管(捨て管)を先に採取する場合があります(施設のプロトコルを確認してください)。
※施設によって順番が異なる場合があります。必ず施設のプロトコルを確認してください。
この順番の主な理由は、添加剤のコンタミネーション(交差混入)を防ぐためです。例えば、EDTA管の後に凝固管を採ると、EDTAが混入して凝固検査の値が影響を受ける可能性があります。
また、添加剤入りの採血管(凝固・EDTA・血糖用など)は、採血後に速やかに転倒混和(5〜10回程度、静かに上下を返す)を行い、血液と添加剤を十分に混合させてください。混和が不十分だと、凝固や溶血が起こり検査結果に影響します。激しく振るのはNG——溶血の原因になります。
抜針と止血
- 採血完了後、駆血帯を先に外してから抜針する(駆血帯をしたまま抜くと内出血のリスクが高まる)
- 抜針後、穿刺部位に乾いたガーゼや清潔な綿球を当て、5分以上しっかり圧迫止血する(アルコール綿は刺激や疼痛につながるため、圧迫には乾いたものを使用する)
- 揉まない——揉むと内出血を悪化させる
- 抗凝固薬を服用中の患者さんは、止血に時間がかかるため10分以上の圧迫が必要な場合がある
4. 成功率を上げるコツ——穿刺前にできること
血管を怒張させるテクニック
血管が見えにくい・触れにくい場合は、以下の方法で怒張を促します。
- 腕を下げる:心臓より低い位置に腕を下ろしてもらう。重力で血液が末梢に集まる。
- 温める:蒸しタオルやカイロで前腕を温める。血管が拡張して浮き出やすくなる。
- 握ってもらう:親指を中にして軽く握ってもらう(クレンチング)。ただし、何度も強く握り返す動作(ポンピング)はカリウム値の上昇につながるため避ける。
血管が逃げるときの固定方法
弾力があって動きやすい血管は、穿刺時に横に逃げてしまうことがあります。
- 穿刺部位の下方(末梢側)の皮膚を、利き手と反対の親指でしっかり引っ張る
- 皮膚を伸展させることで、血管も一緒に固定される
- 「押さえる」よりも「引っ張る」がポイント——血管を圧迫して潰さないように
穿刺角度と刺入のスピード
- 角度は15〜30度が基本。浅い血管なら15度に近く、やや深い血管なら30度に近く。
- 躊躇なく、スムーズに刺す。ゆっくり刺すと血管が逃げやすく、患者さんの苦痛も増す。
- 逆血(フラッシュバック)を確認したら、角度をやや寝かせて少しだけ針を進める。

5. 困難血管への対応——それでも採れないとき
高齢者の脆弱な血管
高齢者は血管壁が薄く、弾力が低下しています。
- 駆血帯はゆるめに巻く——強く巻くと血管が破れやすい
- 穿刺角度は浅めに(10〜15度)
- 翼状針を使うと、針が安定しやすく脆い血管にも対応しやすい
- 皮膚を引っ張りすぎない——皮膚も脆弱なため
肥満患者の深い血管
皮下脂肪が厚いと、血管が深く視認しにくくなります。
- 「見る」より「触る」が重要——目で見えなくても、指で触れば弾力のある血管を見つけられる
- 駆血帯をしっかり巻き、触知で血管の走行をたどる
- 穿刺角度はやや深め(25〜30度)に調整する
浮腫がある患者
浮腫がある腕では、血管が組織液に埋もれて触知しにくくなります。
- 腕を心臓より高い位置に挙上して、しばらく浮腫を軽減させてから駆血帯を巻く
- 浮腫の部位を避け、比較的浮腫が少ない部位を選ぶ
血管が細い・見えない患者
- 温めることが最も効果的——血管径が拡張する
- 複数の部位を触知して比較し、最も弾力があり固定しやすい血管を選ぶ
- 手背も含めて広く探す
それでも難しいとき——交代・エコー下穿刺という選択肢
困難血管で何度も穿刺を試みることは、患者さんの苦痛と内出血のリスクを増やすだけです。
- 2回穿刺して採れなければ、他のスタッフに交代するのが望ましい(施設のルールを確認)
- 近年はエコー(超音波)ガイド下での採血も広がりつつある
- 「交代すること=失敗」ではなく、患者さんの安全と苦痛を最優先する判断です
6. 「昔はOK、今はNG」——見直された手技
採血の手技には、かつては一般的だったが現在では推奨されない方法があります。根拠の更新とともに確認しておきましょう。
皮膚を叩いて怒張させる
以前は、血管を出すために前腕を「パンパン」と叩くことがありました。しかし、皮下出血や疼痛、不要な刺激を与えるリスクがあるため、現在は推奨されていません。血管を怒張させるには、温める・下げる・握ってもらうなどの方法を用います。
駆血帯をきつく長時間巻く
「しっかり巻いた方が血管が出る」と思いがちですが、きつすぎる駆血は動脈血の流入も妨げ、かえって静脈の怒張が不十分になります。駆血帯の圧は、静脈圧より高く動脈圧より低い強さが望ましく、目安は指1本が入る程度です。また、長時間(2分以上)の駆血は、カリウムや乳酸の上昇など検査値に影響を与えることが報告されています(JCCLS)。できるだけ短時間で。
アルコール綿が乾く前に穿刺する
消毒後、アルコールが乾く前に穿刺すると、消毒効果が不十分になるほか、溶血の可能性も指摘されています。また、アルコールが針先について血管内に入ると、痛みを増強させる可能性もあります。消毒後は必ず乾燥を確認してから穿刺してください(施設基準に従ってください)。
穿刺後に針の向きを大きく変える
血液が出てこないとき、針を皮下で大きく動かして血管を探す(ブラインドプローブ)のは危険です。血管壁の損傷や神経損傷のリスクが高まります。血液が出なかった場合は、針を少し引き戻して角度を微調整する程度にとどめ、それでも採れなければ一度抜針して別の部位で穿刺し直すのが安全です。
7. よくあるトラブルと対処
血液が出てこない(針先の位置調整)
穿刺したのに血液が出ない場合、原因としては:
- 針先が血管に到達していない(浅すぎる)→ 角度を維持したまま少しだけ進める
- 針先が血管を貫通している(深すぎる)→ 少しだけ引き戻す
- 針先が血管壁に当たっている(ベベルが壁に密着)→ 針を軽く回転させてみる
いずれの場合も、大きく動かさず、微調整にとどめることが原則です。
内出血(原因と予防)
内出血は、採血後のクレームで最も多いトラブルです。
主な原因:
- 抜針後の圧迫不足(時間が短い、圧が弱い)
- 駆血帯をしたまま抜針した
- 抜針後に揉んでしまった
- 抗凝固薬を服用中の患者さん
予防のポイント:
- 駆血帯を先に外してから抜針する
- 5分以上のしっかりした圧迫(患者さん自身に押さえてもらう場合は、力が弱くないか確認する)
- 「揉まないでくださいね」と必ず伝える
溶血(原因と予防)
溶血は、赤血球が壊れて検査値に影響を与える現象です。
主な原因:
- 細すぎる針を使った
- 強い陰圧をかけた(シリンジの引きが強すぎる)
- アルコール未乾燥のまま穿刺した(消毒不十分や疼痛の原因になりうる。溶血との関連は文献差がある)
- 採血管への分注時に勢いよく注入した
予防のポイント:
- 適切な太さの針を使用する(通常21〜22G)
- シリンジ採血の場合、ゆっくり引く
- 分注時は採血管の壁に沿わせてゆっくり注入する
患者さんが気分不良になったとき(迷走神経反射)
採血中や採血後に、患者さんが顔面蒼白、冷汗、気分不良を訴えた場合、迷走神経反射(血管迷走神経反応:VVR)の可能性があります。
対応:
- 直ちに採血を中止する(まだ穿刺中の場合は安全に抜針)
- 患者さんを仰臥位にする(可能であれば下肢を挙上)
- バイタルサインを確認する
- 意識消失がある場合は応援を呼ぶ
- 採血前に「前に採血で気分が悪くなったことはありますか?」と確認しておくことで、リスクの高い患者さんを事前に把握できる
8. よくある疑問 Q&A
Q: 採血管の順番はなぜ決まっている?
A: 主な理由は添加剤のコンタミネーション(交差混入)を防ぐためです。各採血管には異なる添加剤が入っており、前の管の添加剤が次の管に混入すると検査値に影響します。例えば、EDTA(紫の管)の後に凝固管(水色)を採ると、EDTAがカルシウムを捕まえてしまい(キレート作用)、凝固検査が正しく行えなくなります。
Q: 駆血帯は何分まで巻いていい?
A: JCCLSのガイドラインでは、2分以内が推奨されています。それ以上の駆血は、うっ血によるカリウムや乳酸の上昇、血液濃縮などで検査値に影響を与える可能性があります。血管が見つからない場合は、一度駆血帯を外してから再度巻き直してください。
Q: 翼状針と直針、どう使い分ける?
A: 翼状針は、翼(羽のような部分)を持つことで針が安定し、細い血管や脆い血管、動きやすい血管に適しています。高齢者や小児、手背からの採血でよく使われます。直針(ストレート針)は、真空管ホルダーに直接つけて使い、太い安定した血管への穿刺に適しています。一般的には、肘窩の太い血管には直針、それ以外では翼状針が選ばれることが多いです。
Q: 失敗したとき、何回まで刺し直していい?
A: 明確な規定はありませんが、一般的に同一患者に対して2回穿刺しても採血できない場合は、他のスタッフに交代するのが望ましいとされています。施設のルールを確認してください。何回も穿刺を試みることは、患者さんの苦痛と合併症のリスクを増やします。交代することは失敗ではなく、患者さんの安全を守る判断です。
Q: 規定の血液量が採れなかった場合はどうする?
A: 採血管には検査に必要な血液量(規定量)が設定されています。規定量に満たない場合、特に凝固検査(クエン酸ナトリウム管)は血液と添加剤の比率が変わるため、検査結果が正確に出ない可能性があります。一方、血算(EDTA管)や生化学(血清管)は多少の不足であれば検査可能な場合もあります。規定量に満たなかった場合は、自己判断で検体を提出せず、検査部門に確認するのが安全です。どの検査を優先するかは医師に確認してください。
Q: 採血と末梢静脈路確保、血管の選び方は同じ?
A: 基本的な考え方(太く、弾力があり、固定しやすい血管を選ぶ)は共通ですが、いくつか違いがあります。採血は一時的な穿刺なので肘窩が第一選択ですが、末梢静脈路確保は留置するため、関節をまたぐ肘窩は避け、前腕の直線的な血管が好まれます。詳しくはも参照してください。
9. まとめ——準備と血管選びが成否を左右する
採血の成功率は、穿刺の瞬間ではなく、その前の準備で決まります。
- 血管選びに時間をかける——「見て、触って」、最適な血管を選ぶ
- 解剖を理解する——なぜその血管を選ぶのか、どこにリスクがあるのかを知る
- 患者さんのポジショニングを整える——腕の位置、角度、温め
- 「昔はOK、今はNG」を知る——根拠に基づいた手技にアップデートする
- 無理をしない——2回で採れなければ交代する。それは患者さんを守る判断
「上手い人」は、特別な才能があるわけではありません。準備を丁寧にしている人です。
参考・根拠
- 日本臨床検査標準協議会(JCCLS):標準採血法ガイドライン GP4-A3(採血部位の選択・駆血時間・採血管順序の根拠)
- WHO Guidelines on Drawing Blood: Best Practices in Phlebotomy. 2010.(採血の安全管理・手順の国際標準)
- 日本看護技術学会:採血に関する技術ガイダンス
- ナース専科:採血の手順・方法・コツ(https://knowledge.nurse-senka.jp/213053/)
- 看護roo!:採血の手順と注意点(https://www.kango-roo.com/learning/5595/)
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この記事を書いた人
臨床ナースラボ 管理者現役看護師
日々の臨床で感じた「これ、もっと早く知りたかった」をもとに、チームで判断を揃えるための知識とツールを作っています。